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僕の仲間には生きてる人がいません  作者: らんこ
一章 旅のはじまり
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2人ぼっち?

 不思議な人と出逢った


 買い出しに出た帰り道、キャラバンの馬車に乗せてもらった私は野党に襲われたんだ


 ひっくり返った馬車から投げ出された私は下敷きになって動けずにいた、お腹のあたりがとても熱い、息もうまくできなくって……とても苦しかった


 叫びながら逃げ惑う人の声、怒声をあげならが追い回す野党達の声、薄れていく意識をなんとかつなぎ止めようと必死に抗っているうちに、やがてその声も聞こえなくなった


 抜け出せないかと懸命にもがいてみた、お腹が破裂しそうなくらいに熱くなる。完全に挟まれてしまって私ひとりの力ではどうにもならないようだった。意識が飛びそうになる、それに凄く寒い。


 野党達の放った火がまわってくる前になんとかしないと焼け死んでしまう。するとゴソゴソという音が聞こえてきた、誰かいるんだ。野党かもしれないし息を殺して様子をみる。


 よくみると私と同じくらいの歳の子だった。黒髪で涼しげな目元の男の子、なんだかとても困った様子だ。


 気付いてくれるだろうか、助けてくれるだろうか?彼が近づいてくる、私は必死に手を伸ばす……掴まえた!!!……っとうっかり力みすぎちゃったかな。彼は強かに顔面を打ちつけてのた打ち回っている


 まずは事情を話さなきゃ、そう思っても声がだせない。潰されているせいか。彼は色々と察してくれたのか必死になって助けようとしてくれている。優しい人……


 ようやく馬車の下から抜け出せたものの、自分のお腹をみて絶望せざるをえなかった。ショックでその場に崩れ落ちてしまう、気力が潰えるのと同時に私は自分の死を直感した。


 お母さんとお父さんにせめて何か伝えたい、私は彼に託すことにした。最期の言葉を。


 どんどん意識が遠くなっていく、寒さもなくなってきた……彼は私の手をいつまでも握っていてくれた、彼の涙が暖かい。


 そうか、私は一人じゃないんだ……ありがとう……ありがとう……




 そこで私は死んだはずだった

 確かに死んだ


 次に目を覚ましたときには街から少し離れた高原のど真ん中、いつも皆で遊んでいた大樹のそばだった。彼の胸のなかに抱えられて私は眠っていたのだろうか、これが神の奇跡なのだろうか


 私を介抱してくれた彼もまた意識を失っていた。すっかり衰弱しているようだ、街まではここからあと少し、彼は歩けるだろうか。呼びかけ揺すると彼は目を覚ました、よかった眠っていただけだ。


 私をみて彼はひどく驚いた様子だった、確かに大怪我をしたような気がするが今では痛みもないし至って元気なつもりだ、少なくとも彼よりは。なにより助けて貰ったお礼が言いたい、彼の手をとった瞬間に走馬灯のようにこれまでの記憶がなだれ込んできた。


 そう、やっぱり私は死んだんだ。このお腹の傷、背中まで抜けてるじゃないか、どうしてこんな状態で生きていられよう。

 それにこの手の色だ、血の一滴も流れていないようなまだらな青白い不気味な色だ。


 今年15歳になる成人になったばかりの乙女、まだまだ人生これからだ。おとぎ話のような恋をする機会もあったのかもしれないし、綺麗な花嫁衣装をきてお嫁にいく機会もあったのかもしれない。


 でも、私は死んだ

 今はゾンビだ

 この先になにがあるんだろうか


 彼は自分のせいだと言った。無意識に自分の力が働いて、私をただの死人から動ける死人に変えてしまったと、幸いにして私の心も思い出も私のままだった。私は将来というものを失ってしまったんだろうと思う、なにせ死んじゃったんだから。

 でも心があって記憶があって動く身体があるのなら、思い残した後悔をひとつひとつ片付けていくことは出来るのかもしれない。そしてもし神様が私を見放さずにいてくれたら、こんな私にも未来というものがあるのかもしれない。


 死と後悔の先に、何かが


 私は彼に感謝した、彼は責任というけれど寄り添ってくれることに深い喜びを感じた

 気弱で頼りない彼だけど、今の私が抱えている不安や孤独を誰よりわかってくれる人だった。


 それからプロポーズされたり、それが勘違いだったり、恥ずかしかったり、嬉しかったり、短い時間の中で沢山の感情が駆け抜けていった。生きてるうちにも経験したことのないような目まぐるしい時間だった。


 ゾンビが恋をするというのは変だろうか


 変かもしれない、いやこれは恋なんだろうか?まだよくわからない。それでも彼には私が必要にみえたし、私にとっても彼が必要だった。


 一緒にいよう、旅をしよう


 そうして2人で何かを見つけるんだ。それが何かはまだわからないけど一緒ならきっと……


 生きていたときの全てに別れを告げる必要があった。私は死んだのだから、そう名実ともに。今ある私は生きているときの私じゃない、彼の魔力で身体と魂が辛うじて結び付いているだけの危うい存在だ。

 かつて離れた身体に運良く結び付いた、そういう奇跡の産物だ。いつその奇跡が終わるかわからない。だから愛しい人達すべてにお別れを言わなければ。

 こんな恵まれた死があるだろうか、人の死は突然だ望む望まないに関わらず突然訪れる、私は死んでなお猶予が与えられた。お別れの猶予を。


 彼に見送られ、扉を開く

 私が帰るべき場所

 そしてこれから去りゆく場所の扉を



「サニア!」


 血相をかえた両親が私の名前を呼んで駆けてくる。ああ、そういえば彼にちゃんと自己紹介してなかったなと思い出す。お互いまだ名前もしらないんだ。


「えぇーと……パパ、ママ、ただいま」


「予定より3日間も遅かったじゃないか……一体どこでなにをしてたんだ!」


「その……帰りに野党に襲われちゃって」


「ええ!!!なんてことだ怪我は?!怪我はないのか?!」


「サニア……よかったわ無事に帰ってきてくれて……ママ心配で心配で、うぅっ」


「それがそのぉ……とっても言いにくいんだけど」


「どうした?なにかされたのか?!例えおまえに何があったとしても私達はおまえの味方だ!!」


「ありがとうパパ、その……私、死んじゃった!!えへっ」


「……?」


 呆気にとられたような顔をする両親、当然のことだろうと思う。私はかいつまんで事情を話した。


「それでその……死んじゃったって本当なの?」


「うん、ごめんねママ、その人も必死に介抱してくれたんだけど傷がひどくて、ほら」


 ローブを捲ってお腹をみせるとパパが卒倒した、男の人はやっぱりこういうの苦手なんだなと実感


「ママ、言葉がでないわ。もうなんて言ったらいいか」


「私も悩んだんだけど、こうして死んじゃって、そしてお別れを言える機会に恵まれたって不幸中の幸いっていうか何て言うか、ね。そのまま死んじゃってたらお別れも言えなかったわけだし」


「サニア、お前が死んじゃっていたとしてもずっとこの先も私達の娘であることにかわりはないの、お別れなんて悲しいこと言わないで、お願い」 


「いつまでこうしてお話していられるか正直わからないの、彼もこの力がいつまでもつかわからないみたいだし、このまま生活していても、ある日当然灰になって消えちゃうかもしれないし、きちんとお別れしておかないと後悔しちゃうから」


「彼って言ったかサニア、どこの馬の骨だ!ここに連れてきなさい!!!」


「あなた、今はそんな話じゃないんです。黙ってください。」


「それにね、私、彼と旅にでようと思うんだ。こんなことになって人生が終わっちゃったのかと思ったけど、こうして今も自分で考えて自分で動いてる、心臓は止まっちゃってるけど、私まだ終わってないと思う」


「サニア……」


「何か見つかるかもしれない、何も見つからないかもしれない、灰になって消えるだけだとしても、私は後悔しないように色んなことがしたいよ、彼と一緒に」


「わかった、でもこれはお別れだとはパパは思ってないぞ、なあママ」


「そうですよサニア、あなたは私達の娘、いつでも帰っていらっしゃい、そうね……あなたの好きな彼も一緒に、ね」


「ママ……」


「私はサニアだけがいいんだが」


「器が小さいですよ、あなた。サニアちゃん、彼のこと紹介してくれる?いいですね?あなた」


「あ、ああ」


 私は幸せものだった

 そうだ、旅の果て

 いつか終わりを迎えたとき

 帰ってこよう

 彼と一緒に



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