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道半ば

 笑い疲れたのかさっちゃんは早々に寝てしまい、退屈な僕は一宿の恩義を返すために農具の手入れを行っていた。


 鍛冶屋の仕事といっても大半はこういった農具が相手になる、ここはファンタジー世界じゃなくて割と普通の世の中だ。

 戦争や野党との戦いはあっても頻繁じゃないし、モンスターが闊歩しているような世の中でもない。

 鍛冶屋の仕事は農具や狩り道具を作ったり直したりするのが主な仕事ですっかり手慣れたものだった。


 そう僕はもっと早く気付くべきだったんだ、これは僕の知ってる異世界転生じゃないと……

 今ところファンタジー感の拠り所といえば可愛い神様と愛くるしいゾンビちゃん、そして陰気くさくて未だに嫌だが死霊術師としての才能だ。


 他は全くといっていい程普通だ、地球の歴史でいえば中世から産業革命の間のどこかくらいの年代なんだろう、学校にまったく行かなかったことが悔やまれる、世界史はさっぱりだ。


 よく異世界転生モノで話題になるジャガイモ的なものは存在していたが、交易はそれほど盛んでもないようだ


 この世界の成り立ちを見通せるほど僕の見識は広くはない、だから何故ジャガイモがあるかもわからない。


 芋のことを考えているうちに随分と作業が進んでいた。

 そろそろおしまいだ


 明日はさっさと旅立とう、ここにいる限り恥ずかしさが消えない……



 翌朝も結構な冷え込みだった。このあたりの春の寒さは僕の知る世界より厳しいらしい。

 またさっちゃんが寒さで起きられないと可哀想なので僕は暖炉で火をおこすことにした。


「うぅ~リューくん……さむぅ~……」


 さっちゃんが起きたか、寒くてぐずっているようだ。子供みたいだな……


「ほら、さっちゃん火を焚いてあるからこっちにおいで……」


「無理ぃ……抱っこ……」


 いや、赤ちゃんだった、いつものことだけど寝起きは甘えん坊だ。今までママさんにたっぷり甘やかされてきたんだろう……


「しょうがないな、ほらこっちおいで」


 さっちゃんを抱きかかえる、不健康な肌の色だが柔らかくてスベスベなのは生前と変わっていないようだ。そして僅かな腐臭と女の子らしい良い匂いが同時にする。


「ほら、あったかいね」


「うぅ~……ねむぅ……」


 暖炉の前の椅子に座らせると、そのまま二度寝に入ってしまった。僕は愛おしくなってさっちゃんの頭を撫で続けた、本当に子供みたいだな……



 例によって温まると元気になるのか、さっちゃんは朝の甘えん坊ぶりが恥ずかしいらしく変なテンションだった。


「甘えん坊でもいいじゃないか、僕にも妹がいたんだけどそいつも寝起きは甘えん坊だったよ。甘えてもらえるのも悪い気分じゃないしね、なんていうか可愛いよ」


「そ、そう?うへへ……リューくん、妹いるんだね?どんな子なの?何歳?」


「う、えぇとね……実はしばらく前に事故で死んじゃったんだ。僕はそのショックで妹のことだけはっきり思い出せなくて……歳は僕の1つ下だったはずだよ」


「……ごめんね。リューくん辛いこと思い出させて」


「いやいいんだ、ほんと昔のことだし……ね。」


 さっちゃんが僕の手をとって微笑む、僕もできるだけの笑顔で返した


 気にはしていない、だけど失っていた寂しさが最近蘇ってきたような気がする。僕はさっちゃんのなかに妹を感じているんだろうか。

 そういう可愛いさだけじゃなくて女性としても魅力的だとも思うのだけれど……少し頭が熱くなってきた気がする……


「預かった農具、返してくるよ」


 頭を冷やさないと……僕は農具を抱えて外にでた




 僕の仕事に満足してくれたらしく方々から感謝の言葉をもらった。ここから南の街にある鍛冶屋の見習いだと告げ、世話になった店へのちょっとした恩返しをする。


 ふと気になって借家の戸口をみるとさっちゃんが寝間着姿のままこちらを見て微笑んでいた


「風邪はひかないだろうけど冷えると気分が悪くなるでしょ?無理しちゃいけないよ」


「なんだか賑やかな声がしたから気になって、皆喜んでくれたみたいで良かったねリューくん」


「そうだね、手に職があるっていうのは満更でもないかな。ミーシャおばさんと親方には感謝だよ」


「リューくんのお仕事、私も労いたくて……」


「わかってるよ、ありがとうさっちゃん」


 また冷えてしまったさっちゃんを優しく抱きしめた


「あったかい……リューくん……」


「僕の体温だけじゃ足りないよ、まだまだ冷えるからね。さぁ暖炉の前で暖まっておいで、僕はお茶でもいれてくるから」


「リューくん、ありがとう……」



 寒い季節に甘えん坊になるのは去年からわかっていたことだった。夜ともなればずーっとママさんにくっついて離れなかったものだ。

 小さい頃のことを思い出していたのかママさんもパパさんもとても嬉しそうに微笑んでいたっけ。


 2人は元気だろうか、甘えん坊のさっちゃんがいなくなって寂しがってはいないだろうか

 僕は若干ホームシックになっているんだろうな。ママさんもパパさんも僕の両親よりもずっと親らしく接してくれた。

 そういう意味では2人はこの世界での僕の親だと思っている、血は繋がってなくても大切に思える人達だから。


 だから僕はホームシックなんだろう、早過ぎる気もするがさっちゃんと二人で手紙でも書こうか。お茶の支度を終えた僕はさっちゃんにささやかな提案をする。



 拝啓 ママ(さん) パパ(さん)


 お元気ですか

 私(僕)達は今北の村に一泊しています

 これから北に向かって発つところです


 サニアです

 リューくんは魔法なんてないと村長さんに言われて大恥をかいていました

 そのときの顔がおかしくて随分笑いました。

 ママにもそのときのリューくんの物真似見せてあげるから楽しみに待っていてね。

 思い出すだけで可笑しいんだから。

 村長さんは無いというけど私がこうしているのは魔法がある立派な証拠だと思うの、だから頑張って探してみるね。

 あまり心配しないで、寂しくなったらいつでも言って

 すぐにでも顔を見せに帰るから


 リュウです

 最近のさっちゃんは寝坊助で甘えん坊が過ぎます

 ママさんパパさん普段はどう諌めていますか?

 どうかコツを教えてください。

 僕も大概にして甘やかしが過ぎるようで自戒致します。

 冷え込みがキツいせいか、さっちゃんが少しつらそうにしています。

 病気の心配はないとはいえ何事もないよう注意を払うようにします。

 お二人も風邪に気をつけてお元気でいてください。

 ミーシャおばさんにも、よろしくお伝えください。



 お返事は遥か北にある森の都宛へお願いします。


 手紙を村の人に託し、僕らは北へ向かう。早速だけど帰りたい、そんな気持ちを抱えながら。



 北の村から数日の先、目の前には大きな森。そしてその森を囲うような大きな山々が連なっていた。地図をみる限り、この森を抜けた先が都なのだろうけど……


 正直に言おう


 怖い


「どうしよう、リューくん。お化けか何かが出そうで怖いよ……」


 お化けなんてゾンビの親戚みたいなもんじゃないのかな……


「あ、明るいうちに通れば大丈夫だって……そ、それにほら僕って死霊術師だし!お化けとか味方なんじゃないかなきっと……多分ね」


 神様の言葉を思い出す、神の加護を失うかわりに悪魔やら厄災が懐いてくるとかなんとか……


「と、とりあえず森の前で一泊しようか……日が昇ったら森を抜けよう!夕方とか夜に森の中にいるのは怖……危険だからさ」


「そ、そうだね。流石リューくん名案だね!それしかないってくらいの名案だね!」


 お互いに絶対に夜は避けたいようだった、意見が一致したところで野営の支度でもしようか。


 森の中からけたたましく鳥かなにかの鳴き声がする


「ねぇ、リューくん。このギェエエ!って声なにかな……」


「鳥だよ!鳥!」


 やっぱり怖い




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