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ショッピングモールの野望

 シルベールとナハルッド、そしてプドルフからの圧力、さらにハンデルからのお願いを叶えるために、貴意はワンボックスでゾーン外へと出かけてみることにした。


 その前に出かける支度をしなければならない。

 まずは異世界人どもの見た目を何とかすること。

 

 普通に異国のヅカ系美人さんであるナハルッドは、以前買い与えたスポーツウェアにサングラスで問題なし。

 超絶美少女のシルベールには伊達眼鏡に念のためマスク着用。衣類はこれも以前貴意が買ってきたお安いワンピースでOK。

 ぱっと見がちょい悪イタリア人を思わせるハンデルのおっさんは、六本腕のうち4本をサラシで身体に巻きつけ、万一にも飛び出さないように固定してから、貴意のダボシャツを上からかぶせてみた。

 これでちょっと筋肉質なおっさんの出来上がり。


 さて問題はプドルフ。

 この真っ黒毛玉をどう変装させるのか。

 とりあえず全身が毛だらけのため、これを隠すには全身タイツにお面とフードが必要だが、実際にやってみると、どこからどう見ても児童虐待である。

 当のプドルフも苦しそうみたいだし。

 

 悩み抜いた貴意は、大胆な発想の転換を行った。

 プドルフを人間の子供に似せようとするから色々と破たんするのだ。

 いっそのこと、犬にしちまえと。


 そうなるとペット同伴の店が限定となってしまう。

 なので貴意はあらかじめ全員から行きたい場所を聞き取り、順番に回ることにした。

 

「それじゃあ出発するか」

 全員をワンボックスに乗せると、貴意は車のエンジンをかけたのである。

 

 旧道からバイパスに合流し、そこから港湾道路へ。

 窓の外にはきれいな海が広がっている。

 

「どうだ、きれいだろ?」

 貴意の自慢げな問いかけに、窓に張り付いている四人から、興奮したように答えが返ってくる。


「自動車っていろんな色があるんだね!」

「並の魔導戦車よりも速いなこれは!」

「道が平らだよ!」

「あのでかい魔導戦車は何だ!」

 

 誰も海に注目していねえ……。

 それにどうやら誰も貴意のガイドを聞いていない様子である。

 

 ……。

 まあいいか。

 邪魔者をとっとと帰してからお楽しみだし。

 貴意はむかついた気分を切り替えると、目的地へと向かったのである。


 一行が出向いたのは、サッカーの街にある、とあるショッピングモール。

 駐車場に車を止めると、貴意は四人に改めて注意事項を伝えてから、よっこらせっとプドルフを抱っこした。


 そのままモールの入口まで出向くと、プドルフを『ペット専用カート』に乗せて準備完了。

 これでどこから見ても大きめのプードルにしか見えない。


「それじゃあ行くとするか。必要以上に俺から離れるなよ」


 ということで買い物開始である。


 まずはおっさんから。


 唯一ペット同伴可のホームセンター。そこの一画にあるアルコールコーナーへと到着。

 既にエリア外のため、貴意の他に文字が読める者はいない。

 が、デザインの違いは何となくわかる。


 おなじみの銀色の筒の横には、黒い星マークが描かれている筒や、キマイラのようなモンスターの絵が描いている筒が並んでいる。

 筒の色も銀色だけでなく、色々とカラフルだ。


「領主からの依頼ってのは、甘いやつだったな」

 貴意の確認にハンデルは頷いた。

 

 晩餐会でビールはおおむね好評なのだが、一部ご婦人やご令嬢たちには少々苦すぎるらしい。

 領主もそうした客のために、異世界の果実酒や蒸留酒の瓶をビールと一緒に冷やしてみたのだが、イエルと同じく、どれも冷やすとイマイチなのだ。

 

 それもそのはず。

 向こうの世界では保存方法として『保存魔法プリザベイション』およびその魔導具が早い段階で普及したために、必要に駆られて『冷やす』という手法が発達しなかったのだ。

 なので当然飲み物も『常温で最も美味い』ものが生産されているのは当たり前。


 ハンデルは以前ナハルッドから『りんごサワー』なる甘い酒があると聞いていたので、今回はそれらの試験調達が目的という訳である。


 ビールの横には、恐らくはこちらの果物であろうカラフルな絵が描かれている筒がたくさん並んでいる。

「飲みやすいのはこの辺かな」

 貴意のお勧めに頷いたハンデルは、ご令嬢達が喜びそうな絵が描かれている筒を一本ずつカートに入れていった。

 その中にはアルコール度数が強烈なのもあったが、どうせ説明してもわからないだろうからと、貴意はそのまま放っておいた。

 

 ハンデルの買い物が済んだら、今度はDIYコーナーへ一行は移動した。

 ここでの目的は『こちらの彫金工具』入手である。


「きーちゃん、こっちこっち!」

 目の前に広がる一面の工具に興奮しきったプドルフはカートを押す貴意をあっちこっちに連れまわし、他の三人も強制送還されないようにそれを慌てて追いかける。


 他の客達は何事かと貴意達一行を見つめてはいるが、彼らにプドルフの声は「ちょっと妙な犬の鳴き声」にしか聞こえない。


「見つけた!」


 それは貴意にとっては何に使うのかよくわからない道具が詰まった工具セット。

 当然ながらお値段もそれなりに張るシロモノ。


「ねえ、これ欲しい!」

「わかった。それじゃあ買ってやる」


 ということでハンデルとプドルフの分をいったん清算してやる。


「早く試してみたいものだ」

「早く試したいよね!」


 ハンデルもプドルフも手に入れた甘い酒や彫金道具が気になって仕方がない。

 その様子は貴意の思うつぼ。


「よし、ハンデルのおっさんとプドルフは車に乗れ。二人ともちゃんと酒と工具箱は抱えていろよ」

「すまん。我がままを言って」

「いいさ。その代わりプドルフの昼飯とブラウニーたちの弁当を頼むな」

 ハンデルにさわやかな笑顔を向ける貴意。


「先に帰っているね!」

褐色小妖精ブラウニーコーボルト達への飯の差し入れを忘れるなよ」

「わかった!」

 プドルフに優しげな目線を送る貴意。


「それじゃあな」


 貴意たち三人が車から離れてしばらくの後、ハンデルとプドルフはそれぞれの得物を抱えたまま、鳥居の前に強制送還された。


「よし、邪魔者は消えたぜ。それじゃあこれからが本番だ。シルベール、ナハルッド、行くぞ!」

「わかった!」

「楽しみだ!」


 ということで、ちょい悪そうなおっさんと、色々と入店制限があるケダモノを先に帰した三人は、本格的にショッピングモールでのお買い物を楽しむことにしたのである。


 ああ、心地よい。

 サングラスと伊達眼鏡とマスクを外させた二人を伴って歩く貴意の元に届く男どもからの嫉妬の声が。


「すげえな、何だあの美人は?」

「外国人のコスプレイヤーかな?」

「なんだあいつは?」

「ガイドじゃねえの? 良くわかんねえ言葉をしゃべっているしさ」


 そうかいそうかい。

 ならば見せてやろう。


「ほれ、シルベールもナハルッドも離れるなよ」

「うん!」

「待ってくれ!」


 ここで強制送還されたら元も子もない二人は、慌てて貴意の両腕をシェアして片方ずつ腕をからめた。

 まさしく両手に花。


 ふっふっふ。

 

 周囲からの羨望の眼差しに酔いしれた貴意は、この後、二人からの可愛らしいおねだりと、ショップ店員たちからのお世辞満載のセールストークに持ち上げられた結果、金板一枚の価値ほどの散財を、地方のショッピングモールで展開することになる。


 山のような荷物を抱えながら車に戻ったご満悦の三人。

 荷物を車に積み込み終えたら、後は帰路。

 

 ここからが貴意の本番。

 すっかり上機嫌となったシルベールとナハルッド。

 今なら恐らくはいちころであろう。

 ゾーン外であんなことやこんなことを致すことが可能かどうか実験をしなければならない。

 そう、これは至高なる実験である。

 決してケダモノの行為ではない。

 

 ふう。

 貴意は深く深呼吸を終えると、運転席へと座った。


「それではちょっと寄り道をしようか。お嬢さん達」


 って、何だと?

 

「ちょっとトイレに行ってくるね。なーちゃんも一緒にね!」


 シルベールは笑顔でそう叫ぶと、そのままナハルッドの手を取り、駐車場を全力疾走して車から離れてしまう。


「ちょ、ちょっと待てえ!」


 慌てて二人を追いかけようとする貴意だが、後の祭り。

 めでたく二人とも鳥居の前へと強制送還となる。


「どうしたんだしーちゃん」

「ちょっときーちゃんから負のオーラを感じちゃってさ」

「そういうことか。しょうもないな、あの御仁も」


 ということで、貴意のたくらみはシルベールによって、水際で阻止されたのである。

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