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僕の仲間には生きてる人がいません  作者: らんこ
六章 旅する理由
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転移

 ――――遡ること三日前のことだ。僕はキルケーさんに山賊討伐の件で妙案はないものか意見を求めていた。


「それで、なんとかして山賊を懲らしめたいなと思って」


「ふぅ~ん、敵討ちってやつ?……僕は立場上、殺生は容認できないの……自分で頑張って?」


「いや、捕まえて憲兵に突き出せれば僕は満足だよ。さっちゃんを酷い目に合わせた分の罪をきちんと贖ってくれたらそれで」


「そっか、そういうことならいいよ。力を貸してあげるの」


 そう言いキルケーさんの詠唱が始まる、聞くと頭が痛くなるので聞かないようにしないと……果たして僕にどんな力を貸してくれるのだろうか。やっと異世界転生物語らしい力が僕にも……そう思って期待に胸を躍らせる。


「西の山脈だよね?」


「あ、うん。そうだよ」


「いってらっしゃい」


「え?」


「遠いから困ってたんだよね?」


「違っ!あっ、うわぁあああ!!」


 突然、足下に大穴が……僕は為す術なく落ちていった。



 そうして今に至る、西の何処かに転移した僕は唖然としているところを山賊に見つかり牢屋の中だ。


 ――珍しいな、異国のガキか?好事家が買うかもしれねぇな。牢屋にぶち込んどけ――


 こんな理由で僕は三日間ここに閉じこめられている。どうにかしなければ僕はどこかへ売られていくのだろう……幸いにして殺す気はまだないようで食事は出てくる。ただ、とてもじゃないけど人間の食べるものとは思えないものばかりだ。

 二日目までは食事を拒否していたが飢えに堪えかねて、今日は貪るように食べた。美味しくはないが命は繋げるだろう。


 死にはしないとはいえ、ここに留まり続けても碌な事にはならない。逃げ出す機会を伺ってはいるが、格子はどうやっても外れそうにないし、叫んだところで現れるのは山賊の誰か以外有り得ないだろう。既に万策尽きている状態だ。


「おう、ガキ。生きてるか?死んだら売り物にならねぇからな、死んでも死ぬんじゃねえぞ」


「イタタタタ!お腹が!お腹が痛い!!」


「ああ?腹痛だ?どれ……うん、我慢しろ。そのうち治まる」


 仮病もだめか、明日の朝は死んだふりでもしてみよう。


「おーい、そのガキ連れてこいってよ!お頭がお呼びだぞ!」


「うーぃ、連れてく連れてく……おら、立ちな坊主。こっちだ」


 今は従う他ないか、仕方なくついて行くと洞窟をくり貫いて作った広間のような場所にでた。辺りを見回すと腕組みして立つ山賊達の他に顔を隠した人達が何人もいる。ここはどういう場なのだろうか。


「次の商品は、珍しい異国の少年だ。年の頃は十四~五か、まずは金貨十枚からだ。誰かいないか?」


 これは……競売だろうか。異国の少年……うん僕だ。歳はこの国の人からみたら僕のような風体は実際より幼く見えるらしい。たしかパパさんも僕がさっちゃんより年下にみえると言っていたっけ。パパさんとママさんは今頃どうしているだろうか。変わりなく元気でいてくれたら――


「おらっ!何ぼさっとしてんだ!おめぇの番だから早くいけや!」


 お尻を蹴り上げられて現実に引き戻される、これから僕は売られていくのか。僅かに高く作られたステージのような場所にむかって歩いていくと、反対側にも見張りの山賊が一人いる。僕はステージを通り過ぎ、出来るだけ悪党じみた表情を作りながら山賊の隣に立った。


「おい、交代だとよ……お頭がお前を喚んでたぜ?」


「何言ってんだお前」


 思いっきり小突かれて、僕はステージの上に引きずられていく、ああ~まず~い!たすけて~!


「あっはは~ん!ごめんなさぁい!!売り飛ばさないで下さいよぉ~お願いします~!」


 僕は泣きながら土下座したが汚いものを見るような目で一瞥されただけで何の効果もなかった。



 結局、僕が地べたに寝そべったままジタバタと泣いてだだをこねたせいで競売が台無しになり、しこたま殴られた後また牢へ放り込まれた。


「おめぇも馬鹿だなぁ……あんなことしてねぇで早く誰かに買われた方が楽だったかもしれねぇのによ」


 そうは言っても売られたら帰れなくなるじゃないか……僕はさっちゃんやクロエのところに帰りたい。パパさんやママさんにまた会いたい。


「次はあんな馬鹿な真似すんじゃねーぞ、わかったか?」


「あれ?君は……」


「ああん?なんだよ」


「いや貴方じゃなくて……後ろの貴女ですよ」


「はぁ?誰もいねぇじゃねえか!なんなんだてめぇはよぉ!」


「そこの貴女、僕の手に触れてくれませんか?」


「男同士で気持ちわりぃな……父ちゃんでも恋しくなったかガキ」


「聞こえますよね?どうかこの手を」


 その指先が触れると、彼女の歪んだ想念が形となり像を結ぶ。


「お、おい……なんだこりゃあ……」




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