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キミの星のうた  作者: 溟翠
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星明かりと影と


 飛び降りて高すぎた夢の間がまだ続く

 底をつく勇気の・・・



 ✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼



 あとひとつ国境を越えれば、ネプチュン隣島行きの航空便がある。それに乗れば、最後は船便。ネプチュン鳥島まで、もうひと頑張りだ。

 かっぱっぱとぺんは、昔から変わらず素直で、いい子たちなんだけど、今回の旅はさすがにちょっと疲れてしまった。ぬいぐるみとして齢を重ね、虚体のフットワークが鈍ってきたからでもあるが、もうひとつ、意志を燃え立たせるモチベーションが、イマイチでもあるからなのだ。

 あのときは、大好きなママの魂を救う、という希望があり、もーにちゃんに包まれて快適に移動することができたが、実際に実力で移動してみると、思った以上に遠い道のりだった。もーにちゃんとて、魔法のじゅうたんや宇宙戦艦ヤマトのワープみたいなわけにはいかなかったけれど、やはり彼女(布だけど)は、この世のものではなかったのだと、いまになって思う。

 しかも、今回は貨物に紛れ込んでの逃避行、不法な無賃乗車だというスリル、じゃなくてストレスもある。まあ、あのときも合法じゃなかったとは思うけど。


 ターミナルへ着いた長距離バスの荷積ピットからそーっと降り、小さな町をひとつ過ぎれば、もう町も村もなく、地平線まで見渡せる平原が続く。地図の読み方は合っている。方位磁石も狂ってない・・・と思う。次の国境までの最短距離は、この平原を横断する道だ。道、ないけど・・・。


「これを歩ききって、飛行機1回、船1回。そしたら楽園だ!」

 あの半透明のネプチュン鳥さんたちは今でも楽しく飛び回っているだろうか? ヒナちゃんの子孫は今でもドワフプルトのカロンの裏の巣へ渡って産卵と育児をして帰ってくるのだろうか?

「ぺん、ネプチュン鳥語、覚えてる? 一生懸命練習して、ネプチュン鳥さんとお話ができるようになったよね」

「うん。あのときみたいにペラペラとはいかないけど、挨拶とかは覚えてるよ。ネプチュン鳥さんたちと会えたら、もっと思い出すと思う」

「ぺんがネプチュン鳥語を覚えてくれたから、ぼくたちも、ヒナちゃんたちとおしゃべりして、いっぱい遊んで、楽しかったね」

「ネプチュン鳥の赤ちゃんたちはよく、なぜか、かっぱっぱの頭に止まってたよね。頭のお皿が居心地良かったのかな?」

「ぼくのほうも気持ち良かったよ。ネプチュン鳥さんたち、ビイル薔薇のいい匂いしてたもの」

「着くまでに、ネプチュン鳥語、復習しておこうね」



 ぴっちぃは、もうひとつ、ネプチュン鳥島での出来事を思い出していた。

〈ネプチュン鳥さんたちと会話できるようになっていたおかげで、危篤のフォーチュンドリャさんのところへアルチュンドリャさんを連れて行ってあげることができたんだ。あのとき、ぺんとヒナちゃんが、ネプチュン鳥のおばさんたちの立ち話を聞いていなかったら、あの兄弟は離れ離れのままだった。意識があるうちに会えなかったのは残念だったけど、アルチュンドリャさんは最後にフォーチュンドリャさんの身体を抱きしめてあげた〉


 あの楽園の島で、あんな悲しい出来事に遭遇するなんて・・・

 ・・・ネプチュン鳥島へ着いたら、ちゃんとフォーチュンドリャさんのお墓参りをしよう。それがこの旅のもうひとつの目的なのだから。



  ✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼



 ここもすでに楽園のような夕焼け空だ。なぜぼくたちは、一筋ごとに現われ方の異なる粒子を『色あい』とか『テクスチャー』とか『透明度』とか、そんな貧困な言葉でしか表わせないのだろう? いやぼくだけか・・・?

 空と、空の色を映し込む大地、ふたつの平面に挟まれて立つ、塵粒ほどのぬいぐるみたちの虚体。


 振り返れば、通り過ぎてきた町にぽつぽつ明かりが灯り始めているのが見える。でももうそこへは戻れない。ぼくたちは、地平線へ向かって進むのだ。その向こうの国境へ。

 右にかっぱっぱ、左にぺんと手をつなぎ、ぴっちぃは一歩一歩確かめるように進む。気をつけないと、野良ちゃんの〇ン〇を踏んづけてしまうから。


 新月の夜だった。ぽつぽつと、今度は星がまたたき始める。地平線がくっきりと2πr×a°/ 360の弧を描いている。


 星空は黒地ではないのだ。

 満天の星に守られるように、ぴっちぃたちはテントを張った。でも、テントの中へ入ってしまうのがもったいない。

「ぼくたちの町のプラネタリウムよりすごいね」

「まるで本物の星空みたいだね」

「こっちが本物だよ」

 かっぱっぱとぺんは、今夜はなんだか少し興奮している。窮屈な貨物のコンテナに息をひそめて紛れ込み、遠くて果てのない旅にも思えた不安な日々からようやくひとつ解放された。目的地への行程が読めるところまで辿たどり着いた。そして、この大平原だ。

 満月と同様、新月も何らかの作用を及ぼしているのだろう。虚体だから満月よりむしろ新月の影響のほうが強いのかもしれない。

「やっほー」

 ふたりとも落ち着かない様子で、明るい星空へ向かって声を上げたり、歌ったり踊ったりしている。

 ぴっちぃは、どちらかといえば静かに浸っていたかった。この天体の動きに魂を同調させれば、あの世にいるはずのママの魂や、〈もーにちゃん〉の魂のカケラに触れることができそうな気もする。

 そんなぴっちぃには、かっぱっぱとぺんの無邪気にはしゃぐ声は、ほんのちょっとだけ、耳障りだった。


「静かにしろよ」

 強く言ったつもりはなかった。本当に静かにしてほしいわけでもなかった。この子たちの可愛い歌声をBGMに、先に寝てしまうことだってできたはずなのに、どういうわけか修学旅行の引率の先生みたいな言葉が出てしまった。

 ぴっちぃは、自分の一言に自分でもはっとしたが、かっぱっぱとぺんは、生まれて初めてぴっちぃからそんな注意を受けて、ちょっとびっくりした。

「あ、ごめんなさい、ぴっちぃちゃん」

 すぐに謝ってシュンとしちゃったふたりが可哀想だった。ぴっちぃはこのような場合ならきっと、すぐに自分も謝ってふたりを抱きしめてあげるのだけれど、自分でもよくわからないけど、このときは、ぺんの頭にひとつ、ぽん、かっぱっぱの頭のお皿にひとつ、ぽん、手の先で軽くタッチしただけで、他に言葉はかけず、ひとり寝袋へ潜り込んで寝てしまった。



 夜中、生地を透かして星明りがテントの中まで届いていた。ぴっちぃが目を覚まして、見ると、自分の両脇で寝ているはずのふたりの姿がない。今の自分は虚体で、命をもつ生き物ではないが、心臓が跳ね上がった。

「あれ? あれ?」

 嫌な予感がした。

 慌ててテントの外に出た。そこにもいない。


「かっぱっぱ! ぺん! どこ? どこにいるの?」


* およそ30年前のぴっちぃたちの旅のおはなしは『ぴっちぃのソーラーシステム大冒険』で・・ *


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