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四人目

「え~やだぁ!馬小屋なんかに呼び出して二人きりだなんて……リュウくんもしかして私のことを?!駄目だよ!こんなところではじめてを迎えるなんて……」


「神罰ってそういう仕打ちのことなんですか?話があるからって呼びつけたのはそっちでしょ?例え神様でも怒りますよまったく……アホくさいので戻って寝ます!」


「待った待った!ちゃんと話すから!ちゃんと話すから!!いや実はさ~リュウくんを死霊術師にしたことが神界で問題になっちゃって……神様クビになっちゃったのよ」


「えっ、神様ってそういうものなの?」


「ん~なんて言うんだろ。君にわかりやすく言うと……役職みたいなものかな。私達神族のなかで選ばれた人が神として特定の役割を担うの。私の場合は生き物の生と死を管理するお仕事ね」


 それで生き死にに干渉するイレギュラーを作ったせいで叱られたということなんだろうか。死霊術は神界では外法とか言っていたし、かなりまずいことをしたんだろう。


「細かい内情は置いておくとして、それで神界を追放されそうになったんだ私。追放されちゃうと神としての力の殆どを剥奪されちゃうから、その前に自分の身体を作って下界に降りてきたってわけ!リュウくんのときと違って慌てて作ったから少しバランス悪いんだけどね、これ」


「今の神様は僕と同じ人間ってことなんですか?」


「そうだよ~せっかくだから肉の身体があったほうが、ここで生活しやすいと思ってさ!ほら触ってみる?柔らかいよ~」


 そう言って見せ付けるように胸を揺らしているが、触ったら思う壺なのだろう……無視だ無視


「あら~?昼間はあんなに凝視してたのに?」


「ヴッ!!僕らが居たことに気づいてたの?!」


「もちろん!あのあたりで待ってたら通るかなと思って半月くらい働いてたんだもの。見逃すはずないよ~」


「えぇ……何してんですか神様……」



「だから前に話したかったことを話すためにね」


「そんなことを言ってましたね……で、何です?」


「ん~とね。リュウくんは死霊術師の勉強がしたいと思ってるみたいだけど、残念ながらそれは無理!そもそも魔法は人間のものじゃないから人の書物もないし扱える人もいません!」


 早速、僕の旅の目的そのものを否定してくる神様。それじゃあ一体僕はどうやったらこの力を扱えるになるんだろうか。


「そもそも魔法は神の力、神威(しんい)を効率よく扱うために体系化された学問なの。呪文はそのための公式や定型文ってわけ。神格をもった選ばれた神族にしか扱えないものだから君がどれだけ頑張っても一言だって理解できないから諦めてね」


「ええ……でもそう言われても僕だってこの力が気紛れに発動するのは困るんですよ。安定化させないとさっちゃんやクロエが安心できないでしょう?なんとかならないんですか」


「うんうん、ママはリュウくんが他者を思いやる優しい子に育ってくれて嬉しいよ!そこで君に朗報なんだけど、私は魔法の力を君に授けた、つまり神威の一部を君に分けたってことなんだよ。」


「それのどのあたりが朗報なんですか?」


「わからないかな、説明が足りなかったかも……神威というのは力そのものであって心で動かすものなんだ。魔法は神格の持ち主しか扱えない特別な呪文だけど……この違いはわかるかな。心は君も持ってるよね?つまり心の持ちようでは君にも神威は扱えるってことだよ。まあ限られた範囲でだけどね」


 なるほど、だから僕の感情が高ぶったときに発動するのか……さっちゃんのときもクロエのときもそうだった。


「君に授けた死霊術師の力のひとつ、それは死者と手を携える力だよ。君の心が死者の魂に触れたとき、その魂に寄る辺を与える神の力というわけ」


「えっ?それだけ……?」


「そうそれだけ、これ以上いろいろ出来るようにしちゃうと力に押し潰されて死んじゃうからね?神の力とは慈愛と慈悲の力、迷える魂を救うための力であって優しい気持ちじゃないと使えないからね、覚えておいてよね。どう?危ないものじゃないとわかって安心した?」


 確かに安心はしたけど、やっぱり僕の知る異世界転生物語と現実は全くかけ離れたものだった……


「魔法が扱える神なら唱えるだけで死者をぽんぽんとゾンビに変えていけるんだけどね。言った通り君には無理だから。ただ君の願いを叶える物は一応あるんだよ。」


「僕の願い……つまりさっちゃんやクロエが安心できて不便がないような生活が送れる方法があるんですか?」


「そう、君の魂に植え付けた神威を強化するための道具があるの。この世界には私みたいに時々神が肉体を持って降りてくることがある、その時に残していったものは神界と下界を繋ぐ特別な境界線になってるのよ。」


「どういうものなんですか、それは。」


「この世界では聖遺物や禁書と呼ばれているものね。人に身をやつして降臨した神が肉の身体という枷とは関係なく神威を振るうための道具といった感じ」


「それと僕とはどういう関係なんですか?何が起こるのかわからないと怖いですね」


「君の大切な子達が不便を感じないようになる、くらいかな。授けた力が強くなって安定するだけ、魂の力をうまく呼び出すための道具でしかないから。ま、呪文のかわりの道具みたいなものね」


 聖遺物とか禁書とかいう大仰な名前の割に効果は地味だな。


「ちなみに人間が触れたり読んだりすると頭がパーになったり廃人になったりするから気をつけてね。今回は私が介入して良い効果だけがリュウくんに残るようにするから、私の指示に従うようにね」


「え、それって」


「ん?君達に同行するって言ってるんだよ?禁書は王立図書館にあるから一緒にいこう。君達だけじゃ絶対見つけられないからね、禁書。詳しい話は探しながらするから」


「ええ……」


 結局このやたらとグイグイくる変な神様が僕らの旅についてくることになってしまった。



 本当に今日はろくでもない目にあってばかりだ。疲れて頭も回らない、さっさと部屋に戻って寝よう……




「それで?なんでカーミラさんもご一緒なのかな?リューくん」


「家賃ばかにならないし借りてた部屋引き払ってきちゃった。今日からよろしくね!」


 心休まる暇さえ僕には許されなかった





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