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紙芝居屋のおじさん

この作品は、冬童話2021向けの投稿になります。


寒空でも負けじと遊ぶ子供たちの活発さ、

困った人を助けるやさしさ、

みんなで考え、協力して一つのものを創り上げるチームワーク、

それらを表現した作品になります。

 冬の晴れた日の公園。

 ヒデくんは友達のいっちゃん、あーくん、ゆうちゃん、いさむと五人で遊んでいました。

 最初は鬼ごっこ。それから、ブランコ、かくれんぼ。

 いっぱい遊んで疲れたら、丘の上でちょっと休憩。

「いっちゃん見つけるの早すぎ!」

 と、ヒデくんが文句を言うと、

「でも、いさむよりは上手に隠れていたよ!」

 と、褒めてくれました。

 でも、いさむは少しふくれっ面。

「いさむはゴリラだから仕方がないよ!」

 そう言ったのはゆうちゃん。

「ゴリラじゃねーし!」

 いさむが怒って両手を上げると、

「やれやれ、そこがゴリラみたいなんだよなー」

 と、あーくんが呆れ顔で言うから、いさむはシュンとなって丘の上に寝そべりました。

 四人から笑いが起きると、強い木枯らしが、ビュウッと吹き抜けます。

「うわぁ、寒いね!」

 ヒデくんが腕を組んで凍えていると、

 どこからか紙がたくさん飛んできました。

「なんだろう、コレ?」

 いっちゃんが一枚手に取ると、そこには一面に絵が描かれていました。

 きれいなお姫様が、ベッドで眠っている絵です。

「うわぁ、すごい!」

「こっちにも落ちてるよ!」

 あーくんやゆうちゃんが拾い上げると、違う絵が描かれていました。

 泣いている家来達の絵や、考え込む王子様の絵です。

 絵を拾って見ていると、

「誰か助けてくれ~!」

 と、何やら慌てた様子の声がしました。

 その声の方を見ると、シルクハットにちょび髭生やした燕尾服のおじさんが、あたりを駆け回っています。

 そのおじさんは両手に絵の描かれた紙を持って、あっちへこっちへ。大慌てです。

「おじさん、どうしたの?」

 ヒデくんが声を掛けるとおじさんは、

「大変なんだ!」

 と、頭を抱えています。

「何が大変なの?」

 と聞くと、

「僕の紙芝居が、風で全部飛んじゃったんだ! これじゃみんなを笑顔にできないよ!」

 と言うので、みんなが持っていた紙を見せると、

「それだ! それが僕の紙芝居だ! みんなありがとう!」

 と喜び、ひとまとめにしました。

「お礼に、僕の紙芝居を見ていくかい?」

「うん! 見たい!」

 おじさんの紙芝居に、みんな興味津々です。

「それじゃあ、始めるよ! 『王子様と悪夢の魔法使い』はじまりはじまり~」

 みんなは、おじさんの前に横並びで座ります。

「むかしむかし、あるお城に、それはもう美しいお姫様が住んでいました。

 その美しいお姫様はみんなに愛されていましたが、ある夜、そのお姫様を独り占めにしようとする、悪の魔法使いがお城に忍び込みました。

『へっへっへ! お前を俺のものにしてやる!』

眠っているお姫様に近づくと、悪の魔法使いは魔法をかけて、お姫様の夢の中に飛び込んでしまいました。

 次の日、お城の中は大パニック!

 お姫様が目覚めないのです!

 王様は、家来たちに命じました。

『なんでもいいか、姫を目覚めさせよ! 目覚めさせた者にはどんな報酬もくれてやろう!』

 命じられた家来は、大慌て。

 ある家来は、オーケストラを連れてきて、大合奏。

 心地いい音楽がお城を包みます。

 もちろんお姫様は眠ったまま。

 次の家来は、アロマを焚きました。

 いい香りがお城を包みます。

 もちろん姫様は眠ったまま。

 次はホラ貝吹いたり、それから扇で風を送ってみたり。

 いろいろ試しましたが、ちっとも目覚めません。

 みかねた王様は国中にもお触れを出しました。

 国中からたくさんの人が集まりましたが、誰も起こせません。

 そこに現れたのは、一人の魔導士。

 魔導士は言います。

『お姫様は悪夢を見ておられる。誰かが中に入って、悪夢を見せる魔法使いを倒さねば目覚めぬだろう』

 家来たちは驚きました。

 まさか、姫様の中に悪夢を見せる魔法使いがいたなんて!

 起こす方法がわかった家来たちは大喜び!

 魔導士は続けます。

『ワシの魔法で夢の中に送ることはできるが、帰ってこれるかはわからぬ。それでも行くという者はおらぬか?』

 その言葉に、家来たちは静かになってしまいました。

 みんな、帰れないかもしれないと思うと怖いのです。

 もうダメかと思われたその時、一人の男が手を挙げました。

『私は隣の国の王子です。姫のピンチを聴き、参上しました。私でよければ、姫の夢へと向かいましょう』

 そう言った王子様に、家来たちは喜びます。

『それでは、夢へ向かうぞ! ちちんぷいぷい……それ!』

 王子様は、お姫様の夢の中に飛び込んでいきました」

 紙芝居屋のおじさんは、そこで読むのを止めました。

「それで、どうなったの?」

 あーくんが尋ねます。

 ですが、おじさんは泣きそうな声で、

「続きがまだないみたいなんだ」

 と落ち込んでしまいました。

「えぇ!?」

 いさむは驚きの声を上げます。

 他のみんなも残念そうです。

「ごめんね……」

 肩を落とすおじさんに、

「じゃあ、俺達で探そうよ!」

 と、ヒデくんがみんなに声を掛けました。

「賛成!」

「任せて!」

「かくれんぼで探すの得意だもん!」

 みんな立ち上がり、探す気満々です。

「みんな、本当にいいのかい?」

「「「「「もちろん!」」」」」

 声をそろえて言います。

「じゃあ、後七枚あるんだ。みんな、よろしくね!」

 そう言って、みんなで探し始めました。

 いつも隠れる場所に隠れているに違いないと、いろいろなところを回ります。

 滑り台の上、ドームの下、噴水の中、木の上、草むらや砂場の中。

 くまなく探しますが、ちっとも見つけられません。

「ダメだ、見つからねぇ」

「千パーセント無理だよ」

 いさむもあーくんも弱音を吐いて座り込んでしまいます。

「一枚だけあったよ!」

 かくれんぼで探すのが得意ないっちゃんは、なんとか一枚だけ見つけることができました。

「凄い!」

「きれい!」

 その絵は、王子様とお姫様の結婚式の絵でした。

「おじさん、これはいつの絵なの?」

 ゆうちゃんが聞くと、

「これは、最後の絵なんだ。悪い魔法使いを倒して、二人は結婚するんだよ」

 そうやって、おじさんは教えてくれますが、

「えー、先に結末知っちゃったよ」

「間がどうなるのかわからないのに……」

 みんなが文句を言うから、おじさんは困り果ててしまいました。

 それを見ていたヒデくんは考えます。

「そうだ! みんなでお話を考えよう! 魔法使いとの戦いを!」

 みんなに提案すると、

「いいね! やろう!」

「楽しそう!」

 と、みんな賛成してくれました。

「それは素晴らしいアイデアだね!」

 おじさんもうれしそうです。

「おじさん、いつでも紙と色鉛筆は持ち歩いているんだ。みんな、使っていいよ」

 おじさんはカバンから紙と色鉛筆を取り出すと、一人一枚づつ配ります。

「よーし、描くぞ!」

「「「「オー!」」」」

 みんな、思い思いの絵を描き始めます。

 そして、しばらく経って、みんなの絵が完成しました。

「よし、それじゃあ、続きを始めようか!」

 おじさんの合図で、順番に読んでいきます。

 まずはヒデくんから。

「王子様が夢の中に入ると、そこは公園でした。

 魔法使いが現れて、しもべを呼びました。

 そのしもべは大きなカマキリで、今にもムシャムシャと王子様を食べてしまいそうです。

『夢の中ならなんでもアリさ! だから、お前はカマキリにでも食べられてしまえ!』

 王子様は大ピンチです。

 でも、大丈夫。

『貴様もなんでもアリなら、俺もなんでもアリだ!』

 そう言って、王子様は、仮面のヒーローに変身しました」

「えー、アリかよ」

 いさむが文句を言いますが、

「夢だから大丈夫!」

 と、おじさんがにっこりと微笑みます。

 ヒデくんは続きを読みます。

「王子様は戦います。

『せい! や! とう!』

 最初は威張っていたカマキリでしたが、強い王子様には勝てません。

 ついに追い詰められてしまいます。

『とどめだ! せいやー!』

 王子様は、キックでカマキリをやっつけました。

『くそー! 覚えてろー!』

 悪の魔法使いは、夢の奥に逃げていきました」

 これで、ヒデくんの番は終わりました。

「じゃあ、次は私ね!」

 いっちゃんが自分の絵を取り出し、話し始めます。

「次に呼び出したしもべは、サソリでした!

『毒で痺れさせて、はさみで切っちゃうぞー!』

 今度のサソリは、大きな鋏を持ち上げて、王子様を怖がらせます。

『そんなの、怖くないぞ!』

 王子様は、大きな鍋を取り出すと、油を入れて、火にかけます。

『お前なんか、油で揚げて、カツにしてやる!』

 そのままサソリを鍋に放り込むと、カリカリに揚げてしまいます」

「え、サソリ食べるの?」

 ゆうちゃんがビックリしてます。

「うーん、美味しくなさそうだよね。じゃあ、食べない!」

「でも、作ったものを残すとママに怒られるよ?」

 あーくんの言葉に

「やっぱり我慢して食べる!」

 と意見を変えてあーくんに交代します。

「おなか一杯になった王子様は、少し眠くなってきました。

 それを見た魔法使いは、次は羊の大軍を呼びました。

『お前なんか、羊を数えて眠ってしまえ!』

 そう、今度は眠らせて戦えないようにするつもりなのです。

 そこに現れたのは、王子様の友達である牧羊犬。

 牧羊犬が吠えて、王子様は目が覚めます。

『ありがとう! よーし、羊たちを追い返せ!』

 牧羊犬は羊たちを追い返してしまいました。

『覚えてろ!』

 魔法使いは逃げていきます」

 次はゆうちゃんの番です。

「魔法使いが逃げた先には、大きな木が生えていました。

『次は罠にかけてやる!』

 魔法使いが木に魔法をかけると、隠れてしまいます。

『どこに行った!』

 王子様が辿り着くと、何やら甘い香りがしてきました。

『くんくん。この匂いは……ハチミツだ!』

 王子様が匂いを辿ると、木の中にハチミツがあることを見つけました。

 とても美味しそうです」

「でも、王子様はおなかいっぱいだよ?」

 いっちゃんが聞きました。

「じゃあ、こうする!」

 それを聞いたゆうちゃんが話を続けます。

「でも、王子様はおなかいっぱいだったので、ハチミツに手を出しませんでした。

 王子様が木から離れると、おなかを空かせた魔法使いが現れて、自分でハチミツを舐めてしまいました。

 すると、そのハチミツを守っていたハチさん達が現れて、魔法使いをたくさん刺します」

「痛そう……」

 渋い顔のあーくん。

「じゃあ、次は俺だな!」

 いさむが絵を出すと、そこには大きなゴリラと怪獣が映っていました。

「追い詰められた魔法使いは、

『これならどうだ!』

 と、大怪獣を呼びました。

 踏みつぶされたら、ひとたまりもありません。

『それならこっちも!』

 王子様は筋肉がムキムキマッチョになって、怪獣と同じぐらいに大きくなりました」

「それ、王子様だったんだ」

 ヒデくんが呟きますが、いさむには聞こえていません。

「怪獣は火を噴きますが、マッチョには効きません。

 今度は大きな口で噛みつきますが、マッチョには効きません。

 マッチョは怪獣の口を大きく広げて、そのままやっつけてしまいました」

 最強のマッチョに勝てずに、またも魔法使い側の敗北です。

「あれ? でも、魔法使いはまだ倒せてないよね」

 ゆうちゃんが首を傾げます。

「どうしよう」

 みんな困ってしまいました。

 そこで、おじさんはもう一枚紙を取り出します。

「大丈夫! まだ失くしたページはもう一枚あるんだ!」

 みんなの前に紙を置きましたが、みんな首を捻ります。

「どうしたら魔法使いを倒せるんだろう」

 悩んでいると、ポツリと紙の上に小さな雪の結晶が落ちてきました。

「雪だ!」

「どおりで寒いと思った!」

 雪にそれぞれ気づくと、ヒデくんが

「あ!」

 と声を上げます。

「みんなで力を合わせて、雪合戦だ!」

 そう言って、紙に絵を描き始めました。

「私も手伝う!」

「ゆうも!」

「俺も!」

「僕も!」

 みんなで協力して、家来たちを描き入れます。

 やがて、一枚の絵が完成しました。

 雪を降らせる魔法使いと、雪玉を投げる家来たちの絵です。

 それを、ヒデくんが読み始めます。

「魔法使いは、最後の力で雪を降らせました。

『そのまま凍ってしまえ!』

 今度ばかりは王子様も太刀打ちできません。

 そのときです。

『我々もお手伝いします!』

 お城の家来たちが、みんな現れたのです。

 王子様の勇気を見て、家来たちも勇気を出して追いかけてきたのです。

『これでも食らえ!』

 みんなで雪玉を作って、悪い魔法使いに向かって投げます。

『参った!』

 魔法使いが凍えてしまい、夢の中から出ていきました」

 話し終えて、おじさんが続きを読みます。

「お城に戻った王子様は、悪の魔法使いに言います。

『さっきは大勢で攻撃して悪かった』

 悪いことをしたはずの魔法使いは驚きます。

『独り占めは良くないけど、みんなでいじめるのも王子としては恥だ』

 そう言って、王子様は魔法使いを許しました。

 その後、目を覚ましたお姫様と王子様は無事結婚しました。

 でも、国のみんなとも仲良く、幸せに過ごしましたとさ。

 おしまい」

 おじさんが頭を下げると、拍手が巻き起こりました。

「みんなありがとう。みんなのおかげで、もっと面白い話になったよ!」

 そう言って、紙芝居屋のおじさんは嬉しそうに去っていきましたとさ。

 おしまい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 欠損したページを子供達が考えるというのが楽しいですね。 披露されるお話は個性的で、それでいてやっつけ仕事なのが可愛らしかったです。 子供が子供目線で考えるお話の方が子供受けはいいのではないだ…
[一言] 紙芝居って、今でも子どもたちをぐんっと引きつけてくれますよね。今の時代、道端で見ることはありませんが、幼稚園や学校で夢中になって物語の中に入っている様子を見ると、なんだか優しい気持ちになりま…
[一言] 紙芝居というもはや古典的な素材を使いながら、子ども達の発想が現代的なイメージを感じる。 それでも違和感なく読めるところがすばらしい。
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