クロエ
最近はいつになく気分がいい。気分がいいと、ただでさえ気体のような身体が更に軽くなったような気がする。それもこれも海の街にきて、初めて職に就くことができたからだと思う。
これまで何度も生き死にを繰り返してきた前世の記憶を全て辿っても、私が仕事をしていた過去はひとつもなかった。この私、クロエが初めて成し遂げた、ひとつの誇りだ。
過去の私を振り返ると、まず私自身は成人前に謀殺されてしまった。このお陰でリュウ達と出会えたのだけど……。クロエ以前の私は自死したり誰かに殺されたり、病気で死んだりと散々だった。どんなに長く生きても十五歳になる直前までの命だ。
特に酷かったのは、身体が弱く産まれたときで、それが元で忌み子として土蔵に閉じ込められて暮らした。誰とも話さない生活で人と会うのは食事が運ばれてくるとき、それと代わる代わるやってきては私を慰み者にする祖父や父くらいか。
結局その時の私は身動きさえままならない身体で、いつしか衰弱して突然死んだ。思い返せばどんな時でも『いつかここから連れ出してくれる誰か』を夢見ながら生きてきたように思う。
前世の記憶が全て繋がって、待っていた人がリュウだとわかった。そして無念のうちに死んでいった私が積み重ねてきた気持ちをやっと伝えられたんだ。それだけでも充分すぎるくらいに僥倖の極みだったのだけれど……
私はリュウとカーミラのお陰で大いなる自由を得た。今までを思えば外の世界に出られることさえ叶わなかった私が今は大切な人達と思うままにこの国を巡っている。
旅をするという夢が叶った、そうする内に恋をして、全て思い出して、愛を伝えて、働く喜びも知った。私にはもう何も思い残すことはないくらい、沢山の思い出を得た。
それでも私がいつまでも現世に留まり続ける理由は、リュウとサニアと三人で、この覚めやらぬ夢をいつまでも共に見続けたいという想いだ。
どれだけそう願ってもいつかは旅が終わる日が来るのだろう、その時に悔いが残らないようにしたい。私は自由、だから望めば何でも出来るんだ。
そう……いつかはリュウとだって……
もう私に刻まれた魂の傷とやらはすっかり無くなったんじゃないかと思う。毎日がこんなにも素晴らしい気分で過ごせるのだから輪廻に禍根を残すような何かがあるとは到底思えなかった。
そうだ……またリュウとサニアに大好きだと伝えよう。そうしたらまた皆で幸せを感じられるのだ。




