捏造の王国 その7 ジエータイ新兵器導入
とあるジエータイの基地に新兵器が導入される。しかし、それはなんと竹槍!防衛費増大のはずがアメリカ製の武器の買いすぎで末端の隊員たちの装備にまで手がまわらなくなったのだ。失望した隊員たちは娯楽室に集まり、なにやら不穏な雰囲気に…
某ニホン国の某ジエータイ基地の一部隊にある通達とブツが届いた。
隊長が誇らしげに隊員に伝える。
「諸君、喜べ、新兵器が導入されたぞ」
隊長の言葉に隊員たちは色めき立った。
「おお、アベノ政権下での防衛費の増加の恩恵がついに我々末端のジエーカンにも」
「副隊長、やりましたね」
「ト、トイレットペーパーでさえ自前だった我々が」
「ケガしても市販の応急キットしかなかったわが部隊が~」
「防衛費増大バンザーイ!」
喜ぶ彼らに布に包まれた長い棒状のものが一人ずつ手渡される。
「なんだ、これ、やけに軽いな」
「新型の銃とか」
「超軽量改良版か?持ち歩きに便利なように」
とウキウキと包みを外すと中から出てきたのは
「た、竹槍!」
黒光りした長い竹。先端は鋭くとがっている。まぎれもなく竹製の槍、つまり竹槍である。
「新型の自動小銃とかじゃないのか!」
「こ、これが新兵器?」
「こんなん、使えないじゃないですか!」
タイヘーヨー戦争中にジンジョウ小学校で竹槍訓練が行われた時でさえ
(あ、こんなんで人が死ぬわけないじゃん、でも校長先生や憲兵に睨まれたら嫌だから黙って突くふりしとこー)と、小学生たちに揶揄された竹槍である。
21世紀の仮にも先進国で使用される武器ではない。
「よ、要請していた最新の医療キットとか、新発明ナノ通信機とかじゃないんですか」
隊員たちの不平に隊長が怒鳴る。
「何を文句を言っとる、国産黒竹、最高級品だぞ!」
「た、隊長、高級でも竹槍、こ、これが」
「新配備の武器、アベノ総理のご推薦だ」
「ま、まさか」
総理ご推薦、殺傷能力は低いが戦時中はなぜかもてはやされた竹槍を推薦とは、さすがはマイティ・フールと呼ばれる男。
白目をむくほど驚いている隊員たちに隊長は苦々しい声で
「わかっている、諸君らの言いたいことは、しかし金がないのだ!F35.5戦闘機やら、オズプレイやらいろいろ買いすぎて、ローンを組んだが」
語尾をごまかす隊長の代わりに隊員たちが不都合な真実をつづけた。
「ローン払いでも払えないで支払い待ってもらっているって本当だったのですか!」
「トーキョー新聞のマンゲツ記者が書いてたのは真実ってことですか、三径新聞はやっぱ間違いだったのか、必要なもの買う金ないんですか、やっぱり無駄遣いじゃないですか」
アベノ総理らの見栄とアメリカのドランプ大統領への貢ぎ物として、アメリカ製の高い戦闘機やらミサイルやらを買った挙句に借金地獄、隊員に必要な備品もいきわたらない。これではいくら上下関係厳しく鍛えられ、上は絶対と仕込まれたジエーカンでさえ、我慢の限界、堪忍袋の緒が切れまくりになろうというものだ。
「静かに!わかっている、最低限の装備にすら事欠くのに、なんで、わが国で整備もできない戦闘機F35.5だの、未亡人製造機のオズプレイなんぞ買わねばならんのかってのは、私も言いたい!ここだけの話にしてほしいが…。私だって、私だって」
隊長以下、あまりの理不尽さにむせび泣く部隊一同であった。
その夜、宿舎に戻った隊員たちは娯楽室に集まっていた。
昼間の出来事の憂さをはらそうとノンアルコールビールを手にし、愚痴りまくる隊員たち。
「くう、もう耐えられん」
「部隊内外のいじめも、上官の我儘にも、我慢に我慢を重ねました、しかし」
一人の3曹が苦しそうにいうと、そばにいた1曹が叫んだ。
「なんで防衛費増大のトリクルダウンがこないんだー」
「わー叫んだらマズイです!隊長に聞こえます!」
「うう、しかし、アメリカ製の高い武器は買うのに、医療キットもトイレットペーパーも自前なんて」
「それは…」
うつむく3曹。
アベノ政権で防衛費は毎年増大、それなのに末端のジエーカンの装備はそのままなのである。
予算が増えてよかったと喜んで報道するジャーナリストもいたが、武器ローンの支払いがままならないことは取材し忘れたのか、そのことは記事にもしていないようだ。逆にジエータイに好意的でないマンゲツ記者らが予算の無茶苦茶な使いぶり、自国で整備できない武器を買い、ジエーカンの境遇は劣悪なままであることを報道している。
取り換えられない分整備は劣化、そのため防衛費が増えたら新装備をと何度も要請している。武器や備品の入れ替えを要請し続けた結果があの竹槍なのだ。失望し怒りすら覚えるのも当然とえよう。
「竹槍買うなら、救急キットとかを買い替えてほしいよ」
「あれはアキエコ夫人が最近仲良くなった竹製品会社で作らせたらしい」
「ま、また、あの人か」
「夫人のお目付け役の給与分の予算が少しでもこっちに回ってくれば」
ため息をつく隊員たち。
さきほどの3曹がノンアルコールビールの缶を無言で飲み干す。1曹が耐え切れなくなったのか
「い、いっそアレを」
他の1曹がたしなめる。
「だめだ、アレ、覚醒剤は非常時に使用するものだし」
「そ、そうだよな、それにアレは気分高揚、シャッキリする効果で」
「こういう認めたくない現実から目をそらすもんじゃない」
目をそらすどころか、ますます身もふたもない現実を認識する羽目になりかねない。
別の隊員が哀しそうにつぶやく。
「俺たちジエーカン、現場の人間より、アメリカの武器のほうが、価値があるってのか」
「そのうちアメリカの下請けで…」
「リアル人間の盾、アメリカ軍の弾除けに…」
その先を考えることを拒否したいが、頭が働いてしまうと考えざるを得ない。
「いっそ、いっそ!」
思考が先走って危ない方面にいこうとするのを自制する隊員たち。が、その自制心もいつまで続くのであろうか。と、そのときスマートフォンをいじっていた一人の隊員が声をあげた。
「いや、これがあった!俺たちの救いが!」
全員が彼のスマートフォンの液晶画面に注目した。
一か月後、竹槍の実践訓練のため、隊長は隊員たちを待っていたが、なかなか来ない。
というか、ほとんど、副隊長以外遅刻。やっとそろった隊員たちも目の下にクマがあるもの、ぼんやりしているものがほとんどである。当然のことながらロクに訓練にならない。
隊員たちのありさまに、体調管理万全、時間厳守、命令絶対のジエータイにあるまじきことであると隊長は副隊長を問い詰めた。
「おい、隊員たちはどうした、副隊長」
「そ、それがその、ちょっと」
「ちょっとではない、必要な訓練の日だったんだぞ、なんだ、この有様は!」
副隊長は声を潜め
「実は、みな中毒というか」
「中毒!まさか覚醒剤」
やはり、このバカバカしさには忍耐強い彼らでもさすがに耐えられなかったかと隊長は青くなった。
「いえ、きっちり管理はしてあります」
副隊長はきっぱり否定した。
「で、では危険ドラッグか」
もし、そうだったら。隊長の顔色は青から白に変わった。
「いえ、そのうゲ、ゲームでして、みなこのゲームに夢中で」
「ゲ、ゲーム?」
副隊長が隊長の顔面に差し出したのはスマートフォン、その画面には
“ザ・下剋上 無知城主に阿保大名、金食い虫の側室たちを倒して天下取り、これぞ漢の生きる道!”
とのゲームタイトルと、登場キャラクターのイラストが映っている。そのゲームの敵役のキャラクターは丁髷を結ったアベノ総理そっくりの城主と、ガース長官似の禿大名、そしてアキエコ夫人やヨネダレイミ議員に瓜二つの側室たちであった。
ゲームのやりすぎには注意しましょう。
法律で禁止されているわけではありませんが(小説発表時の日本では)、仕事、家庭生活、健康に支障をきたす恐れがあります。
また、欲しいからといって支払い計画もロクに立てず高額な買い物をローンでするのはお勧めしません。
国家、家庭、個人にかかわらずローン破産の危機が訪れる可能性があります。