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仮面士

 再び布袋を被された僕は、ロゼさんに手を引かれて、仮面を扱うお店に訪れた。お店に着き、被っていた布を取ると、周りを囲む壁に仮面が隙間なく飾られていた。シンプルなデザインや、何かの動物の毛皮を使った仮面、近未来的な仮面等、多種多様だ。


「えっと、この中から選ぶんですか?」


「これはあくまで見本だよ。仮面は本人の顔を見て、仮面士が一から作るんだ。私の仮面もここで作ってもらったんだ」


「仮面士?」


 聞いた事も無い役職に疑問を抱いていると、店の奥の二つの穴から、長い二本の腕が伸び出してきた。僕と同じ人間のような肌をした腕だが、人間ではないのだろう。

 正直、この非現実的なノストラムに少し慣れてきた。驚く事はあっても、それを否定せずに受け入れられる。

  

「彼女、もしくは彼が仮面士だよ」


「男か女か分からないんですか?」


「うん。だって、性別を見分ける為の特徴が無いからね」


「そうですか。それで、僕はどうすれば?」


「仮面士の手が届く距離まで近付けばいいよ。でも近付くのは手が届く距離まで。それ以上、肘から先の場所に立っちゃ駄目。材料にされるから」


 仮面を着けている所為でロゼさんの表情は見えないが、声色から冗談ではない事が察せられる。僕は手招きをしている仮面士へと近付いていく。予め危険地帯を知らされていれば、怖いものなんてない。

 そうして、僕が仮面士の手が届く所まで近付くと、仮面士が僕の顔に掴みかかり、顔の大きさや形、目や鼻や口や耳のパーツの位置を手探り始めた。仮面士の指が目に入らないか心配だったが、傷付けないよう優しく触ってくれるおかげで杞憂で済んだ。

 触り続けられて3分程経った頃、測り終えた仮面士は腕を穴の中へと引っ込めていった。


「これでサイズ確認は完了。後は仮面士がミツキの仮面を作り終えるのを待つだけ」


「デザインの希望は聞かない感じなんですね」


「職人だからね」


「仮面を受け取る時はどうすればいいんですか?」


「今腕が出てきた穴の下に、引き出しがあるんだ。作り終えた仮面はその中に入れられてるよ。出来上がったらベルが鳴るから」


 今更だが、異形が住む世界でも職人がいるんだ。こういうお店が町には一杯あって、それぞれ特化した分野のお店で商売をしているのかな? そうだとしたら、ノストラムも僕がいた人間達の世界とあんまり変わらない。姿形が違うだけで、異形も僕達人間と同じく生きているのだから、当たり前と言えば当たり前か。 


「……そういえば、どうして仮面が必要なんですか?」


「本当に今更だね? そっか、説明がまだだったもんね。ノストラムには、多くの種族が生きている。今私達がいる町のように他種族が集まっている所や、その種族だけが生活している村。交流を求める者とそうでない者もいるからね。私は慣れちゃったけど、やっぱり自分とは見た目の違う種族と会うのは違和感とか嫌悪感が出るものなんだ」


「だから、仮面が必要なんですね? 種族を隠す為に」


「そういう事」


「でも、顔を隠しただけで誤魔化せるものなんですか? 顔だけでなく、体の方も違いが出ていると思いますけど」


「普通の仮面はそうだろうね。でも仮面士が作った仮面は、他種族からの目を誤魔化す魔法がかけられている」


「魔法……?」


 異形の見た目に慣れ始めた所に、新たな非現実的な情報が出てきた。ロゼさんの話が本当なら、ノストラムの世界には魔法が存在するようだ。元いた世界だと魔法なんてフィクションの中、しかも設定や内容も違う。フィクションとして認識してきたものを急に信じる程、僕は単純じゃない。

 

「試しに私が見せてあげようか? 簡単な魔法だけど」


「糸で吊り下げた浮遊マジックとかは無しですよ?」


 口では冗談を言いつつも、内心楽しみであった。もしロゼさんが本当に魔法を使えるのだとしたら、ノストラムの世界に楽しみが増える事になる。それに少なくとも現代人からしたら、僕は初めて魔法を目にする人物になる。ニヤける口元を手で隠しながら、僕はロゼさんが魔法を使う瞬間を待ちわびた。

 すると、ロゼさんは僕の頭の上に手を置いた。何をするのかと考えていた時、僕は違和感を覚えた。分かり易過ぎて、逆に分かりにくい違和感だ。


「……僕が、見上げてる?」


 僕の視界に映るのは、困惑した表情で見上げている僕だった。見上げている顔の向きと角度から、視界に映る僕が何を見ているのかを考えるに、ロゼさんの顔だ。


「今ミツキが見ている視界は、私が見ているもの。ミツキは今、私の視界とリンクしている」


「……どうやって」


「目で見ている生物には脳があって、目で捉えた情報を脳に伝達して映像を流す仕組みなの。その伝達している情報に私がお邪魔して、ミツキが脳に伝えようとしている情報を私の情報に移し替えている。名付ければ、視界リンク……まぁ、そんな安直な名前の魔法だよ」 


「これの、利点は?」


「利点? う~ん、私っていつも一人で行動するから、この魔法全然使わないから。利点、利点か……私が見る事が出来る景色の造形は、多分ミツキよりも鮮明で遠くまで見る事が出来るから、それが利点かな?」


 確かに、僕の視力では少しボヤけて見えていた視界が鮮明に見えている。それに今は遠くを見る必要が無いから確かめられないが、人間が道具を使ってようやく見える距離も、鮮明に見る事が出来るだろう。

 まるで人口双眼鏡だ……いや、双眼鏡は元々人工物に分類される物か。何にせよ、凄い能力だ。魔法と言われればピンと来ないが、それでも凄い事に変わりない。


「どう? ご期待に応えられた?」


「もちろんです。おかげで久しぶりに自分の姿を見れましたよ。ロゼさんから見たら、僕ってチビですね」


「チビ?」


「小さいという意味です。僕の世界じゃ、僕みたいな背の小さい人を指す悪口です」


「わざわざ分けてるんだね。どうして人間には、悪口があるの?」 


「どうしてって……それは……優越感を感じたい、から?」


「ふーん。人間は小さい大きいにこだわるんだね。変わってる」


「……まぁ、それだけじゃないですけどね」


 僕が言った事を理解出来ないのか、ロゼさんは首を傾げた。どうして悪口があるのかなんて、考えもしなかったな。優越感を感じたい、なんて理由を出したけど、実際何で悪口なんてものがあるのかは僕にだって分からない。

 僕の頭の中で【それが人間だから】という言葉が浮かんだ。理由も証拠も無いが、妙にしっくり来る。そういう考えが浮かぶ時点で、僕も人間なんだ。

 勝手に少し嫌な気持ちになっていると、ベルの音が店中に響き渡った。どうやら僕の仮面が出来たようだ。僕は仮面士が出てきた二つの穴の下にあるはずの引き出しを手探りで探していき、指が引っ掛かる壁を見つけ出した。

 引き出しを引いてみると、中には仮面が入っていた。鳥のクチバシのような口と、楕円形に開けられた目の部分は黒い布で相手から目が見えないようになっている。本で見たペストマスクに近い見た目だ。


「これが、僕の仮面……」


「着けてみて」


 仮面を顔に当てると、留め具も無いはずの仮面が顔にくっついた。一瞬焦ったが、手で少し引っ張ると、容易に外す事が出来る。


「どうですか? 僕はどう見えますか?」


 僕はもう一度仮面を着け、ロゼさんに感想を聞いてみた。


「似合ってるよ!」


「そうじゃなくて、僕が人間に見えるか見えないかですよ」 


「あー……ごめん。ミツキの顔も、ミツキが人間だって事も知ってるから、仮面の魔法が意味を為してないや! アッハハハ!」

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