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ニートボール  作者: 京理義高
3/5

3話.いらぬ記憶

 目が覚め、名無しの二ートが寝かされているのは病院のベットである。


――てか、さっき起きた気もするけど、やっぱ作業していたのは夢だったのか。たまにあるんだ、夢と分っていて行動すること。


 呑気に考え、


――なぜここにカメラがあるんだ? まず何で病院に?


 消毒液の匂いが鼻を付き、後頭部に鈍痛がある。瘤の部分が禿げていないのを確認して安堵する。カーテンの向こうからうめき声が聞こえて来た。


「本当に記憶がないのですか?」


 書類を持った看護婦から事情徴収を受け、そう尋ねてきた。


「はい」


「どの辺りから?」 


「今日の朝から今まで」


 妙に魯鈍ろどんな口調が、自ら発した言葉ではない気がする。 


「では、救急車に運ばれたのも知りませんね?」


 さっきから、下を向いて目を合わせようとしない。俯いて除き見ていた名無しの二―トはハッとした。


――自分の名前を思い出せない!


 思い出す時間も与えられず、どうなのですか? と急かされる。


「ど、どこで?」


「質問に質問ですか……その様子だと忘れていますね? 土端坂です。近隣の住人から連絡が入ったんですよ」


 若干、雑に扱われているのだから、交通事故ではないなと勝手に思った。


 検査スケジュールを事務的に説明し、去っていった。


「はぁああああ」


 吐息、うっとりした表情でフリーズする。名前なんて、どうでも良くなっていた。


 看護婦が女の子そっくりだ。好きだった子に。


――イケるイケるイケる! 何に? よくあるじゃん。好きだった子がお見舞いに来て、記憶を失った主人公を看病するドラマ。記憶を取り戻そうと、大胆な行動に出る彼女。


 しかし、看護婦はかなり年下だった。急に落胆が襲ってきた。


 物心ついた時から付き合い始めた腹の贅肉のせいで、好だった子と付き合えなかったことがある。断腸の思いで呼び出した女の子は告白している間、耳を塞ぐ勢いであからさまに嫌悪を態度で示していた。


「私太っている人ダメなの」


 と言って、腹をガン見した。普通断ったら申し訳ないって態度を示すものじゃないのか。俯くならまだしも、ガン見である。


 つきあっているのは彼女ではなく腹の贅肉だ!


 だから君が浮気相手にはならないんだ!


――運命の再会なんてありえない……ガーン、じゃなかった。そのリアクション古過ぎ。俺涙目でしょ。


 最近、特にこうした妄想を膨らませ、過去の記憶を辿っていかないと、時間が過ぎていかない名無しの二ートは、黒歴史の引き出しの多さにおいて、誰にも負けぬと自負していた。


「モテたい……」


 呟いて、布団を被る。ある萌えキャラ満載の漫画家も同時に浮かんできた。


――モテキ先生の漫画なら全部もっているけど。モテ期なんてなかったし。


 早くも人生諦めモードで、そう思ったタイミングを見計らったかのごとく消灯である。夕食を食べた覚えがなく、記憶もなく、もちろん彼女もない。あるのは自由な時間だ。


――この後、ネトラジ始まるのに。運も味方につかないのかよ……


 名無しの二ートは、暗闇の中で腐った。豚声の鼾を聞きながら、朝が来るのを待っていた。


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