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キマイラの捕食者

 ナハルッドにハンデルとプドルフ、そこにネコ三人娘が加わって、神社の地面に何やら色々と描きながら物騒な算段をしている。


「ナハルッドさんがそれを引き受けてくれるなら、希少部位をつぶさずに狩れるかもしれん」

「任せておけ。その代わりきーちゃんにもご馳走してくれよ」

「足止めは僕がするからね」


 なんでハンデルとナハルッドとプドルフはやる気満々なの?


「なあシルベール、お前は参加しないのか?」

「私は部屋から出たことがないから……」


 向こうの住人のはずなのに貴意と一緒にぽかんとしているシルベール。

 一方でネコ娘三人はハンデルが描く計画に、目を見開きながらいちいち頷いている。


「足を奪うのが私たちの役目だね。ところで陽動はどうするの?」

 ネコ娘を代表しての狩人姿のシアムからの質問に、ハンデルとナハルッドは、貴意とシルベールをちらりと見てからにやりと笑った。

 

「私を見ていてくれれば問題ない」

 ナハルッドの返事に、ネコ娘たちは彼女が盾役を買って出たのだと了解した。


「それじゃあ装備をしてくる」

「私も一旦(ゾーン)に戻る」

「僕も準備をしてこよっと」


 ハンデルとナハルッド、プドルフが鳥居をくぐり、姿を消した後、貴意とシルベールは互いに情けない表情を見合わせる。


「どうする?」

「どうするの?」


 うーん。

 

 正直『キマイラ』が何だかわからねえ。

 なんでハンデルやナハルッド、プドルフがあんなに自信満々なのかもわからねえ。

 少なくともネコ娘達はキマイラから逃げてきたのに。

 

 ここは留守番を決め込むべきか。

 しかし貴意はそうしないと決めた。

 なぜならシルベールが、彼の服の裾を握り、彼の目を見つめたから。


 ふう。

 

 そうだな。なにごともチャレンジだよな。


「シルベールは準備はいいのか?」

「何を準備していいかわからないしさ」

「そうだな」

「そうよね」


 などと昭和時代の少年週刊誌のような見つめ合いを二人で交わしているところに、三人が鳥居から帰ってきた。

 姿を現した三人の姿に、貴意は子供の頃に夢中になったロールプレイングゲームを思い出したのである。

 まずはハンデル。


 ……。

 えーっと。


「どうだ。切る・突く・殴ると何でも来いだ」

 上半身を金属製の胸当で覆ったハンデルは、その六本の腕に、槍を2本、剣を2本、槌を2本のフル装備。

 それってなんのアシュラ?

「キマイラの捕食者を名乗っておるからの、俺たち(スパインマン)は」

 確かにこれなら獅子と山羊と蛇を同時に相手ができるだろう。


 続いてナハルッド。

 彼女は当初身に着けていた鎧と剣ではなく、漆黒の全身鎧と禍々しさ全開のこれも漆黒の両手剣。


「今回はハンデルさんがキマイラの希少部位を傷めないようにサポートする役割だからな」

「で、なんだその鎧と剣は」

「鎧は『反魂の鎧(カウンターメイル)』だ。受けたダメージを一定量までは、そのまま相手に返すのだ。キマイラ程度の攻撃ならば全ダメージをお返しできるだろう。ちなみに普段着用しているのは対魔術師に特化した『反魔の鎧(リフレクトメイル)』だ」


 さいですか。

 色々と都合よく反射するんですね。


「剣は『恐怖を帯びた剣(フィアブリンガー)』だ。こいつで切られた敵は恐怖に身をすくませることになる。意志ある者が相手ならば、いつもの『心を折る剣(ブレイブブレイカー)』の方が有効だが、所詮はケダモノ相手だからな。こちらの方が効率がいいと思ってな」


 さいですか。

 普段から物騒なものをお持ちだったんですね。


 で、なんでプドルフはズボンを脱いできちゃったの?


「実は僕ら漆黒小妖精シュワルツコーボルトは、全裸のときが一番攻撃力と防御力が高いんだ。それに『手刀ハンドソード』が使えるようになるんだよ」


 さいですか。

 まるで古いコンピュータゲームに出てくるシノビの者みたいですね。


「じゃあ何で普段はズボンを履いているんだ?」

「そんなの一般常識でしょ」

 さいですか。

 ケダモノから常識を指導されちゃいましたよ。


 どうやらあきれているのは貴意とシルベールだけではなく、ネコ娘三人もこいつら三人の装備に呆気に取られている様子。


「それじゃあ今日の晩飯はキマイラ鍋とおごってみるか!」

「おう!」

「やったあ!」


 ハンデルの雄たけびにナハルッドとプドルフが威勢よく答え、そのまま一行は鳥居へと突入したのである。


 まずはプドルフが先行する。


「近くにキマイラの気配はないよ。松明をつけても大丈夫かな」

「松明は必要か?」

 ハンデルの問いにナハルッドがちらりと後ろを振り返ってから真っ暗闇の中で頷いた。

 どうやらネコ娘達も松明がないと視界を保てないようだ。


「私が持とう」


 ネコ三人娘を代表してベルガが松明を持つ。

 どうやら彼女たち三人のときはベルガが先行し、中央に魔術師のルシア、背後の守りにシアムがつくというパーティだったらしい。


 現在は斥候に出ているプドルフを除くと、先頭はハンデル。次に松明を掲げたベルガ、続いてルシアとシアムが並び、その後ろに貴意とシルベールが続く。

 そしてしんがりはナハルッドという構成である。


 と、ハンデルが槌を持つ手で一行を制した。


「いたか?」

「この先の分岐を右にすぐのところ」


 ハンデルとプドルフの会話は静まり返った洞窟内ではしんがりのナハルッドにも届く。


「それじゃあ行くぞ」

「僕は隠れるね」

「きーちゃんとしーちゃんは私の背後へ」


「松明はどうする? 消すか?」

 ベルガの問いにはナハルッドが答えた。

「そのままでいい。だが三人はなるべく脇にそれてくれるか?」

 ナハルッドはネコ娘達にそう指示を出すと、彼女たちの間に割って入るように、背後に貴意とシルベールを引き連れながら前に出ていった。


「いたぞ!」


 ハンデルの叫びと同時に、獅子の咆哮が響き渡る。

 続けて身をよじったハンデルの前に、ある意味貴意が想像していた通りで、ある意味想像以上の魔物が姿を現した。

 そいつはまさしく獅子の頭と前脚を持ち、さらには獅子をバックでおいしくいただくような位置に山羊の頭とその後脚。

 さらにその後方からは、獅子と山羊のああんなプレイに使用されているかのような大人のおもちゃをほうふつさせる毒蛇らしきものの鎌首。


「うわああ!」

「きゃー!」


 目の前にそびえるかのように立ち、自身の頭よりも高い位置で再び咆哮をあげた獅子に、貴意とシルベールは悲鳴を上げながら座り込んでしまう。

 獅子は悲鳴を上げた二匹の二本腕アームレスに狙いを定めるように飛び掛かる!


 が、それは貴意たちの前で止まった。


「いらっしゃい。引っかかると思っていたよ」

 と呟きながら、悲鳴を上げた貴意とシルベールの直前で左肩を獅子に噛みつかせたナハルッドがにやりと笑った。


 そこからは一方的な狩り。


 獅子の牙によるダメージをナハルッドの鎧でそのまま返されたキマイラのこめかみを、フィアブリンガーがピンポイントで突いた。

 跳ね返ってきた牙のダメージと、恐怖に本能を塗られ、思わず身をすくめてしまったキマイラを、今度はハンデルが持つ武器の束が襲い掛かる。

 槍は獅子と山羊の耳を貫き神経を切断する。

 剣は獅子と山羊の首筋を切り裂き体液を流出させる。

 鉾は獅子の足と山羊の足の膝関節を砕き自由を奪う。


 たまらず尾の先から蛇の毒牙をハンデルに向けようとするも、それは尾の付け根から切り飛ばされた。

 おそらくはプドルフのハンドブレードによって。


 しばらくの後、体液をすべて流し切り絶命したキマイラの巨体の脇で、ハンデルとナハルッドとプドルフが談笑を始めたのである。

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