王都へ?
森の都を発ち、一日が経った僕らは途方に暮れていた。
地図上では森の都から東東南、山間を抜けて王都へ続く旧街道があるのだが柵が据え付けられており通行止めになっていた。
理由は定かではないが土砂崩れや整備不良、または軍事的な事情などが考えられる。
このままでは当然先に進めない。
「一旦引き返して、旅の街から東の街道を通った方がいいんじゃないかな?クーちゃんに旅の街をみせてあげたいし」
「サニアの故郷よね、これも何かの縁だと思うわ。私も見てみたいし引き返しましょ」
距離的にはこちらのほうが近道ではあるのだが無理に通っても王都まで一切の補給ができそうにない道だし、彼女達の言うとおり引き返すのが賢明なようだ。
想定外ではあったが僕らは帰郷を果たす、せっかくなので数日骨休めをしてから王都に向かってもいいだろう。
旅の街までおよそ一日半の移動になる。どこかで野営するか北の村に立ち寄るかだが赤っ恥をかいた手前、村へ寄る気は起きなかった。村のすこし前で野営をし、翌朝早くに発とう。
途中で野営をするよ、と伝えたところクロエの瞳が輝く。
「キャンプをするのね?皆で火を囲んだり馬車のなかで一緒に眠ったり……うまれてはじめてよ。とっても楽しみ」
「さすがに三人はで寝るのは狭いんじゃないかな?僕は見張りでもしながら外で眠るよ。一応男だし君達を守らないとね」
「えっ、リューくん一緒に寝ないの……?」
「女の子扱いしてくれるのは嬉しいのだけれどせっかくのキャンプなのだし一度くらい皆で一緒に寝ましょうよ、きっと楽しいわ」
結局押し切られるように皆で眠ることになったがクロエのイタズラが止まず僕らは碌々眠れずに夜を明かした
「つい楽しくて夜更かししちゃったわね」
「クーちゃんは寝ないからいいかもしれないけど私達はちっとも眠れなかったよ……」
「ごめんなさいね?幽霊生活も長いと睡眠ってどういうものだったか、よくわからなくなってしまって気遣いに欠けていたわ」
「そういうものなの?それじゃあクーちゃんこっちにきてごらん」
そういってさっちゃんはクロエを抱きかかえて寝かしつけるように撫で続けた
「年下の女の子にこうして甘やかしてもらえるなんて、なんだか興奮するわね」
やはり睡魔とは縁遠いクロエだった。
そうこうしているうちに旅の街が見えてきた
「ほらクロエ、あれが旅の街だよ」
「あの街にサニアのお父様とお母様がいらっしゃるのね?きちんとご挨拶したいわ。リュウ急いで頂戴」
そういってバタバタと跳ねながら僕を急かすクロエは口調とは裏腹に子供のようにみえた。
「クーちゃん小さい子みたいだね」
「あら、これでもあなた達よりお姉さんなのよ?身体は十四のままだけど」
身体のことではなく行動のことなんだけど……
街は相変わらず人通りが多く賑やかだった、見慣れない人達の殆どは旅人なのだろう。それが街の名前の由来でもある。
「おや?坊やにお嬢ちゃんじゃないか。随分早いお帰りだねぇ。」
「やぁミーシャおばさん。お久し振り、おばさんはいつも元気だね。安心したよ。」
「ハッハッ!まだ心配されるような歳じゃないよ!それで、どうしたんだい」
「北東の街道が封鎖されていて通れなかったんだ。それで引き返してきたってわけ」
「ああ~、あそこは道が悪いからね。普段は使う人も多くないし大方土砂崩れでもあったんだろうよ。それより何日かは居るんだろう?まずはお嬢ちゃんを家に連れて行ってやんな。そのあとうちに顔だすんだよ、約束だからね」
「うん、おばさんまた後でね」
「またね、ミーシャさん」
ミーシャおばさんとは、後でゆっくり話すことにして僕らの家に急いだ。
「ママ~パパ~!ただいま!」
「サニアちゃん?リュウさんも!あなた~!二人が帰ってきましたよ!」
「なんだと!!今行くから待ってなさい!!」
「サニアちゃん、よく帰ってきたわね。ほらママによく顔をみせて」
そう言いママさんはさっちゃんにキスの雨を浴びせた。
「ママさん、僕には?」
「はいはい!リュウさんもですね、チュッチュッ」
本当にしてくれるとは……
「リューくんはだめだよ!ママもなにやってるの!」
「あっ!!リュウ!貴様ぁっ!私の妻になにを!!」
「た、楽しいご家族ね?サニア」
さっちゃんの背中に隠れるようにしているクロエが恥ずかしそうな面持ちでひょっこりと顔をのぞかせた。
「あら、サニアちゃん新しいお友達?なんて可愛らしい子なんでしょ~あなた!ほらサニアちゃんのお友達ですよ!」
「はじめまして、お父様 お母様。私は森の都のクロエと申します。今はサニアさん達と一緒に旅をしておりますの、よろしくお願い致します」
「しっかりした娘さんだなぁ」
「よくいらっしゃいましたねクロエちゃん、よろしくお願いしますね。」
「お母様……」
クロエが不意にママさんに抱き付いた
「あらあら甘えん坊さんね。クロエちゃんにも、チュッチュッ」
「クーちゃんの可愛さに惑わされちゃ駄目だよ!ママとひとつしか歳違わないんだから」
「そんなわけないでしょ?こ~んなに可愛いのに。もうひとり子供がいてもいいわね。ね?あなた」
「あ、ああ」
「ママさん、クロエは三十二歳ですよ。十四の時に亡くなったので見た目はそのままですが……」
「あなた達さっきからうるさいわよ、歳のことはいいじゃないの。私はお母様が好きなの、それだけよ」
「あらまぁ嬉しいわ。何も気にせずに私のことはママだと思ってくれて構いませんからね。」
「ありがとうございますわ、お母様」
「リュウ……亡くなったってどういことだ……?ここにいるじゃないか……」
パパさんの声が震えている、この手の話が苦手なのだろう。
「ゆ、幽霊なわけないじゃないか。怪談話でもあるまいし……私はそういったオカルトの類は信じないぞ」
あなたの娘さんはゾンビなのですが……
「お父様、私は幽霊ですが怖くはありませんわ。こうしてお話もできて触れることも出来るんですもの。」
「ま、まあ意志疎通が出来るからには必要以上に怖がる必要はないか……いやいやけして怖いわけではなくてだね」
今更だった
「さぁせっかく帰ってきたのだしゆっくりして頂戴、今夜は腕によりをかけてご馳走を作りますからね」
勇んで王都へ旅立ったものの出鼻を挫かれたが結果的に皆幸せそうだ。
夕食後はさっちゃんもクロエもママさんにべったりで娘が二人になったと言って大喜びだった。
個人的にはママさんが三十三歳だったことが今日一番の驚きだ、この世界は結婚や出産が早いことは知っていたが僕の母より十も若いとは……
ニア先輩や領主様が年齢の話に敏感だったのも頷ける。二十代後半から三十代前半には十代の子供がいるのがあたまえの世界なのだから。
せっかく帰ってきたのだから二~三日ゆっくりしてまた頑張ろう
明日はミーシャおばさんの所と、鍛冶屋にでも顔を出しておくとしようか