ホープス育成学校
1話目ですね!
―――ホープスとは、オレスティア共和国が誇る精鋭部隊である。時に、戦局を打開し、時に、交渉を結んでみせ、時に、困った人々の願いを聞く……らしい。
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ベルの音が響きわたる。
「………」
目覚まし時計というのは実に勤勉な奴で、きっちりと自分の役割を果たすまで、音をばらまくことをやめない。
「分かった!分かったって!!」
こうして、勢いよく目覚まし時計を止めてから、フレアの1日は始まる。
ホープス候補生の朝は早い。毎朝5時には起床し、トレーニングや、それぞれにだされた課題をこなしたりする。
「っても、文句ばっかり言ってられないな。なにせ、最終試験が明後日なんだもんな」
彼ら候補生がホープスになるには、学校に入り、試験をこなす必要がある。その内容は実にさまざまで、当日まで知らされないので、候補生達は毎年 胃に穴が空いているらしい。
「しかも、まだ授業が残っているのが本当にいやらしい…。あのヘボ教官め」
口では文句を垂れているが、手は止まっていない。何せ、ホープスになれるのは兵士の中でもひと握り…、いわゆる、『エリート』というやつである。
「さあて、課題も終わったし、それじゃあ、走りにでもいくかな」
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ここ、ホープス育成学校は広大な敷地を持っていて、ランニング場ももちろん備えている。ホープスとは、実地に赴き、戦う事がメインの仕事なので、体力は必要不可欠なのだ。
「おぉ!フレア、お前朝起きれたのか!」
「…うるさい。候補生として、当然の事だ」
「その当然の事を、お前はなかなか出来ないんだけどな!」
彼――ストライクは朝からものすごくうるさい。早起きをするだけで驚かれるなんて、バカにされているみたいで腹が立つ。……まあ、普段はできていないのだが。
「試験の2日前だぞ?むしろ起きれないやつは試験に落ちたと、俺は思うね」
「くぅ~、普段寝坊しまくってるやつのコトバは身に染みるね~!!」
そう言って、ストライクはみるみる俺から遠ざかって言った。馬鹿そうな喋り方だが、彼もホープス候補生なのである。しかも、フレアは体力で彼に勝てていない。
「使える魔法の数では、勝ってる」
そうやって言い訳をしつつ、彼もグラウンドを駆け続ける。
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「ええ~、試験前だから問題ないとは思うが、授業はやっていくぞ。今日は魔法史についてだ。」
退屈だ。ただでさえ、俺はこの教師が好きではないのに、魔法史なんて、候補生なら皆知っていることではないか。
「皆ももう知っているとは思うが、私たちが使える魔法は、あくまで『擬似魔法』とやばれるものなんだ」
皆知っている範囲をわざわざ試験前にやるな。だから、この教師は嫌いなんだ。初心忘るべからず、とでも言いたいのか?残念ながら、魔法史はどう頑張っても試験には活かせないと思うが。
「偉大な研究者たちが、この擬似魔法を開発してくれたおかげで、私たちは簡単に魔法がつかえるようになったんだよな」
ここなんて、学校に入って最初にやる範囲じゃないか。しかも、割と有名な話だ。候補生じゃなくたって、大多数の人間が知っている。どうせ、次は このおかげで機械や化学も発達した とか言うんだろう。
「そうそう、この研究に長い年月をかけたことによって、機械や化学が発達したんだったな!」
…ドンピシャだな。もはや俺が授業を受ける意味あるのか、これ。隣の生徒も寝てるし。
「機械、か。確かにこれが発達したのは良い事なんだが」
お、違う話になったか?いや、これも話が読めるな…。恐らく、戦――
「戦争になっているのも、このせいだもんなぁ」
何だ、この授業。こっちは試験前だというのに。与太話なら、他でやって欲しい。が、この話は俺も興味がある。
なぜなら、現在、俺が暮らしているオレスティア共和国と、かなり機械化が進んだ大国、ガルバレト帝国が戦争になっているのである。それも、急に始まって戦争で、ホープス達のおかげで何とか持ちこたえている、という有様だ。
別に、この戦争の為にホープスになろうと思ったのではない。この戦争は俺が学校に入ってから始まったものだ。だが、無関係では無いだろう。もしも明後日の試験で合格したら、すぐにでも戦地に飛ばされる未来が簡単に見える。
―――もしかしたら、死ぬかもしれない。少し、手が震える。俺に実戦経験はない。人を殺したことも、ない。
「まあ、俺から君たちに言える事があるなら、」
「『死なないでくれ』、くらいかな」
俺は、久しぶりに魔法史の授業でノートをとった。