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晩餐

 予定通り都についた僕らは早速宿を取って近くの酒場で食事にありついた。干し肉以外の肉料理は実に久し振りだ、ママさんの手料理以来になる。


 さっちゃんはどれだけ美味しいのかわからないが感動したのか少し泣いている。は流石にそこまで大袈裟ではないにしても気持ちはよくわかった。


 干し肉もまずいとは思わないがお肉を食べている気分にはなれない。加えて日持ちしない野菜や魚の類も食べられないので、これを機に一気に食べた。

 身体が欲していたんだろう一口ごとに旨みが全身へと染み渡るような感覚で食べる度に気持ち良くなっていった。

 旨いの不味いのというものではなくて、噛んで味わって飲み込む度に気持ちいいという不思議なものだ


 こんな感覚は前世の世界で味わうことはないだろうと思う、そもそも飢えることがないんだから。

 ひとしきり食べ終えたところでさっちゃんとの雑談を楽しむ余裕ができた。それまではお互い一心不乱だったので何の会話もなかったのだ。


「大きな街だしひと月ほど滞在して次の旅の資金を貯めようと思うんだけど、どうかな?」


「もうそんなにお金使っちゃったの?もしかして私たち食べすぎ……?」


「いやいや、まだまだ余裕はあるんだけどね。何があるかわからないし使った分は稼いでおきたくて」


「そっか、私はそれでいいよ。こっちでも良い仕事見つかるかな」


 さっちゃんはミーシャおばさんのお陰か仕事が好きになっていたようだった。また接客の仕事だろうか、彼女がいれば看板娘としては申し分ないだろう。

 僕は性分からか人と接する仕事は気乗りがしない、手慣れた鍛冶仕事が一番だ。


「すこし迷っているんだけど、宿を借り続けるか部屋を借りるか考えていてね。馬車があるからいずれにしても馬宿代はかかるんだけど、僕らが暮らすところのほうが高くつくから悩みどころで」


「ふ、ふーん……私はどっちでもいいけど……どうせならお部屋借りない?二人で住めば安上がりだし……勿体ないよ!宿暮らしなんて!どっちでもいいけどね!」


「う、うん。とりあえず明日から住む場所と仕事探そうか。とりあえず宿の人に聞いてみるよ」


「そういえばママとパパからお返事きてるかもね」


 北の村から出した手紙か、もう返事が届いていてもおかしくない頃だろうな。この世界には郵便局みたいなものはなくて手紙や届け物の類は旅人や商人にお金を払って依頼するものだ。

 手近にそういう知り合いが居なければ街や村の顔役に預けておくことになる。北の村の村長さんみたいな代表者でもいいしミーシャおばさんのような顔の利く信頼できる人でもいい。大きな街では大抵の場合そうした郵便物は酒場に届けることになっているんだ。


 ちょうどいいので郵便物がないか聞いてみよう。


「旅の街のサニア宛に手紙がきていませんか」


 旅の街というのは僕らの出発点となったあの街だ、街道の交わるところにあって行商人や冒険者が行き交う街だから旅の街と呼ばれている。僕はあの街の名前も好きだった。

 あと、パパさん達に自己紹介をしたときに感じた違和感だけれど、この世界の人々には名字がない。どこそこ村の誰々さんというのが一般的だ。名字があるのは貴族や王族の類だけだそうだ。


「旅の街のサニアさんね、旅の街のサニアとリュウ宛で届いていますよ」


「それです、ありがとうございます」


 僕も街の一員だと認めてもらえた気がして嬉しかった


「さっちゃん、手紙きてたよ。部屋で読もうか」


「うぇ?リューくん……?ヒック……!」


 目が据わってる酔ってるのか?

 しかし、なんで酒なんか……


「リューくん!!はやく座っれ!!ほらリューくんも飲んれ!!ぐぃーーーっと!」


「あ、あのーそれ私のエール……」


 お隣の女性のジョッキを間違えて飲んだのか……


「小さいことは気にすんなってーーーのぉ……うぃ……リューくん!!リューくんも早く座っれ!!」


「いやもう座ってるんだけど……」


「なら跪けぇ~!!アハハ!!」


 だめだ、酒癖が悪すぎる


「う~んリューく~ん……」


「さっちゃん、酔っ払いすぎだよ……お水飲んですこし横になろ……」


「やだぁ!!まだだもん!!リューくんリューくん、ちゅう~~」


「うおお!!この酒乱め!!くっ!すごい力だ……っ!折れるぅうう!!」


「抵抗するなぁ!ほれぇ~ほれぇ~……ぐぅー……」


 お約束なんだろうか、寸前で寝てしまった。あのままだと何処かの骨が折れてたかもしれないし、そういうのは素面の時にお願いしたいな……


 お隣のお姉さんも苦笑いを浮かべていた、お詫びに一杯奢ったあとさっちゃんを宿で寝かせることにした。

 手紙は明日の朝の楽しみに残しておこう、どうせなら一緒に読みたいし。


 それにしても酔うとゾンビパワーの片鱗がでてくるのか……さっちゃんは酔拳でも習うといい、きっと最強になれる。


 僕は自分の部屋でのんびりしていようかと思い立ち上がろうとするが叶わなかった、さっちゃんが僕の服の裾を掴んでいたからだ。暫くずっと一緒に寝起きしていたもんな、寂しく感じるのは僕も一緒だった


 さっちゃんの頭を撫でながら僕もそのまま寝ることにした。さっちゃんの髪は撫で心地よく優しい気持ちのまま僕はストンと眠りに落ちた。



「やっほ~?」


「ん~?」


「あなたの愛しい神様ちゃんですよ~」


 ぼやぁっとした霧のようなものが次第に人の形になっていく


「うぎゃぎゃ!!お、お化け!!」


「だから神様だって言ってんでしょ!!話聞きなさいよ!!あらっ?おーーーーい!気絶してる……」


 バリッと電気みたいなものが身体を走った……なんだったんだ一体……それにさっきみたものは……


「あ、神様」


「あ、神様じゃないっての!君、夢の中で気絶するってどういうことなのよ……その意識は一体どこに行っちゃうわけ……」


「そうだ、僕さっきお化けをみて」


「あたしだっての!」


「なんだそうだったんですか、よかった」


「ああっ!くだらないことしてる間に時間が!この馬鹿!夢のなかじゃ落ち着いて話せやしない!そのうちそっちに行くからね!!」


「夢の神託だけじゃなくて現世に降臨するんですか?宗教革命がおきますよ……」


「大丈夫!また大事な話があるから今度はちゃんと聞いてね!ああそうだ!祝福!ちゅっ!」


「忙しい神様だなぁ」




 おかしな夢をみた……神様がくるってどういうこと……僕の欲求不満も相当だな……

 このあたりは比較的暖かいおかげでさっちゃんの寝相がひどいことになっていた


「おお~い朝だよ、さっちゃんおはよ~」


 さっちゃんを撫でながら呼び掛ける


「リューくん……おは……ねむ……」


 寝起きの悪さは気温と関係ないんだな、言葉が片言だ。このままでは二度寝三度寝の危険性があるため抱き起こして立たせてみた


「う~……」


「はい手を持って~歩いてみようね、はいイチ ニ イチ ニ」


「イチ~ニ~……私なにやってるの……」


「おはようさっちゃん」


「う、うん おはよう」


「昨日のこと覚えてる?」


「リューくんが手紙を受け取りにいってそれから……それから……」


 僕は事の子細を話すとさっちゃんは恥ずかしさから振動しだした


「それで手紙がこれ、せっかくだから一緒に読もうか」




 パパさんもママさんも変わらず元気だそうだ。ミーシャおばさんも壮健とのこと。

 パパさんのサニアロスが深刻でうわ言のようにサニアサニアと繰り返しているらしい。

 居てもそうなんだから居ないとなると余程のことなんだろう。


 さっちゃんは早速返事を書いて酒場に預けてきたようだ。


 これからしばらくは都暮らしだ、まずは仕事、そして家を探さないと。


 着替えを済ませて朝食に向かう

 今日は忙しくなりそうだ



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