馬車に揺られて
商人の街へ向かう道中、手綱を引くリューくんと、その横で無邪気にはしゃいでいるクーちゃんを眺めながら、私はぼんやりと今までの自分を省みて自己嫌悪していた。
思えば森の都に滞在するようになってから、私は自分の気持ちについて腑に落ちない部分があったと思う。
それは『嫉妬』。
リューくんの事は確かに好きだと思う、傍にいて触れ合う度に心の奥底が暖かくなるようで、とても心地が良い。
私が死んだとき、彼が流してくれた涙が今でも私の胸の奥を温め続けてくれているのを日々感じる。
彼に甘えるのも好きだった、特に春先は寒さに託けてよく甘えてたっけ。今は口実がないのでなかなか甘えられないでいる。
それなのに無遠慮にベタベタと甘えるクーちゃんや、ニアさんのことをとても憎らしく思っていた。
私はこんなにも嫉妬深い女だったっけ、恋らしい恋もしたことのない私には自分が恋をしたときどう変わるのか予想もつかなかったけれど、ここまで嫉妬深くなれるものなのかな。
そもそも、私はあれほどまでに他人に甘えられる人間だったかな。子供の頃はお母さんに沢山甘えていた記憶はあるけど、親離れはそれなりに早かったように思う。
生前は一人で行動するのが好きで、何でも一人で挑戦したし、何処へでも一人で出掛けていた。
同年代の女の子達は同性で群れるか男の子と一緒でなければ行動したがらない子が多かったように思う。私にはない感覚だけど女の見栄というものなんだろう、お一人様は哀れに見えてしまって自分もそんな目で見られたくないというところかな。
そんな一人好きな私が今は彼の魔力に縛られて生活しているわけだけど、不思議とそれも心地良く思えている。これがゾンビとなった私が魔力に惹きつけられているだけで、私の本心ではないのかもしれないと思ったこともある。ただ、彼と一緒いて感じる幸福感や見つめ合ったときに感じるときめきは、魔力への依存心の一言では説明がつかなかった。
そういうささやかな恋心とは少し違うところに、私のものとはとても思えない嫉妬心がどす黒く渦巻いていて、私にひとつの疑念を抱かせるものになっていた。
魔力による繋がりで彼への執着心が湧くのは想像に難しくない、それ自体に疑問も不快感も持っていないし、何よりそういう執着心を上回る好意を持っていると思う、それが私自身の本心。
ただ嫉妬心に関しては本心とは思えないでいる、あまりにも私らしくなかったし、リューくんやクーちゃんに対して攻撃的な態度をとってしまうこと自体に深い嫌悪感がある。
魔法の影響でもなく、私自身の想いでもない、そんな得体の知れない強すぎる嫉妬心がとても恐ろしく感じる。
クーちゃんやニアさんについては彼女達の心の傷や悲しみについては理解していて同情もしている、リューくんのように寄り添って少しでも彼女達の苦しみを和らげたいとも思う。
そう思っていても私のなかにいる私のものでないどす黒い感情がそれを邪魔してくるんだ。
王都でリューくんの力の謎が解き明かされたら、私のこの黒い気持ちの正体もわかるのかな。
リューくんも好き、クーちゃんも好き、ニアさんも好き、私は私の大切な人達を好きで居続けたい、旅を続けていればそんな私の自身の願いを叶えられる人間になれるかな。
こんな黒い感情に負けない人間になりたい。
「街が見えたわ!リュウ!サニア!ほら見て!」
そう言って輝くような無邪気な笑顔で笑うクーちゃん、今の私はあんなにも綺麗な笑顔を見せられるのかな、リューくんの心に届くような笑顔ができるのかな。
このままだと、いつかリューくんに嫌われてしまうかもしれない。そんな想いが私をどこまでも焦らせた。
これからの旅のなかで私のことを強くしてくれる何かを絶対に見つけなきゃ。




