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想定外

 結局、あの場では僕の話はできないままに解散となった。

 領主様もとても平静とは言えない状況だったし場の空気というものもある。


 領主様と会えないものか都合をつけようと難儀している内に一週間が過ぎていた。

 この街を発つまでそう時間もない。


 もうひとつ僕の想定を遥かに超えるとんでもないことが起きた。

 今回はこちらが本題になる。


 クロエさんが見えるのだ。


 僕だけではなくみんなに。

 変化は徐々に訪れた、まずクロエさんは城外にもでられるようになった。

 この理屈はわかる、彼女を縛る想念の類がなくなったからだと僕は思っている。

 次に昼日中でも僕の目には見えるようになった、今までは声だけだった昼間にも僕だけには見えるようになったんだ。

 そこから昼でも僕に触れられるようになった、触れることが出来るのは夕方からだったはずが制限がなくなった。

 その変化のなか気軽にコミュニケーションがとれる相手は僕だけというのもあって頻繁に話をするようになったのだが

 つい昨日のことだ、クロエさんは触れていなくても人から見えるようになったのだ。


 ただしまだ制限はある、さっちゃんと同様に僕の半径200mにいることが条件だ。


 つまりまたしても僕は何かやっちゃいました、というわけだ。

 これぞ異世界転生モノの主人公という流れのような気もするが我が身で体験すると恐ろしさが勝ってしまう。


 このおかげでクロエさんは僕らの仕事中は城内にいられなくなった。

 僕らの移動にあわせて突然現れたり消えたりして大騒ぎになったのだ。

 そうして領主様のお城では新たな怪談話がうまれメイド達の間で流行している。


 その間の彼女は街をぶらぶらしたり好きに過ごして

 こうして僕らが仕事を終えて部屋に戻る頃には城へ帰る、という取り決めのはずだった。


「あら、お帰りなさい二人とも」


「た、ただいまクロエさん」


 何故かクロエさんは帰らずに居座っていた。




「細かいことを気にする男の子はモテないのよ?気遣いだけ細かければいいの」


「いえ、そうではなくてですね……」


「私としてはあなたと居るとこうして人と話したりできて楽しいの。無くしてしまった肉の身体がもどってきたみたいよ。それにベッドで眠るなんて十数……何年ぶりかしら。」


「クロエさん、ベッドはひとつしかないんですが……」


「3人で寝たらいいじゃない、嫌なら私はサニアと一緒に寝るわ」


 そうなると僕はどこで……


「それにね、強く手を握りしめたあの時から、私のなかにあなたを感じるの。きっとこういうことになったのも、あなたが私に中に注ぎ込んでくれたからなのね……力を」


 そう言いながらクロエさんは自分のおへそのあたりを撫で回しているのだが

 そうしている最中にさっちゃんの殺気が僕の背中を駆け抜けた


 実際のところさっちゃんの時と同様に僕の感情の高ぶりが力を呼び起こしてしまい

 クロエさんの有り様を変えたんだろう


 さっちゃんとの違いは200m以上離れても普通の幽霊に戻るだけで暴走したりしないことと

 神様が言っていた分け与えた僕の魂が裂けてお互いに死んでしまうということはないという二点だった。


 死んだ人の魂を現世の肉体につなぎ止める力と

 幽体に限定的に現世へ干渉させる力とでは作用や消耗が違うのだろうと思う

 とはいえは幾ら離れても安全という保証はどこにもないので少なくともクロエさんを置いて旅立つというのは無理に思えた。


「私は旅ができれば満足よ、それにねお城の外でお友達も作りたかったの。サニアとあなた、もっと仲良くなりたいわ。そういうわけで私もお泊まりしていいかしら?お友達のお家にお泊まりだなんて生きているころには絶対に許してもらえなかったもの」


「クーちゃんがそう言うなら私はいいよ」


「クーちゃん?」


「リューくんの地元では親しい女の子には渾名をつけるんだって、クロエちゃんだからクーちゃん。どう、リューくん合ってる?」


「う、うん。合ってるよ」


 ちょっと違うんだけどまあいいか


「へぇ、クーちゃんか……お母様でもそこまで親しげに呼んでくれたことはないわね。でも気に入ったわ。ありがとうサニア。」


 さっちゃんの許可がでるのは少し意外だったな

 てっきり怒りだすのかと思っていた


「リューくん……」


 そう呟いたさっちゃんが僕の手を握った

 このところクロエさんの騒動であまりさっちゃんに構ってあげられなかったから寂しくなったのだろうか


「あら、随分と仲良しなのね。羨ましいわ、私も仲間にいれて頂戴?」


 そういって輪になるように手を繋いだクロエさんことクーちゃんは眩しいくらいの満面の笑みだった

 つまるところ彼女は人恋しいのだ

 亡くなってから十数年の間、誰とも接することなく独りで傍観し続けることしか出来なかった彼女がやっと孤独から解放されたということになる

 はしゃいだり甘えたくなるのも仕方のないように思えた


 手を放したクロエさんは渾名がよほど嬉しかったのか突然さっちゃんに抱きついて甘えている

 さっちゃんも僕と同じ考えだったようで、そんなクロエさんを優しく撫でながらママさんのように微笑んでいた


 そんなさっちゃんの優しさと、クロエさんの無邪気さがとても愛おしく思えて

 僕は2人に手を添え寄り添った


「クーちゃん」


「なぁに?サニア」


「ほら内臓」


「ギィエエエエ!!」


 なにをしてるんだ……


 結局クロエさんは泊まっていくことになり、さっちゃんにしがみつくようにして幸せそうに眠っていた

 僕はというと床に申し訳程度の寝床を作りそこで眠った


 クロエさんの一件から色々と想定外のことは起こったがなんとか落ち着いていきそうだ


 あとは旅立ちにむけた資金繰りと領主様から魔法の手掛かりを得るだけだ






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