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10 根に持つタイプですね

ローファンタジー日間・週間ランキングに載っているみたいですね……。応援ありがとうございます! なるべく載ってる間は毎日投稿続けたいですね……



「ね、え……っ」


 上擦うわずった声。

 力が抜けた手足で、お腹のきわどい部分をなぞる手を抑えようとする。


 しかし、


「私は普通にカズサさんの身体を洗っているだけですよ?」

「そう、だけど……」


 笑顔でレンカは答える間も手は止めない。

 泡をまとったスポンジが余すことなく肌を優しく洗う。

 身も心もとろけるように心地よい反面、時折洗い終わった胸や脇腹、尻へとレンカの手が伸びてくるのだ。


 決して強い触り方ではない。

 羽の先が擦れるようなソフトタッチのそれに合わせて、甘いしびれが脳髄を駆け巡る。


「っ、どうして、そこばかり」

「……はっ、私としたことが、ついカズサさんの肌の触り心地が良すぎて我を忘れていました」

「ひっ、ああ……っ」


 慎ましい胸の膨らみに、レンカの指が沈む。

 弾力性に富んだ柔らかな肉が形を変え、無抵抗で彼女の指を受け入れた。

 同時に後ろから耳たぶにかけられた吐息。

 背筋を震えが駆け上がる。


「今ので最後にしましょう。とっても可愛いですよ、カズサさん」

「可愛い……って、絶対違う意味」

「どうでしょうね」


 頬へ手を当て、艶やかに微笑ほほえむ。

 皇族としての教育が染み付いた美しい所作しょさ

 見られることを前提とした在り方は、俺とはまるで違うものだ。


 乱れた呼吸を整えつつ、引き続きレンカがスポンジで身体を洗う。

 心を入れ替えたのか、至って真面目な動きだ。

 そういう部分に触れることがないではないが、あくまで必要範囲内。


 さっきまでの悪ふざけに比べれば、気にする必要がない自然なもの。

 初めからそうやってくれればいいものを……と思わないでもないが。


 全身の泡をシャワーで流し終え、役割を交代する。

 互いに反対を向く。

 目の前には傷一つないすべすべとしたレンカの背中がある。


「お手柔らかにお願いしますね……?」

「私はレンカみたいに変態さんじゃないから大丈夫」

「変態さんじゃないですっ!」


 声を荒げて否定する様子がおかしくて笑ってしまうと、ねたように半眼でにらまれた。

 けれど裸で、しかも背後をとっているので何も怖くない。


 俺はエルナから教わった洗い方で髪と身体を順に洗う。

 その際、特にそういう場所へ触るのは意識しないようにしていたのに、「んんっ……」とか、「そこ気持ちいい……っ」などと妙に色気のある吐息交じりに呟くので、中々に大変だった。

 内心でやっぱり変態じゃないかと再確認しながらも、レンカの全身を洗い終わる。


「ふああ……カズサさんが上手すぎて、天にも昇る心地でした」

「ただ洗っただけでしょ」

「そうなんですけど! ええと、その、初めての友人と洗いっこできて舞い上がっていたのかもしれません。友達と呼べる人は初めてだったので」

「……そっか」

「さ、洗い終わったところですし、湯船につかって身体を温めませんと」


 言ってレンカは立ち上がり、湯船に足をゆっくりと沈める。

 そのまま肩の少し下まで浸かると、俺にも入るように手招いた。


 部屋の浴槽は一人で使うには広いが、二人では少々手狭なように感じる。

 つまり、俺が入ればレンカと湯の中で密着することになるだろう。

 考えれば考えるほど躊躇ためらいの部分が顔を出す。


「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと考え事を。というか、二人で入るのは窮屈じゃない?」

「大丈夫ですよ。カズサさんは小柄ですし、私もそれほど大きくありません」


 レンカが膝を抱えて座ると、それに押し出された豊満な胸の上部が湯面に肌色の島を二つ作った。

 何が「それほど大きくありません」だ。

 明らかに平均サイズは越しているだろ。


 ……俺は今何を考えた?

 多分、反巨乳主義者だった()()のエルナから怪電波かいでんぱを受信してしまったのだろう。

 気にしてはいけない。


 けれど、そこまで言われると入らないのも不自然か。

 毒を食らわば皿まで……レンカは毒ではないが、覚悟は決めねばならない。


「……よし。わかった、入るよ」


 意を決して先に手で湯の温度を確認してから、浴槽内に足先から沈めていく。

 湯のかさが俺の体積分だけ上昇する。

 肩まで沈め、レンカと向かい合うと湯が溢れないギリギリのラインで止まった。

 温めの湯が身体に纏う。

 自然と安らぎを感じ、はあと息が漏れ出る。


「顔がとろけていますよ、カズサさん」

「そんなこと……あるかも。でも、レンカも同じ」

「だって、こんなに楽しくて幸せなんですから。皇宮での暮らしは楽で不自由ないものでしたが、息苦しかったので」

「第三皇女様も大変だね」

「今はただの天道レンカですよ。そんな意地悪する人には――」


 レンカの両手が湯に潜行し、


「ひゃっ」


 両の脇腹をそれぞれ五本の指がでまわす。

 思わず飛び上がり、ばしゃんと飛沫しぶきが上がり湯面が波打つ。


 レンカはそれすら意に介さず、追撃の手を緩めない。


「ふふっ、可愛い反応です。既にカズサさんの弱いところは把握済み……!」

「やっぱり……っ、変態さんだったじゃん!」

「違います! 誰だってカズサさんのこんな姿を見たら、手を出したくなるに決まってます!」

「馬鹿なこと、いわな……っ! ちょっ、そろそろ本気で、怒るよ……んっ」


 身をよじったり手で払ったりするも、レンカの手はことごとくを退ける。

 まるで手の打ちようがない。

 年季の差ということだろうか。


 頭の中は冷静極まるのに、声だけが切り離されたかのように確かな感情を孕んで発せられる。

 少女らしい口調や仕草を崩さず抵抗するのも限界に近くなったところで、レンカの手が止まった。


「……これ以上は確かに、危ないですね」


 顎に手を当てて深く思考するレンカ。

 何を考えているのか知らないが、流れ的によからぬことだろう。


 脳裏をよぎった推測を受け流して呼吸を整える。

 風呂は精神と肉体を休める場のはずなのに、これでは一向に休まらない。


「もうおしまい。次やったら出るから」

「仕返ししないんですか?」

「私、レンカさんと違って変態さんじゃないから」

「あっ、さてはカズサさん根に持つタイプですね」

「どうだろうね」


 不敵に笑って誤魔化した。


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