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僕の仲間には生きてる人がいません  作者: らんこ
六章 旅する理由
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彼女の本気

 さっちゃんとクロエの呼び声に、僕は思わず駆け出した。その瞬間だった、僕を真横から殴りつける誰かがいた。岩石のような拳で横っ面を思い切り殴られ僕は吹き飛ばされたんだ。


 彼女達は僕を呼んだのではなく、迫る危機を警告してくれていたのか……今僕は山賊の一人に抱え上げられ万力のようにギュウと締め付けられている。身動きが全くとれない。


「へっへ……人質さえいりゃあ逃げるくらいなんてことねぇ……おめぇら!さっさとずらかるぞ!!」


「お前、リュウか!待て山賊共!その子を放せ!!」


 パパさん?どうしてパパさんまで……まさか旅の街の人達が僕を……情けなく捕まってしまった僕はこれ以上迷惑はかけまいと必死にもがいてみたが、僕よりもふた周り以上大きい巨漢の手からは逃れる術がなかった。


「手出ししたらガキの首へし折るぞ!!おめぇら!あのオヤジをさっさと黙らせちまえ!!」


 騒ぎに気付いた兵隊達がこちらへ向かってきたが、とても間に合いそうにない。


「パパさん!!逃げてください!!」


「お前はうちの子だ!子供を置いて逃げられるか!!」


「いやぁ!!パパ!!逃げてぇええ!!」


 さっちゃんが叫ぶのと同時に、手近にあった身の丈ほどある岩を軽々と持ち上げ山賊達に向かって小石を放るように投げつけた。

 全員が唖然としていた、駆け寄ってくる兵隊達も、パパさんも、山賊達もだ。


「今だ!取り押さえろ!!」


 そう誰かが叫ぶとパパさんを取り囲んでいた山賊達は一斉に捕縛された。残ったのは僕を抱えた山賊ただ一人だ。


「近寄るんじゃねぇ!!いいか、俺の姿が見えなくなるなまで誰も動くんじゃねぇぞ!!ガキの命がどうなってもいいのか?!」


 山賊はそう言いながらじりじりと後退りし、ある程度の距離が取れると背中を向け一目散に逃げ出した。



「はぁ……はぁ……ここまで逃げりゃ大丈夫か……追っ手の足音も聞こえねぇ……おいガキ!てめぇはもう少し俺に付き合いな、用が済んだら殺してやるからよ」


 僕を地面に投げつけ縛り上げていく、その山賊の背後に棍棒を振りかぶるクロエが浮いていた。


「その人は私のものよ!私のリュウを傷つけたら許さないから!」


 そう叫ぶと同時に思いきり棍棒を振り下ろした。山賊はそのまま昏倒し、僕はようやく自由になれた……


「リュウ……リュウ……」


 クロエが僕を抱きしめ顔中にキスを浴びせてくる。これじゃまるでママさんだ。僕もクロエを抱きしめるとクロエは安心したように顔を離す。


「クロエ、ママさんみたいだよ。」


「ふふ……そうね。じゃあこれならいいかしら」


 手が僕の頬に触れると彼女は突然、僕に口付けをした。以前のように人間に触れた感触こそ無かったが、彼女の温かな愛情が心の奥に染み渡るような優しい感触だった。


「リュウ……愛しているわ、あなたの事。本当に無事で良かった……」


「クロエ……」


「リュウ、私の気持ち……受け取ってくれてありがとう。次はサニアの番よ……」


 クロエが僕の手を引いて向かう先にはさっちゃん達がいた。クロエが兵隊さんに山賊の一人が向こうにいることを伝えると何人か連れ立って捕縛に向かう。


「リューくん!よかった……」


「ああ……本当に自分でも良かったと思うよ。クロエが助けてくれたんだ」


「足音を立てずに近付けるのは私だけだもの。ただ、私もサニアも人じゃないことがすっかりバレちゃったわね、困ったものだわ」


そう言うクロエだが、どこか晴れ晴れとした表情で微笑んでいる。成すべきことは成したと物語るようだった。


「そうだね……流石に皆気付くよね……」


「……サニア、今のうちにリュウに伝えなきゃいけない事、あるんじゃないの?私はもうきちんと伝えたわ、ねぇリュウ」


「クーちゃん……うん、そうだね……私も」


 さっちゃんが僕の前に立ち、今までに見たことがないくらいに真剣な眼差しで僕を見ている。


挿絵(By みてみん)


「リューくん、私ね……私、リューくんのことが好き。ずっとずっと好きだったの。だから……その……」


 さっちゃんはそう言い掛けると僕の首に手を回し、顔を寄せ、そして口付けをした。彼女が耐え忍んできた想いが込められた熱い口付けだった。


「私にはリューくんとクーちゃんのような、何代にも渡る強い絆はないしわからない。でも、私……旅の街のサニアはリューくんのことを愛しています……リューくんにもサニアを愛して欲しい……だめかな」


 彼女はかつて沙樹だった、その彼女が今サニアとして愛してる欲しいと言う。僕も過去の柵を知らない頃からさっちゃんの事がずっと好きだった。

 それが変わってしまったのは神様が死んで、自分の魂と引き換えに僕らに全ての前世の記憶を思い出させてからだ。

 僕はわからなくなっていた。好きだった子がサニアなのか妹なのか。

 そうして旅を続けてきて、今こうして口づけを交わし、僕はまだ迷うのだろうか。彼女の本気を見てまだ……いや……


「僕も君が好きだよ、出会ったときからずっと。さっちゃん……いや、サニアさん。旅の街のリュウは君を心から愛しているよ」


「リューくん……私の気持ち受け取ってくれるんだね、それならもう一つだけお願いがあるの」


「なんだい?」


「クーちゃんのこと諦めないで……」


「サニア……」


「何代もの生まれ変わりを重ねて何度も何度も引き裂かれた二人をまた引き裂くことは私には出来ない……」


「私は本当にいいのよ、サニア。あなたのリューへの気持ちはずっと知っていた。私は次の生まれ変わりまで待てるわ……だから――」


「そんなの駄目!私はクーちゃんの事も大好きなの!だから皆で幸せにならなきゃだめ……ずっとずっと皆で一緒にいよう……お願い……」


 僕らは今を生きる一人の個人ではなく、ある時から前世の僕らが魂に刻んできた記憶の全てを受け継ぎ、一人のなかに何人もの記憶を持つに至った。

 遡れば何百年……千年……もっともっと遠い先まで見えてくる。その僕らには誰か一人を選び取り、他方は切り捨てるような生き方は刹那的すぎるように思えてくる。


「うちの国では平民の結婚に細かい決まりはないぞ。大商人ともなれば何人もの妻に何人もの妾がいるのは当たり前だしな」


「え?パパさん?」


「だから悩むな、男なら受け止めろ。二人ともこんなに真剣じゃないか……親としてはサニアだけを選んでくれた方が安心だが。クロエちゃんだって良い子だ、そうだろリュウ」


「勿論です、二人とも僕にはもったいないくらいで」


「そうか、腹は決まったな?それじゃあちゃんとけじめをつけなさい。口を挟んですまなかったね」


 そう言い残すと、背中越しに手を振りながらパパさんは去っていく。そうか……また僕は無理に前世のルールで考えすぎていたのか。


「僕がどこまで頑張れるかわからないけど、必ず皆で幸せになろう。僕の魂にかけて君達とはもう絶対に離れないから」


「リュウ……」


「リューくん!」


 そうして僕らは輪になって抱き合い絆を確かめ合った。誰かにわかってもらえなくても構わない、僕らが紡いできた魂の記憶全てを使って出した、僕らだけの答えだ。



「やっと答えを出したね?この時を待っていたよ」


 僕らの間から眩い光が現れる、まさか……



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