ネコミミギャルズ
シルベールとナハルッドが着替えに行っている間、草むらに並べた三人を貴意は順番に見比べていく。
一人は細身の身体に革製であろう胸当て、ひざ丈のスカート、そして膝下までのブーツという姿。
スカートとブーツの間から覗く絶対領域が男心をそそる。
一人は鍛え上げられた凹凸のはっきりした身体に、セパレート水着のような服装。そこに首と胸を最小限保護するかのような金属鎧と、同じく金属のミニスカートのような腰当。
まさしくファンタジー世界の女剣士テンプレそのものである、健康的に肌を晒した肢体が男心をそそる。
一人はふっくらとした身体にシャツとひざ丈スカートの上から、粗末な布で織られたフード付きガウンを纏っている。
その幸薄そうな身なりに隠された、ほんわりと柔らかそうな身体が男心をそそる。
ここまでは貴意の彼らへの一般的な性的感想。
しかし彼らはそれらを凌駕する特徴を、その表情に持っていた。
そう、彼らは全員が『ネコミミ娘』だったのである。
細身の子は灰、鍛えている子は縞、ほんわりしているのは白と、身体と配色のバランスもバッチリ。
「こりゃあ、プドルフとはまた傾向が違うケダモノじゃねえか」
三人のエッチな姿をニヤニヤと見比べながら、なぜこいつらが同時に腹を押さえながらひっくり返ってしまったのかを考えてみる。
貴意は先程まで、シルベールとナハルッドを(敵意を向けられること無く)きゃあきゃあ言わせていた。
そこに突然現れたのがこいつら。
確かあのときこいつらは……。
ちーん。
確かこいつら、俺を狙ってきたよね。
俺を攻撃しようとしたんだよね。
ってことは、こいつらが『腹を押さえながら悶絶』って、俺にとっての『ちんこがさけるチーズ化』かも。
そっか。
『ゾーン』では『危害』を加えるのは禁止だものね。
それでこいつらはひっくり返ったのか。
貴意はもう一度三人をじっくり観察してみる。
シャム猫のような銀とも灰ともつかない短毛で関節を包まれた娘が見せる健康的な絶対領域を形成しているスカートとブーツ姿。
ベンガル猫そのままの茶色と黒のツートンで背中を覆う体毛がデインジャラスさを醸し出しつつ、これ見よがしにダイナマイトボディをアピールする堂々たるビキニ姿。
ペルシャ猫のようにほんわか白色のふわふわに包まれた隙だらけの「マッチを買ってあげるからおじさんの言うことを聞きなさい」と囁いてしまいそうな嗜虐心をとっても刺激する無防備なローブ姿。
そうだよね。ここはネコちゃんのお腹をさすって「痛い痛いの飛んでけ!」をしてあげるべきだよね。
貴意は三人をじっくりと目線で嘗め回した後、ここは順番を守るべきであろうと一人納得した。
それでは失礼します。
「まずはシャム娘のお腹から」と、灰色娘の両脚を掴んで「ちょっと下から失礼しますね」と持ち上げたところで、貴意は今回も味わうことにある。
シルベールの「いやー!」という絶叫と同時に。
『ちんこがさけるチーズと化す』感覚を。
「で、何をやっているの?」
気を失ったままの三人娘の足元で、貴意がちんこを押さえて悲鳴を上げながら転げまわっているところにプドルフがハンデルを伴って帰ってきた。
なぜかシルベールは貴意に対し、ごみくずを見るような冷たい視線を送っているし、ナハルッドもシルベールの横であきれ顔。
「もう、仕方がないなあ。ハンデルさん、手伝ってくれる?」
プドルフは真っ黒な顔にやれやれと言った表情を浮かべながら、貴意のことを放っておきつつ、三人娘の介抱を始めた。
まず目を覚ましたのはベンガル柄のダイナマイト娘。
すぐに自らが取り囲まれているのを察したのか、無言で両手を降参するかのように掲げている。
次に目を覚ましたのはシャム柄のスレンダー娘。
彼女は眼を覚ますと同時に、警戒するかのようにベンガル娘の陰に身を隠してしまう。
最後に目を覚ましたのはペルシャ柄のグラマラス娘。
彼女は周囲をきょろきょろと見渡すと、瞬時に自身がおかれた立場を理解したのか、していないのか、なぜか小首をかしげてにこりと笑った。
「みなさん、ごきげんよう」
そのほんわかした笑顔に、ここにいる全員が毒気を抜かれてしまう。
「仕方ねえなあ」
貴意はそう呟くと、いつものようにゾーンの説明を開始したのである。
どうやら管理人となったのは、先陣を切った戦士風のベルガさん。
ちなみに細い娘はシアムさん、ふくよかな娘はルシアさんというそうだ。
「で、何しに来たんだお前らは?」
「実は……」
続くベルガからの説明に、主に貴意とハンデルが顔をしかめたのである。
要するにベルガ達三人が素人盗掘者として、魔術師の墓に潜入したのは、もとはと言えば貴意とハンデルが蜘蛛腕族の領主に太陽光発電直流冷蔵庫を譲り渡したのが始まりなのだから。
すると貴意の横からシルベールが顔を出した。
「何でもいいから魔導具を持って帰ればいいの? なら魔導具店で買って持っていったら?」
しかし今度はシアムが悔しそうに首を左右に振った。
「私たちにはそんな高価なものを買うお金はありません」
そりゃあそうだ。
そんな金があるのならば、倍の税金を支払えばいいのだから。
それがないから、やむを得ず村人たちは彼女たちに精一杯の路銀を持たせて旅に送りだしたのだ。
すると今度はナハルッドが反対側から顔を出した。
「なあきーちゃん。『あれ』を持たせてやったらどうだろうか?」
あれねえ。
ナハルッドが何を指しているのか、貴意にはすぐに分かった。
しかし、元々の原因が貴意達であるという負い目はあるものの、タダで施しをしてやるのは貴意の矜持に反する。
かといって先程の話では、こいつらが金目のモノを持っているわけがない。
「なら向こう側を見に行くか」
貴意がそう呟くと、三人娘がそろって、とんでもないというばかりに左右に首を振った。
「無理よ」
「無理だ」
「無理なの」
見事にそろいやがったなこいつら。
「なんでだよ?」
不満そうな貴意の質問にベルガが代表して答えた。
「向こうには『キマイラ』が潜んでいるのだ」
「キマイラだと!」
なぜかここで突然反応したのがハンデル。
「どうしたおっさん?」
「キマイラの肉は美味いのだ! 一頭分を独占できればしばらくは商売大繁盛だぜ!」
「おっさん、狩るつもりか?」
「おう。やる気満々だ」
するとナハルッドも勢いよく立ちあがった。
「私も久しぶりにキマイラ退治でもしてみるとするか」
「お、ナハルッドさんもイケる口かい?」
「ちょっと待て」
貴意はいそいそと鳥居をくぐろうとする二人を引きとめた。
「そもそも、ゾーン内で攻撃は不可能だろ? さっきのこいつらみたいにさ」
「そういえば、どんな痛さだったの? やっぱりさけるチーズ?」
シルベールは三人に、交流地帯で他者に危害を加えようとすると、この世のものとは思えない痛みを生じるのだと教えてやる。
しかしシルベール自体はその痛みを味わったことはない。
三人娘は思い出したくもないような顔で続けていく。
シアムさん曰く「ヤマアラシを妊娠したのかと思ったわ」
ベルガさん曰く「腹の中で火山が噴火したかのごとくだった」
ルシアさん曰く「おなかの中にキマイラが現れたの」
こりゃあ、さけるチーズどころの騒ぎじゃねえな。
「だろ? だからさ、向こうに行ってもキマイラを攻撃することはできないだろ? まさかゾーン外で勝負を仕掛けるつもりじゃあねえだろうな?」
ところが貴意の言葉にシルベールやナハルッドはおろか、ハンデルやプドルフも「なに言ってんだこいつ」といった表情になっている。
「攻撃不可なのは『コネクトゾーン』だけで、向こう側のゾーンにそんな影響はないわ」
シルベールの説明に貴意はきょとんとする。
「そうなの?」
そこにプドルフも続けた。
「こないだもハンデルさんの店で絡んできた酔っ払いを、なーちゃんが半殺しにしたばかりだけれどさ」
あ、そうなのね。
って、もしかしたら……。
「よし、シルベール。お前のゾーンに出かけるとしようか」
「わざわざ押し倒されに行くわけないでしょバカ」
その後、貴意の存在を半ば無視しながら、その他のメンバーはキマイラ討伐の計画を練ることになる。