気まぐれな雨
今回は、英さんと別れたまま彷徨っている“もう一人の”冴ちゃんのお話です。
“もう会わない”男にモーニングコーヒーを入れてあげて
「朝一でアポがあるから」と嘘をついて、先にホテルを出る。
「ああ、ゴミくらい捨ててあげれば良かったな」
ベッドサイドテーブルに昨晩の狂乱の残骸を残したままだったのを今更ながらに思い出してため息をつく。
終わりにはいつも……
不手際が付いて回る。
カレは……
優しい人。
昔、“仕事”でしていたみたく、機関車の様に体を揺らし大げさに燃えて見せる汗ばんだ私の頬を両手で包み
「いいから、もういいから」
としょっぱいキスをくれた。
…… 男のくせに……
でも、この人と描く未来は私には無い。
有ってはいけない!!
私の事を“公衆トイレ”の様に扱うヤツらより
もっと辛いから……
こんな人との別れも言い訳にして……私は胸の中に想い続ける“あの人”に対して不実を積み重ね、二度とカレの元に戻れないように一歩ずつ遠ざかって行く。
ああ、電車に乗る前に
もう立ち寄る事の無いこの街の
あの喫茶店で
モーニングをいただこう。
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何回か“契約書”を書かせていただいたこのテーブルも……
今日はスマホを置いたきりで……
私は軽く頬杖をついて、待ち受け画面にしている“あの人の”和菓子の写真を眺めていた。
「あら、素敵な和菓子!」
コーヒーのソーサーを置きながら喫茶店のおかみさんが言ってくれる。
「ありがとうございます。故郷にあるお店の物で、お気に入りだったんです」
でも、その先の会話が辛くて私はツギハギの言葉を付け足してしまう。
「今日は、ゆで卵も付けていただけます?」
「はい、トーストと一緒にお持ちしますね」
『 … … … 』
いけない!
涙が零れそうになる。
“あの人”は……私が写真を飾る事さえ許してはくれないだろうに……
あの時……
全てを消していって
最後に残ったこの画像……
『削除』ボタンが押せなかった。
でも……
どんな時でも……
バタートーストとコーヒーのマリアージュはふんわり香り、
私のお腹を満たし
心をほんの少しだけ温めてくれる。
ガチャン!
雑居ビルの廊下側の鉄のドアの開く音が聞こえて、おかみさんがパタパタと表に出ていった。
どうやら雨が降って来たらしい。
ガラス戸の向こうを行き来する車はお構いなしだが、傘の花は開き始めた。
さて、行かねば!!
雨でキャリーバックが濡れる前に
駅へ
違うどこかへ
カップの中身を飲み干して、
口の中を整えようと“お冷”を手に取ったら、
キューブの氷が
カラリと鳴った。
今朝の事です。
喫茶店でモーニングを食べながら思い付いたお話です。
私が今、見ているこの景色を
“彷徨える冴ちゃん”が見たらどう感じるのだろう
と思ったら…
お話と涙が一緒に溢れ出て来てしまいました(:_;)
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