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春を失った

 僕は春に東京へ行く。この雪が溶けて無くった頃には、僕はこの町にはいない。雪に残った僕の足跡も、何も無い雪景色も、サヤとの思い出も……みんな、春には消え去ってしまう。

 

「……ずっと、冬が続けばいいのに」


 降り落ちる雪を手で迎え入れると、手の平に雪が乗り、すぐに溶けて水になった。まるで僕が呟いた言葉を否定しているようだ。

 

「……どうして、こうなっちゃったんだろう」


 今日の僕は、よく口から後悔が漏れ出す。春はまだ先なのに、どうして今日はこんなにも悲しい気持ちになってるんだろう。

 きっと理由は、あの写真だ。携帯を何気なく見て、適当に友達のブログなんかを閲覧して、そしてサヤの写真を見てしまった。何気ない日常のワンシーンを写し出した一枚。サヤと、サヤの友達と思わしき人達が一緒に写った写真。みんな、嬉しそうに、楽しそうに笑っている写真。

 サヤとは幼い頃からの友達だった。まだ言葉も上手く発せない頃から一緒にいて、小学の時も常に一緒にいた。中学になると、サヤは親の都合で転校になった。一緒にいられなくなっちゃったけど、携帯電話を使って繋がる事は出来た。電話越しに聞こえるサヤの声や、メールで送られてくるサヤが打ち込んだ文字。サヤが語る嬉しかった事、悲しかった事、怒った事、楽しかった事、全てが愛おしかった。

 でも、その裏で僕は嫉妬していた。サヤが語る日常の内容には、僕の知らない人の名前が度々出る。僕が知らないサヤの行動、僕が見ていないサヤの新しい髪型。僕はサヤが語ってくれるまで知る事が出来ないのに、彼ら彼女らは知っている。

 そんな黒い感情に、僕は蓋をしていた。サヤに迷惑をかけたくないからだ。僕がワガママを言えば、きっとサヤは僕のワガママに付き合ってしまう。サヤにはサヤ自身が決めた道を進んでほしい。

 でも、あの写真を見て、蓋をしていた感情が爆発した。幸いな事に、僕がサヤに連絡を入れる前に、携帯電話が粉々に壊れていた。その所為で、サヤと繋がれる唯一の方法が無くなってしまったけれど。


「……ここで、サヤとよく遊んだな。こんな風に雪が辺り一面を染めて、僕達は走って、転んで、笑って……この雪景色は、サヤとの思い出で溢れてるね」


 僕は雪の上に背中から倒れ込んだ。降り積もった雪がクッションになり、痛くはなかったけれど、冷たい。僕に手を差し伸べてくれた彼女は、もうどこにもいないんだ。

 降り注ぐ雪よ、僕の心を凍り付けて。誰かの温もりなんかいらない。二度と僕に春を訪れさせないで。


「……あ、吹雪きだ」


 太陽が雲に隠れたのを見て、僕は吹雪きが来るのを確信した。穏やかな風は猛威を奮い、降り積もっていた雪を舞い上がらせる。体温が低くなっていき、手足の先からゆっくりと、まるでロウソクが溶けていくように感覚が無くなっていく。僕の体はそのままに、魂だけが消えていく。

 死ぬって、こういう感覚なんだ……なんだか、夢の中に旅行をしにくような……

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