南へ
「みんな、心配かけてごめんね。私もう大丈夫だから」
昨日の憂鬱そうな表情はすっかり晴れていて、僕らを安心させるように微笑んでいる。少し雰囲気が変わったような気がするな、さっちゃんの中で何かが変わったのだろうか。
「よかった……安心したよ。さっちゃん」
「うん……ありがとう、リューくん」
いつもの呼び方だった、そういう形で彼女のなかで折り合いがついたのだろう。なら、僕もそれに応えたいと思う。
「サニアも元気になったことだし、そろそろ私達、旅に出るべきだと思うの。ここでは一度に色んなことがありすぎたわ、ずっとここに居てもまた辛くなるだけだと思うから」
「そうだね、なら次はみんなで南に行こうか。海の街だっけ。」
「うん、この国で唯一貿易のための港があるんだ。外国の人も沢山いて賑やかなところらしいよ。」
貿易港か、珍しいものが見つかるだろうか、少し楽しみだ。そんなことを考えているとクロエがススッ…と静かに近付いてきて僕と手を繋いだ。沙樹が小さかったときの事を思い出す。
「なにやってるの?リューくん、クーちゃん。私が真ん中だよ?」
「だめよ、私が先なんだから真ん中は譲らない」
「これじゃ捕まった宇宙人みたいだよクロエ……」
それならと僕が真ん中にされてしまった。子供達を遊びに連れ出す休日のお父さんみたいだった。もし僕に子供がいたとして、こうして慕ってくれる子供達も大きくなったら『お父さん臭い!』なんていいながら離れていくんだろうか。さっちゃんとクロエに邪険にされる様子をつい想像してしまう。
「えっ?!リューくん泣いてる?!なんでっ?!」
「なんか気持ち悪いわね……何を考えてるのかしら……」
早速、散々な言われようだ。こうして僕らは以前のように笑い合える関係に戻れたんだと思う。少しだけ積み残した問題を心の奥底にしまい込んで。
それから僕らは、いそいそと旅支度をはじめる。この街では沢山のことがあった、もう充分だ。荷造りを済ませると僕らは誰にも告げずに旅にでた。
南にある、海の街を目指して。




