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私達の決意

 わかったことがある。それは私の中に渦巻いていた『嫉妬』という黒い感情の正体だ。私を嫉妬に狂わせていたものは『沙樹』、兄を独占したい感情が私の心を黒く染めていたんだ。


 先ほどのリューくんとクーちゃんを見ていたときもそうだ、私の知らない遥か昔の二人の紡いだ想い、私には想像も及ばないことだ。それを否定することなど出来るはずもない――だけど私は耐え難い嫉妬に狂っていた。その全てを打ち壊してしまいたい欲望で気が狂いそうになっていた。


 これが私の中の『沙樹』だ。『サニア』ではない私の一面、受け入れがたい私の中の異物だった。『サニア』である私はクーちゃんのことがとても好き、それは今も変わらない。リューくん、クーちゃん、私、三人で手を取り合って旅をしてきたはずだった。それを私の中の『沙樹』が認めようとしない。


 ――クロエなんて追い出してしまえばいい、奥手で気弱な兄は押し倒してしまえばいい、今は血の繋がらない他人なんだ何を躊躇うことがある、欲望を叶えろ、望んだものを手に入れろ、何のために転生したのか、顔立ちは前より綺麗になった、身体もあの頃より大人になった、クロエだって私の前でやってみせたんだ、私もやるんだ


 嫌だ嫌だ……そんなの私じゃない。リューくんにはこんな私を見てほしくない、『サニア』を愛してほしい……


 ――なら、どうするの?サニア、兄さんのことは諦めるの?私みたいに


 諦めたくない……大好きなのに……沙樹がおかしなことを吹き込まなければ私は今まで通りでいられたんだ……沙樹のせいで私は……


 ――私のせい?じゃあサニアは少しも妬かなかった?少しの肉欲もない?兄を独占したいと思ったことも一度だってなかった?


 それは……


 ――私はあなた、あなたは私、私達は一人の人間なの。あなたがそうやって私のせいにしたところで、あなたの中に元々あるものは何も変わっていないんだよ


 やめてよ!やめて……私はそんなに卑しい女じゃない!あなたと一緒にしないで!


 ――好きな人に想われたい、身体を重ねて確かめたい、ずっと一緒にいたい、私だけを見ていてほしい。どれも普通のことだよ……それが卑しいことなら、サニアは兄さんに何を望んでいるの?自分の欲望を兄さんのせいにして、『受け入れてあげてるんだ、させてあげるんだ、自分は優しい出来た女なんだ』と思いたい?それこそ卑しい女だよ……自分からは何もしない、相手を絡め取ろうとするだけの不誠実で最低の女……


 やめて!もう嫌!その話はやめてよ!!


 ――都合が悪くなると癇癪を起こし話を一方的に打ち切って被害者気取り、まるで母さんみたいね。きっと私を突き飛ばしたあの女も、捕まったあとはあなたと同じように癇癪を起こしたんでしょうね。こんな私より、なお悪いわ。


 私は実の兄と関係を持ちたいなんて考えるような変態じゃない……あなたなんかと一緒にされたくないの……


 ――聞こえなかった?なお悪いと言ったの。兄と妹であって男と女にはなれないのは私もわかっていた。それでも愛し続けるだけなら、大切に想い続けるだけなら……それを誰かに咎める権利なんてない。それに私は二度と諦めたくない、私は自分の気持ちに誠実であり続けたいの、兄さんやクーちゃんみたいに。二人を見たでしょ?私達では及ばない……ずっと遠くへ行ってしまうよ、もう手を伸ばしても届かない遠くへ。私達の気持ちが届かなくなったとき、あなたはどうするの?


 私が何もしなければ、リューくんは未来のクーちゃんに対して誠実な生き方を選ぶのはわかってるよ。そうなったらもう私なんて見てくれない。想いが残らないように、私を置いてどこかへ去ってしまうと思う、そして二度と帰ってこないんだ。


 ――大丈夫……兄さんはサニアが好きだよ。私じゃなくサニアが。クーちゃんもずっと前から知ってたみたい。今生で報われようとせず来世に託したクーちゃんの想い、命を越えて諦めない決意、サニアにはわからない?クーちゃんはサニアのことも愛してくれてるんだよ……サニア、あなたには皆がいる。兄さんしかいなかった私とは違う……ううん、私には今あなたがいるね……


 沙樹……あなたは……


 ――私はあなたの『欲望』あなたが望むもの願うこと全ての源、綺麗なものも穢らわしいものも全て私達のもの。私の声に耳を傾けて、そしてあなたが望む方法で、あなた自身の想いで力で欲望を叶えてほしい。抑えつけて歪んでしまう前に、真っ直ぐに美しい気持ちのままでいられるうちに。



 私はサニア、あなたは沙樹

 私は沙樹、あなたはサニア



 私はリューくんが好き

 だから、私は……


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