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盗掘者参上

「どうだシアム?」

「罠では無いようね。ねえルシア、魔素の流れはどう?」

「魔力自体は強力だけれど、おかしな魔素の動きはしていないわ。さて、どうするベルガ?」

「どうもこうもないさ。どの道、一方通行だ」


 かつてこの大陸では、豊富な魔素を糧に、多くの魔導師が様々な研究を行い、様々な『独自魔法オリジストラクチャ』や『魔導具アーティファクト』を競うように開発してきた。

 彼らは研究をより効率的に行うため、世界各地の魔素が強力な場所に迷宮や尖塔を構え、歩行雑草ウォーキングウィード族とともに研究へと没頭したのである。


 しかし後に『狂乱王』の名を冠される王が起こした『大虐殺』をきっかけに状況は一変してしまう。


 生活を共にしたウォーキングウィードを、ある魔術師は彼らの仲間の元へと送り返し、一族の逃亡を手助けした。

 ある魔術師は、狂乱王の考えに同調し、己のウォーキングウィードを王に差し出す代わりに王都に新たな研究施設を構えた。

 ある魔術師は、孤高を貫き、自らのウォーキングウィードとともに、ひっそりと天寿を全うした。

 

 その後、王の種族は他種族からの総攻撃を受け、生きとし生けるものは根絶やしにされてしまう。

 一方で莫大な量の魔晶珠はその魔素を暴走させ、王都全体を歪めてしまった。

 

 それが『封印された都市』と、各地に残される『魔術師の墓地』の由来である。

 

 その後急速に魔術師のレベルが落ちた大陸では、封印された都市とその周辺、世界各地に残された魔術師の墓地からまれに発見される古代魔導具エンシェントアーティファクトはお宝となり、それらを入手して一攫千金を求めようとする者達が現われた。

 彼らを人々は、半ば侮蔑ぶべつの意味も込めて『盗掘者ロバーズ』と呼ぶ。


 ここ数年、目新しい古代魔導具が発見されることはなかった。

 少なくとも人前に出てくることはなかった。

 

 ところがつい先日、自らはほとんど魔力を持たない『蜘蛛腕族スパインマン』の街で、領主がとんでもない、恐らくは古代魔導具であろうシロモノを披露したのだ。


光魔素冷却魔導具ソラレフリジゲイタ』と呼ばれるそれは、白い箱の中で冷気を持続して発生させるという、一見したら非常にどうでもよい能力を持つ魔導具。


 ところが面白いもので、その能力が『みょうちくりん』な古代魔導具ほど珍重されるのだ。


 発光魔法や保存魔法、飛翔魔法などは、ある意味生活に密着しているので、結構な数が魔導師の小遣い稼ぎに作成されたらしく、世間一般に出回っている。

 また、魔導戦車生成魔法や各種攻撃魔法、防御魔法も、狂乱王との戦のために必要に駆られて研究されたので、使用魔力は高いにしても『レア度』でいうとまあそれなりである。


 ところが、一見何に使用するのかわからない能力というのは、それを開発した魔術師のパーソナルに負うところが多く、非常にレアである場合が多い。

 そうした点から『冷やす』という一見無駄な能力というのは好事家達からは魅力的なのだ。


 ではなぜ魅力的なのか。


 それは『一見無駄な能力』が『目的に沿って発動』した場合、他に替え難いすばらしい効果を示すことが知られているからである。

 それが何かを発見するのもレアな魔導具の大いなる魅力。


 今回スパインマンの領主は『ビール』なる、常温だといまいちだが、冷やすと非常に美味い酒を『ソラレフリジゲイタ』で冷やすという見事な『回答』をもたらしたのだ。


 それは称賛と嫉妬と競争心で迎えられた。


 みょうちくりんな魔導具と、それを使用することにより初めて真価を発揮できるまずい酒の存在にすっかり熱を当てられた貴族や領主、行商たちは、その欲求を満たすべく、新たな魔導具の発見へと盗掘者達を向かわせたのである。


 彼ら三人も盗掘者である。

 が、本職ではない。

 

 彼らが住まう土地を治める領主は、なんとそれぞれの街や村に「倍の納税か魔導具の納付、どちらかを選べ」という無茶苦茶な勅命を発布したのである。


 彼らの村にも当然領主からの勅命は届いたのだが、この村はど底辺オブ底辺と他の村からも馬鹿にされる貧しい村であり、ささやかな作物をこれ以上税として持っていかれたら、明日からの食事は木の根や泥の粥待ったなしである。


 ということで、村人の中から、多少なりとも腕に覚えのある三人が選抜された。

 それが探索に長けたシアム、腕っ節には覚えのあるベルガ、初級魔法の心得があるルシアの三人である。


 三人は村からさらに辺境にある、魔術師の墓の一つである洞窟を訪れた。

 既にこの墓は盗掘され切ったと言われてはいるが、もしかしたら本業の盗掘者たちが見逃した魔導具があるかもしれない。

 新たな魔導師の墓の情報も持たない素人同然の彼らにとって、この選択は仕方がないことなのだ。


 しかし洞窟を模した魔術師の墓は、きっちりと盗掘されていた。

 扉と言う扉は開かれ、部屋に残されたのは朽ちた家具や割れた陶器のみ。

 書棚だったであろう場所には書物の一冊も残っておらず、壁には何かを立てかけていたであろうフックが刺さっているだけ。


 やはりか、という諦観を振りほどき、彼らはゆっくりと洞窟の奥に進んでいった。

 ささいなものも見逃さないように。

 

 そしてついに彼らは発見した。

 というか、もしかしたら「発見された」のかもしれないが。

 その後、彼らは蟻の巣のようにはりめぐらされた洞窟内を、必死でここまで逃げてきたのだ。

 

 六つの目を持つ魔獣『キマイラ』から。


 ベルガに先導され、意を決して光に飛び込んだ三人の前で、奇妙な服装をした男が、高笑いを上げながら何かを放射している。

「ほれほれー!」

「きゃー!」


 突然の事態にパニックとなった三人は、目の前の脅威であろう男に問答無用で襲いかかった。

 シアムは狩猟用の小さな弓矢を引き絞り。

 ベルガは松明を投げ捨て、錆が浮く小剣を向けて。

 ルシアは唯一の攻撃魔法である風刃エアを唱えながら。

 

 その後同時に、腹を押さえて転げ回ったのである。

 突然襲いかかってきた強烈な腹痛によって。


「で、なんなのこいつら?」

「さあ?」

「さあ?」

 ホースの水を止めた貴意の疑問に、シルベールとナハルッドは首をかしげている。

 腹を押さえて転げ回った後、力尽きたように気を失った三人を、シルベールとナハルッドが神社の草の上に並べてやる間、貴意は水撒きをしていたホースを片付けた。

 

 先程貴意が放射していたのは、ホースからの水流。

 的はシルベールとナハルッド。

 先日の買い物のときに置いてきぼりを食らった腹いせに、二人にお仕置きをしたいが、下手に乱暴しようとすると、ちんこがさけるチーズになってしまう。

 あの痛みはこりごりだ。


 貴意は考えた。

 シルベールとナハルッドが嫌がらないお仕置きならばOKなのではないかと。

 そこで彼は思いついたのである。

 二人と水遊びをしようと。

 都合がいいことに今日は夏の日差しがとっても強い。

 

 Tシャツとショートパンツ姿にとなった二人に、まずはやさしくホースの水をかけてやる。


「これが日本の水遊びだ」

「あーん、冷たい! でも気持ちいいかも!」

 冷たいシャワーに気持ちよさげに身をよじるシルベール。

「わはははは!楽しいなきーちゃん!」

 童心に戻ったかのように、降ってくる水へとはしゃぐナハルッド。

 ええのか?

 たまんねえ。


 などと上機嫌なシルベールとナハルッドに向けて、徐々に水圧を上げ、ホースの先に取り付けたノズルをシャワーから徐々にジェットノズルに切り替えていく。

 狙いはシルベールとナハルッドのあんなところやこんなところ。


「きゃー! くすぐったい!」

 全身を水に透けさせたシルベールが、惜しげもなくその華奢な姿を躍らせる。

「もっと、もっとだ! きーちゃん!」

 無防備な状態で身体の凹凸を胸の先から股間までくっきりと浮かび上がらせたナハルッドが貴意に向かってはしゃぐ。

 ええのか? ええのんか?

 あーたまんねえ。


 貴意の目論見は大成功。

 久しぶりにちんこが痛くならずに己の嗜虐心を満足させた貴意は、余韻が残るうちに部屋にこもって自家発電に励もうと決意した矢先に、彼らが鳥居から飛び込んできたのである。

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