はじまり
「はぁ……すっかり異世界転生モノも下火だよなぁ」
いつもの巡回先、所謂素人の小説投稿サイトをつらつらと眺めながらぽつり。大好物の異世界転生モノが流行ったのはいいのだけれど流行にマンネリは付き物なのか、似たり寄ったりな作品ばかりになってしまい、飽きられ、今ではその母数も減少の一途となってしまった。
繰り返されるテンプレ展開、書籍化作品に影響されすぎたコピペのような作品の数々……いくら好きとはいえ現状には流石の僕もうんざりしていた。
「悲しい宿命とはいえ好きなジャンルそのものが廃れていくのは精神的にくるよなぁ……」
他になにかすることがあるわけでもない優雅なご身分の僕は、流行という時代の潮流のなかを瞬く間に駆け抜け去っていこうとする「異世界転生」という、ひとつのジャンルに想いをはせ続けていた。願わくば僕の理想とする異世界転生物語に出会えないものだろうか……なんならいっそ僕が異世界転生をしてしまえたら……なんて荒唐無稽すぎるかな
「よっこいしょ……っと」
深く背もたれに体を預け、両足を机の上へと投げ出す。とりとめなく考え事をするときのいつものスタイルだ。こうしていると身体が楽で、頭が冴えてくる。時々このまま寝てしまって翌朝痛みで起きてしまうこともあるんだが……
そうして理想の異世界転生という物語を空想の中で綴っていく。文才があれば僕にもこの楽しい空想を形にすることができたのかもしれないが、残念ながら作文さえ褒められたことがないような僕には執筆なんて全く無縁と思われた。
それに継続力や根性というものがまるでない僕には書く技術があっても続けていく事なんて絶対に無理だろう。
「ま、めんどいしね……んん~……」
楽しい夢想から脱線しそうになったので伸びをして思考を切り替える。異世界で生まれ変わった僕が様々な力を駆使して戦う物語……沢山の女の子達に囲まれて過ごす物語……沢山の空想や妄想が僕の頭の中を駆け巡る。
そうして僕は全てを忘れていくんだ、辛いこと悲しいこと……何もかも全て。この世はとても理不尽だ、弱い僕から沢山のものを奪っていく。僕は空想の世界の中でしか生きることの出来ない弱い人間だ。
いつからこんな風になってしまったのだろう……思い出そうとすると頭がとても痛んだ。もう余計な事を考えるのはよそう……そうして僕は三度空想の世界へと浸っていく、僕の僕による僕のための楽しいご都合主義だらけの物語は今からはじまるんだ。