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頑張れナハルッドちゃん 

 貴意がナハルッドに金目のモノを出せとすごんでいる間に、シルベールには素朴な疑問が一つ浮かんだ。


 ナハルッドはいわゆる『首ちょんぱ状態』である。

 それでは先程までナハルッドが美味しい美味しいと楽しんでいた薄茶糖やカスタードケーキは、いったいどこに行ってしまったのだろうかと。

 疑問は一旦浮かぶと、気になって仕方がないものである。

 なのでシルベールは、金目のモノがなければ今すぐその鎧を脱げと脅され、涙目になっているナハルッドに助け船を出すようなそぶりで二人に割って入った。


「ねえナハルッド。さっき食べたのはどこに行っちゃうの?」

 するとナハルッドも大事なことに今気付いた。

 そういえばこの姿になってから食べ物を口にしていなかったと。

 もしやと思い、ナハルッドは慌てて自分の頭をちゃぶ台から持ち上げてみる。

 

「よかった……」


 どうやら食べ物は首から漏れ落ちること無く、無事お腹の方に送られたらしい。

 

「そういや、繋ぎ目ってどうなってんだ?」


 すっかりお威張りさんモードの貴意は、ナハルッドの両手から彼女の首を奪うと、遠慮なくひっくり返してみる。

 

「なんだこりゃ?」

「恥ずかしいからやめて!」

 少女のようにおろおろとしながら何とか貴意から首を取り戻そうとするナハルッドの身体を背中で制しながら貴意は断面をじっくりと観察してみる。

 貴意は期待していた。

 首の断面は『人体の不思議ちっく』ではないかと。

 しかし事実は異なった。

 断面は光を全く反射しない漆黒だったのだ。

 

「どれどれ」

「嫌! 触らないで―!」


 ナハルッドの懇願を無視し、貴意は断面をなでて見る。

 手触りは女性の肌のそれ。しかし真っ黒。

 するとナハルッドが吐息を洩らした。

 

「あん……」

「感じてんのかお前は?」

「くすぐったいだけだ! これ以上の無礼はいかに恩人といえども許さんぞ!」

「おお、怖い怖い」


 などと貴意はナハルッドをからかいながら、その首を今度は身体の断面に合わせて見る。

 しかし身体側の断面も漆黒の肌なので、いまいち安定しない。

 

「座りが悪いな」

「私だって何度も試したのだ! 頼む、もうやめてくれ!」

「こんな楽しいことをやめるか馬鹿」

 やりたい放題である。


「うーん。何かうまい方法はないかな」

 ぐらぐらしているナハルッドの頭を支えながら貴意は考える。

 人の頭というのはボウリングの球と同じくらいの重さがあるので、恐らく包帯を巻いたくらいでは、すぐに落ちてしまうだろう。

 だからといって鉄板を巻くのも不自然極まりない。

 どーすっかな。


「なあ、お願いだから解放してもらえないか……」

 既にナハルッドは涙目である。


 すると何かを思いついたような表情でシルベールが横から顔を出した。


「ねえきーちゃん。『硬化ソリッド』の術が使えないかな」

「なんだそりゃ?」

「対象を硬化させる魔法なの」

「でも包帯を硬化させただけじゃ支えきれないだろ……。いや、手はあるな」


 貴意は再びナハルッドの頭を持ち上げると、首側と身体側の断面をもう一度さすってみる。

「ああん……。頼む、お願いだからもう許してくれ……」

 当然のことながら貴意とシルベールがこんな面白い実験を諦めるはずもない。


「シルベール、人の肌を硬化することができるか?」

「できるわよ。もともとは防御魔法だもの」

 ならばこうだな。

 二人の会話に置いてきぼりを食らった形となったナハルッドは、不本意ながらその身を二人に委ねるのであった。


 しばらくの後、ナハルッドは首が元の位置に戻った喜びにうち震えることになる。


 さて、どうやって貴意とシルベールはナハルッドの首を固定したのか。

 まず首側の断面と身体側の断面にシルベールが『ソリッド』の術を施す。

 こうすると両面がぴったりと合うのだ。

 そしたら接着剤を塗ってお互いを貼り付ける。

 さらに包帯を巻き、そこにも『ソリッド』を施せば無事完成。

 ソリッドの魔法は解除しなければそのまま有効だという。

 これで首に包帯を巻いたきれいなおねーちゃんの出来上がり。


「よっしゃ、ナハルッドの首も据わったことだし、城に案内してもらおうかな」


 どうやら貴意はナハルッドの居城から金目のものを持ち出す算段のようである。

 

「わかった。どうすればいい?」

 頭が定位置に戻って声も弾んでいるナハルッドの問いにはシルベールが答えた。

「多分三人で手をつないで、なーちゃんが先頭になれば、なーちゃんの家に戻れるはずだよ」

 既にシルベールはナハルッドを『なーちゃん』呼ばわりである。


 ナハルッドが先頭になって鳥居をくぐると、うっすらと光る扉の前に三人は到着した。

「ここが私の城だ。貴意殿の役に立つものがあるならばいくらでも持ちだしてもらっても構わない」

「遠慮なくそうさせてもらうさ」


 首が戻ったナハルッドはヅカ系男役のりりしさを持って二人を案内していく。

 貴意は時折周囲を伺いながら、何かを測っているようなそぶりを見せている。


「ここが広間だ。何か役に立てるものはあるか?」

「調度品の類は出自がはっきりしないと値段がつかねえからなあ」


「ここは武器庫だ。魔法剣もあるがどうする?」

「そんなん持って帰っても銃刀法違反でお縄だしなあ。大体俺らは魔法なんか使えねえし」


「ここは客間だ。隣の部屋は来客用の寝室となっている」

「ふーん」

 どうやらこの部屋は貴意の琴線に触れたらしい。

「ベッドメイクはどうしてんだ?」

「この部屋に限らず、1日に1回『浄化ピュリフィケイション』の魔法が起動し、ベッドをはじめとする備品はすべて洗浄される」

 へえ。

 ということは、人を雇わなくてもいいってことか。

 貴意は何やらぶつぶつと繰り返しながら、部屋を後にした。


「ここは宝物庫だ。ここならば貴意殿の満足するものがあるだろう」

 部屋には棚がしつらえており、様々な品が並べられている。

 しかし貴意はそれらよりも部屋の隅に置かれた木箱に興味を持った。

「こりゃあなんだ?」

「ああ、それはかつて国同士に交流があった際に交換の仲立ちで使用された金と銀の板だ。今では無用の長物だがな」


「こういうのを待っていたんだよ。こういうのをな」

 貴意は嬉しそうにそうつぶやきながら、木箱を開けてみる。

 と、期待通りそこには角型の金板と銀板が無造作にしまい込まれていた。


「一度に持ち込むと怪しまれちまうからな。今日はこんなところか」

 貴意はそこから金板を5枚と銀板を20枚ほど取り出すと、箱内に同梱されていたポリ袋サイズの布袋に詰め込み、口をひもで縛る。


「喜んでいただけて良かった。少しは足しになるだろうか?」

「まあな。今日の茶代くらいにはなるぜ」

 これは大嘘ではあるが、ナハルッドは心底ほっとしたような表情となっている。


「なーちゃん。私はこれをもらってもいいかな?」

 そう言いながらシルベールが抱えてきたのは、ビー玉を思わせる透明なガラス珠のようなもの。

「そうか。魔術を扱うのならばそれは便利だろう。私には無用の長物だ。持って行ってくれて構わない」

「やったあ!」

「なんだそりゃ? ガラス玉なんぞに値段はつかねえぞ」

 貴意の馬鹿にしたような目にも構わずシルベールはうれしそうに珠を抱えなおす。

「これは『魔晶珠』といってね、魔素を吸着する石なの。きーちゃんのところには魔素はほとんどないけれど、私の部屋においておけば多分1日で補充完了だわ!」

 ということらしい。

 貴意にはどうでもよいことなのであるが。


「それじゃあ今日はこれで帰るとするか」

 ということで、三人は神社の鳥居へと戻ったのである。

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