邂逅
「おーい!!おいってば!!」
薄ぼんやりした感覚のなかで誰かが僕に怒鳴っているような気がした
「まったく君は寝起きがひどいね!このっ!!」
ゴスッという鈍い音のあとから痛みが追い掛けてくる
この感覚どこかで……
「ぎぃえ!!神様?!」
「なによー!人の顔をみるなり変な声だすなんて失礼じゃない?」
「え?僕死んだの……?また?えええええ!!さっちゃんは??さっちゃんはどうしたの?!」
「何勝手に慌ててんのよ……君の夢の中にちょっとお邪魔しただけだよ。死んでないから安心して」
「はぁあ~~……焦ったぁ…………」
そのまま魂が抜けてしまいそうなくらい深い溜め息がでた
「それで神様、何の用なんです?」
「彼女ができたからって随分素っ気ないね?私に可愛いって言って口説いたの忘れちゃった?」
「彼女とかじゃないです!それに口説いてないですってば……あれは率直な感想で……」
「そんなに慌てなくていいのに冗談だし。それに率直な感想ねぇ……素直に喜んでおくわ、ありがとうリューくん♪」
「で、何の用ですか……神様が夢にでるなんて人間からしたらどえらい奇跡なんですよ……奇跡の無駄遣いよくないです」
「いやいや、ちゃんと用事だから!君の大事なゾンビちゃんのこと!」
「え、さっちゃんのこと?」
「そう、君達は魔法で繋がってると思ってるみたいだけど、それは半分だけ正解なの」
「というと?」
「君が無意識に彼女をゾンビに変えるときに発動したのは私達が神威と呼んでるもので、君達が考えてる魔法のようなものなんだけどね、今の彼女と魂をつなぎ止めてるものは魔力じゃないってことよ」
「一体何なんです??」
「君自身の魂だよ、君の魂の半分が接着剤のかわりになってつなぎ止めてるっていうわけ。だから魔力が尽きて魔法が解けるような心配はないの。」
「そうなんだ……少し安心しました」
「有限であることはには変わりはないよ、君が死んだり魂に傷がつくようなことがあれば、その影響はすぐに彼女現れることになるからね。それに……」
「それに?」
「君、実験と称して彼女から離れたりしたみたいだけど、あれやめた方がいいよ。さっきも言った通り君の魂の半分は彼女にあるんだ。離れたら君の魂が裂けて二度と元には戻せない、2人とも死んじゃうんだからね」
そういえば理性を失ったさっちゃんは必ず僕に向かって走ってくるんだった
きっと本能的なものなんだろう……さっちゃんに悪いことしちゃったかな
「そろそろ起きなきゃいけないね、このまま目覚めると私帰れなくなっちゃうからお先に。あ、そうだ祝福をあげるから目を閉じて」
目を閉じると温かなものが頬に触れた
「ちゅーしちゃった。そうそう君の身体ね 私が作ったんだ。事情があって急いでいたから前みたいに人の子に任せる余裕もなくて、だから君は私の愛しい産子というわけ。いつも見守っているからね、気が向いたらまた会いにくるよ、それじゃまたね!」
「ちょっと!神様?!ええっ!!」
目が覚めると馬車の中だった、そうか慣れない旅の疲れで昨日の夕方頃にはもう寝てたんだっけ
北の村には一晩で行ける距離なんだけど、こればかりは仕方ない
それにしても神様が夢にでるなんて、欲求不満なんだろうか。夢のなかのことで既に記憶が曖昧になりはじめてるから急いで整理しないと……
僕はさっちゃんに半分だけ魂をあげたらしい、この事実を知ったらさっちゃんは変に気を遣いそうだな。黙っておいたほうがいいかもしれない。……何よりも夢に神が現れて神託を得たなんて話を急にしたら変な奴だと思われそうだ
あとは僕のことか、神様が僕の身体を作った、か。僕は転生したはずなのに16歳のままの身体で目覚めた、こちらの世界での記憶も持っていないし、前世の死んだ身体のままというわけでもない。
つまりは生まれ変わったはずだったんだが、突然の目覚めに関しては腑に落ちていなかったんだけどそういうことか。
そうなれば急いでいたという、その事情が大事なんだけど聞きそびれたな。前と違ってとも言っていたか。
僕より前にこちらで生まれ変わった誰かがいるんだろう。その人は普通に両親がいて、こちらで生まれ育ったわけだ。
前世の記憶がどうなってるかまでは想像もつかないけど旅をしていれば出会うこともあるかもしれないな。
……神様が僕のお母さんか。お母さんにしては可愛過ぎるような気がする。それに神様じゃあ、さっちゃんに紹介するのは無理そうだな。
「リューくん……?起きたの?」
隣で寝ていたさっちゃんもお目覚めだ。狭い幌馬車のなかで肩を寄せ合って眠っていた。
体力に余裕があったらきっとドキドキして眠れなかったんじゃないかな僕は……
「体温がないって不便だね、感覚はあるのに。朝の冷え込みで身体が凍りそうだよ……」
そう言って僕にすり寄ってきた、僕は自分の体温をわけてあげるべきだと思い抱きしめる
「温かい……リューくんありがと」
僕らにはお互いにないものがある、そしてあるものを分かち合えば補いあえる。でも、さっちゃんの柔らかさで僕は少しおかしくなってしまいそうだった。
「おーいさっちゃん……二度寝~二度寝だよ~起きて起きて……」
「ふぇえええ……」
「ドキドキしたね!ねぇリューくん!」
すっかり温まってエンジンがかかったさっちゃんは先程の抱擁をネタに僕をからかってくる。多分さっちゃんも恥ずかしかったんだろうな……
北の村はもう少しのようだ、農作業にでている村人とすれ違う。僕をみて手をふる老人がいた、手を振り返し声をかけてみた。
「北の村まで、どれくらいかな」
「そこの坂の向こうさ、あと少しだとも。よく来たね若いの」
坂を抜けると、そこには小さな村。藁葺きの屋根が連なって、あの街とは雰囲気も違う、朝早くから子ども達のはしゃぐ声が高らかに響いていた。
「このあたりに馬車を停められる所はありませんか、馬宿か馬小屋か、厩舎でも」
「そんな大層なもんはないよ、小さな村だからね。村長さんちの厩舎なら借りられるはずさ。聞いてきてあげようか」
僕とそう歳の変わらない少年はそう言って駆けていった。暫く待っていると笑顔で戻ってくる。
「よぉ!いいってさ!こっちだよ!」
僕は彼の誘導に従って馬車を預けた
「さっちゃん、ついたよ」
三度寝に入っていたさっちゃんを揺り起こす。乗ってるだけというのも退屈だ、あれから大人しくなったと思ったらいつの間にか眠っていた。
「ほぉあああああ~……ついたぁ~……?」
間抜けな大あくびをして、とぼけた一言か。目がさめきった頃に教えてやろう。
「そうそう、北の村だよ」
「うぅ~?そっかぁ……リューくん……」
四度寝に入ろうとするさっちゃんを揺さぶり起こす
「ううっ!うっ!ぐらぐらして吐き気が……ストップ!ストップ!ううぇっ!」
なんとか起きてくれたか、まずは村長さんに挨拶にいこうかな。厩舎からでると歓声が聞こえた、なんだなんだ……。
「えらい美人さんじゃなぁ」
「お人形さんみたい、きれ~」
「可愛い~」
外からの客が珍しいのか人々が集まってきて口々に僕を褒め称えている、実にいい気分だ……と思いたいが歓声はさっちゃんにだ。さっちゃんのお化粧はママさん仕込みでバッチリでとても綺麗だ。
「正直者の村みたいでよかったね」
「恥ずかしいからやめてよ~……」
すっかり照れてしまって人見知りの子供ように僕の後ろに隠れてしまった
「お化粧が綺麗なだけだよ……」
さっちゃんは少し悲しそうに言う
「僕はお化粧してないさっちゃんも綺麗だと思うけど」
少し上擦ってしまった……大事なところだと緊張していけない
「リューくんがそう思ってくれてるなら私はそれだけで……」
さっちゃんの声も消え入りそうだったけど、ちゃんと聞こえたよ
僕らは手を繋いで村長さんの家に急いだ
「ほぉ~……魔法修行のために旅を……」
僕らが事の成り行きを当たり障りなく話していると村長さんが感慨深げに唸った
「そもそも魔法なんてものは本当にあるんですかな?なんとも非現実的な……」
盲点だった、僕はすっかりこれはファンタジックな異世界だと思い込んでいて考えもしなかった……
よくよく考えてみると野党が出たという話は聞いてもモンスターが出たなんていう話は全く聞かない
街には用心棒や冒険者の溜まり場はあっても皆剣だの斧だの弓だのを持っていて、杖の類を持った魔法使い的な人はひとりも見たことがなかった
まさか……魔法がない世界なのか……
ファンタジックなのは僕の脳内だけだったのか……
どうしよ……死にたい……
「『ええ……魔法修行のために旅をしています』キリッ! アッハッハッ!!」
僕の魔法から生まれたゾンビちゃんが僕の物真似をして大爆笑だ
「ああ~可笑しい……ごめんねあんまりにも……アッハッハッ!!ヒィ~……ヒィアーハッハッハ!!」
抱腹絶倒のようだ、宿がないため空き家をそのまま借りて一泊することになったんだが、それまで必死に笑いを堪えていたのか家につくなりずっと笑い転げている
「あーごめんごめん、お腹痛い……ふふっ!あーだめだめ……ふぅー落ち着いたよ。ごめんね笑って」
「もういいよ……消えてしまいたい……」
「ごめんってば!魔法はあるじゃない?その証拠が私なんだしね。でも私も魔法使いには会ったことも見たこともなかったんだけど……表社会じゃ認知されてないだけできっと居るんだよ!」
「そうだね……大きな街にいけばきっと……」
「『ええ……魔法修行のために旅をしています』キリッ! ウグッ!!ウヒィー!ヒッヒッ!!」
またはじまった……
「そういえば村についたときに寝起きのさっちゃんがさ……」
「からかい合うのって良くないよね、やめようね!お互いに!」