個人企画に参加してみた ①と②それと③ +バンダナコミック01作品
菊池の門を叩いたのは────あなたよ
私‥‥菊池繁美は、つわもの揃いで有名な菊池の門をくぐる事になった。門の先で待ち構えるのは、各部門別トーナメントで名を馳せた菊池の猛者ばかり。
「言っておくけど菊池の門って、おしりじゃないわよ。私──下ネタ嫌いなのよ。貴女が女性で良かったわ」
噂に違わず入って早々、門人に先制の言葉を投げかけられた。青い顎髭がうっすら浮かぶ筋骨隆々な逞しい菊池先輩。いきなりボスゴリ……門番の壁にぶつかったよ。
────正直、色々と怖い。
なんで私はここにいるのか、自分でも分からない。隣の芝が青く見えるように、隣の菊池が楽しく見えただけなのかもしれない。
いや違うわ。怖いと思いながらも、私が一番菊池をうまく菊池にしていることを──菊池が好きなのだと見せたいだけなのだ。
私の人生で関わった菊池は辛うじて二桁を超える程度。たかが十数人の菊池を知っただけで、菊池を名乗るなんて烏滸がましいと自分でも感じている。
でもね──私が出会った菊池のバリエーションは、豊富なはずなの。
小学生高学年の時に出会った妹のような菊池は、人懐っこくて実の妹よりも愛らしかった。お母さんも眼鏡美人で、まさに人妻の鑑のような菊池さんだった。
愛らしかった娘はチャラ男に騙され膨らんだ。結婚して菊池の姓を失ってから、坂を転がるように落ちぶれていった。彼女達のおかげで、菊池の力について知る事が出来た。名は力──信じる菊池は救われる。
次の菊池は高校生の角刈りの菊池男子だ。帰宅部なのにアタックばりの角刈り。帰宅部なのに、細マッチョで喧嘩っ早い。
まあ‥‥ワンパンで倒しましたが、何か? 角刈りに謝ってほしいレベルの菊池だった。菊池の名を語るには、十年早いのよ。ん〜〜っ今思い返すと、あれは告白だったのかしら。
大学生になって出会った菊池はヤバかった。菊池の癖に柿の種を貪り食うの。それは別にいいのか。毎日徳用パックを二袋は食べていたのは流石に引いた。
社会人になると、菊池との遭遇率は格段に上がった。それでも出会えた菊池は十人程。菊池の神の想像力を頂いて、省略するとするわ。親愛なる菊池をモブ扱いする私を許してほしい。
────私が思うより世の中は広かった。古池に飛び込むのは蛙だけど‥‥菊池はね、お池に菊の花びらを浮かべるの。菊月は沈んでも、菊池は浮かび続ける。
「あなた全然駄目じゃない。菊池の名前を利用して意味深に言葉を並べた所で、ここにいない菊池の同志達に響かなければ無意味なのよ」
そうだ、ここは菊池の門。ただの菊池が集まっているのではない。我こそが菊池だと、豪語してやまないくらい自信に満ち溢れた菊池が集まる場なのだ。
絞り出した知恵も工夫も、あっさりと破られ上を行かれる。だから菊池の門を叩いた以上、誰よりも強く大きく叫ぶしかないのよ。
「────私が一番、菊っちを愛してます!!」
大事な菊池の名に力が入るあまり、噛んだ。やめて、まだ話は終わらないの。つまらない落ちだからっておしりを蹴らないで……!
──ドボンッ!(……Take1)
押すなよってアレじゃないのに、ノリの良い菊池達に落とされた。
私が水に落ちても、菊池だから浮かぶ。地べたを這いつくばろうと菊池は菊池。そしてこんな私、菊池繁美でも菊池の門は門戸を開いてくれる。
そう、菊池の門は誰にでも開いているの。ひしめく猛者達も結局は同じ菊池に過ぎない。だから菊池の門はあなたをきっと歓迎してくれるでしょう。
──ドボンッ!!(……Take2)
酷い。締めの言葉に相応しくないからと、また落とされたわ。
────菊池の門、それは修羅の集まり。菊池の文字に飢えた、脳を菊池に魅せられた侍たち。文字を刃と化して、今日も菊池の徒として切磋琢磨するのだった。
──ドボンッ!!!(……Take3)
いや、マジ無理だって。素人新人の菊池に何故そんな過度な期待を出来るかな。水が滴るいい菊池は、菊池の中の菊池。
そしてさっき述べたように、浮かぶのが菊池流。でもね菊池にも沈みたい気分の時もあるの。
沈みたいのに沈めない。菊池の門は‥‥菊池の言葉には、そんな魅力が込められている。浮かんでも消えないのがありふれた菊池。菊池パワーは凄いのです。
菊池、菊池と十回唱えれば何か起こるかもしれません。みなさんも素敵な菊池に変身してみませんか?
お読みいただきありがとうございます。菊池祭り参加作品となっています。
作品のモチーフは某格闘漫画と、某通販番組風のノリになっています。ドボンの文字を「なんと今なら‥‥」に置き換えあーだこーだおまけ付ける感じですね。