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僕の仲間には生きてる人がいません  作者: らんこ
一章 旅のはじまり
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告白

 この得体の知れない力を授かり異世界へと転生した僕という存在は未だ僕にとって未知のものだ。もう少し!後少し!と元気に僕を励ます隣のあの子はゾンビ娘さん、僕が亡骸からうっかり生み出してしまったものだ。死霊術というだけあって魔法の類なんだろうけど僕にその知識はない、しかし力だけは発動した。うっかり墓場で発動させてしまったらゾンビまみれになるんじゃなかろうか……制御できない力に不安が募る。当面の課題はこの力の扱い方を学ぶことにあるようだ。


 決意を新たに、そして倒れそうな身体に渇を入れて力強く歩き出す


「お兄さん!置いてっちゃいますよ~はやくはやく!後少しなんだから!」


 ゾンビ娘さんはウキウキとした様子で駆け回る。空元気なのか、ゾンビだからスタミナが無限なのか随分と元気に振る舞うんだな……陰気な僕を気を遣ってくれているんだろう、優しい人だった。


 走って立ち止まりニコニコと手を振る、ちょっと距離が空いてきてしまった。僕も頑張ろう。


「早く~!おに~さ~ん!」


 独りじゃないってなんだか嬉しいな、彼女ような明るい人と旅ができたら……


「お……に……い……ううーー……あーーー……ヴォーー!!」


「ひぇっ?!ど、どうしたの?!」


 急に人ならざる呻き声をあげながらユラユラとした緩慢な動きになる彼女


「ヴォーー!!」


「あああああ!ちょちょっ!!なになになに?!」


 全速力で走ってくる!怖い!怖いよ!ゾンビ映画でみたまんまのダッシュゾンビだった。生でみるとこんなに怖いのか、正直漏らしそうだ。


「ヴォーー!!ってあれ?お兄さんどうしたの??」


「ヒィーーー!……えっ?」


「えっ?」


 イタズラではないようだ。お互いに意味がわかっていないみたいだし、もしかして距離が離れると僕の魔力が足りなくなって知性を維持できなくなるんだろうか。もっと離れてしまうと魔法が切れたり……。


「ちょっと実験したいんだけど、手伝ってくれる?」


「実験ってなんのです?」


「君はそこに立っててね、僕が遠ざかるだけ」


「それって何の実験なんです??」


「大丈夫大丈夫、君に害のないようにするから」


 そういいながら小走りで遠のく

 まだ大丈夫

 また小走りで……

 まだ大丈夫

 また小走りで……「ヴォーー!!」

 うーんやっぱり距離か、200mってところかな


「実験どうでした?」


「うん、バッチリだよ。それで大事な話があるんだけど……いいかな?」


「うん?どうぞどうぞ」


「うん、あのね……その……ずっと僕の傍にいてほしいんだ」


「ええええええ!それって!ああああ!!あの!はぇ~~~……」


 彼女が揺れている、目も虚ろだ。やはりゾンビ化で知能が落ちてるのか実験の負荷が大きかったのか心なしか頭から湯気がでているように見える、オーバーヒートしたようだ


「わ!!わかりました!こ、こ、こちらこそ不束ものですが!宜しくお願いします!」


「?宜しくね、ずっと一緒にいるから安心してね」


「は、はい!!……ゾンビになってもうおしまいかと思ったけど、こんな私にプロポーズだなんてそんな……嬉しいです」


「んんんんんんん?!」


「良き妻となれるよう頑張ります!!」


「いやいやいや!!違う違う!」


 僕は慌てて事情を説明するも彼女はすっかり不機嫌だ、言葉足らずで誤解を招いたとは言え彼女も性急すぎると思うんだけど……生前は結婚願望が強かったんだろうか


「怒ってないですっ!もう怒ってないってば!!」


「あっ……うん……。でもその一緒にいたいなって思ったのは本当なんだよ、君みたいな明るい子が一緒にいてくれたら旅もどんなに楽しいか、ってね」


「そ、そうなんだ。ふーーん……そっか」


 どの道彼女を置いていくことは出来ないだろう、離れた瞬間に彼女は知性を無くした魔物になってしまう。彼女にもそれは説明したが、今の彼女の笑顔にはそういった不安の陰りはみられなかった。


「いやぁ、正直に言うと花嫁さんに憧れてて、子供みたいで変だよね?」


「そんなことないって、きっと似合うよ花嫁衣装、お腹のあいたドレスは着られないけどね」


「ふふっ!そうだね。こんなでも私はここに居る、あなたと一緒に、ここに居る」


「うん、確かにいるよ」


「まだまだ私には出来ることが沢山あるんだと思うと嬉しくて仕方がないよ、だってあのまま死んでいたら全て無くしていたんだから」


「君がやりたいこと全部やろうよ、僕でよければ付き合うから、責任もあるしね。それに僕もこの世界でやらなきゃいけないことを見つけないと……君と一緒なら楽しく探せそうだ」


「お兄さん……わかった!お母さん達にお別れをしたら一緒にいくよ!」


 こうして僕らは旅の仲間となった。終わりも目的も見えない旅だけれど、一緒なら楽しく旅ができそうだ



「いつの間にか敬語やめてるね」


「あっ、ごめんなさい……気になるかな」


「ううん、逆。敬語なんかよりそのほうがずっといいよ」


 彼女が微笑む、いつしか僕は彼女の街のまえに立っていた。なぜこんな所に立ち尽くして彼女と微笑ましく雑談に花をさかせているかというと、いくつか事情があってのことだ。


 ひとつ、彼女の腹部には大穴が空いている。こんなものを一目でもみたら何事かと大騒ぎになるだろう。

 ふたつ、彼女はゾンビだ。致命傷をうけても血が流れておらず死んでもいない。そんなものが街を闊歩していたら即座に滅せられるだろう。


 彼女からは離れられない、しかし彼女は街に入れない、変装のための道具も調達しにいけないジレンマから現実逃避をしていたわけだ


「お兄さん、仕立屋さんなら門をくぐって左手にすぐだから、ローブか何かがあれば多分だけど大丈夫だよ」


「わかった、できるだけ門の近くにいるようにね。急いでいってくるから待っていて」


 僕は急いで仕立屋に向かう、たしかにすぐあった。それにしても神様パワーはすごいな言葉だけじゃなく字も読めるなんて素晴らしいご都合主義だ


「あっ」


「銅貨五枚だよ、お客さん」


 店主のおばさんに催促されても僕はお金をもっていない、困った実に困った


「この短剣を下取りでなんとかなりませんか」


「ううーんまあいいけど手間だねぇ……」


「野党に襲われた女の子を保護して連れてきたんですが、その……そのときに彼女の服が……そのままだと外を歩かせるわけにもいかなくて」


「……まあ難儀なことだね、同情はするけどさ、こっちも商売でね。短剣はあんたが必要だろう?無くしてどうやってその子を守るんだい?」


「それは……」


「出世払いでいいさ、ただこちらも商売だと言ったね?覚えているかい。坊やの足下をみて銀貨1枚だ、銅貨5枚から倍だよ?その子のために稼いでこられるかい」


「そうして貰えると非常に助かります、もちろん稼いでお支払いします。絶対ですよ」


「そうかい、それなら知り合いのつてで良い仕事があるんだ。紹介してあげるから用が済んだらまたおいでな。どうせ宿もまだなんだろう、一晩くらい泊めてやるよ」


 銀貨一枚 出世払いでローブと寝床、か。相場はわからないが悪くない話だと思った。それに店主のおばさんは優しそうな人だったし信用できそうだ


「お待たせ!」


 走る必要はなかったのだけど退屈させては悪いような気がして急いでしまった。彼女は小石をコツンっと蹴ったあと僕をみた。


「これ、羽織って。お腹も隠れるしフードもついているから」


「綺麗な薄紅色……もしかして私の髪色と合わせて?」


「う、うん。まあその……似合うんじゃないかと思って」


「こんな風に男の子に贈り物を貰うなんて初めてで……凄く嬉しい!ありがとうお兄さん」


「う、うん。うん。どういたしまして」


 照れくさいが気に入ってくれたみたいだ、正直に言うと血糊がついても分かり難いかなと思ったからなんだけど結果的に良かった。


「さぁ、お兄さん!行こう!ね?」


 僕の手をグイグイと引っ張りながら彼女が急かす、先ほどまでどこか寂しそうに退屈な表情を浮かべていた彼女より、こうして楽しそうな彼女のほうがずっと彼女らしく見えた


「ここなんだ、私のお家」


「僕は外で待っているよ、僕もいくとややこしくなりそうだからさ。説明に困ったり話の流れで必要になったら呼んでね」


「わかった、それじゃあいってきます!」


 彼女は拳を握り締めて気合いを入れているようだ、これから自分は死んだと家族に伝えるために

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