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始まりは女神様

 それはとある女神様の些細な気まぐれがきっかけ。

 

 その女神様は日本でも指折りの有名な神様であり、その名は様々な分野で二次使用されているという人気者。

 そんな女神様を祀る神社は日本各地に数えきれないほど存在し、それぞれに多くの人々が訪れている。


 女神様は多くの神社が女神様への祈祷料その他で膨大な利益を上げようとも、自身の名前を薄い本やエロゲとかに引用されて恥ずかしい恰好や恥ずかしいことをさせられていても、あんまり細かいことは気にしない。


 なぜならば女神様にとって、人々が前向きに暮らしているのならば、それでいいのだから。

 そもそも「現世をちゃんと楽しみましょうね」というのが、女神様が所属する神様団体の考え方で、よその団体における「あれ食うな」とか「これするな」とか、いちいち口出しをして人間を縛るのはつまらない事だとしているのだ。


 そんな女神様であるが、最近の日本の風潮には、いささかうんざりしている。

 なぜかと言うと、まあなんというか、人々から覇気が感じられないからなのだ。

 

 これはちょっと刺激を与えなければダメかしら。

 少しだけ悪戯心いたずらごころが湧き出す女神様。


 でも、あんまり刺激を与えちゃうと、手がつけられない大混乱を日本中に引き起こしちゃうかもしれない。

 それは女神様の本意ではない。


 どうしたものかしら。


 すると思案中の女神様の脇で、『スマホのようなもの』が可愛らしい呼び出し音を奏で始めた。

「もしもし。あらお姉ちゃん久しぶり」

 女神様の可愛らしい応答にスマホのようなもの越しに美しい声が響く。

「ごめんね突然連絡しちゃって」

 どうやら女神様の姉神様あねがみさまから連絡が入ったらしい。


「ちょっとこっちで色々とあってね。さーちゃんに相談に乗ってほしくてさ」

 姉神様からの相談に、スマホのようなもの越しにうなずきながら耳を傾ける女神様。

「そうねえ、どうしたものかしら」 

『さーちゃん』と姉神様にフランクに呼ばれた女神様は、ちょっと考えてみる。


 ちーん。


「お姉ちゃん。私に考えがあるわ」

 女神様からの提案にスマホのようなもの越しに頷いているであろう姉神様。

「わかったわ。タイミングが来たら教えてね。さーちゃんありがと」

「任せてお姉ちゃん!」


 ちょっといいことを思いついちゃった女神様は、通話を切ったスマホのようなものを、今度は操作するかのように画面をタッチしていき、何やら調べ始めた。

 どうやら画面に映っているのは『女神様を祀る神社ワールドマップ』らしい。

 女神様はその中から、今回の目的に合いそうな場所をタップし、それぞれの情報を比較していく。

 

 そうしているうちに、女神様は、とある神社と一人の若者に興味を持った。

 彼は人々から捨てられた土地にひとり残り、女神様を祀る小さな神社の境内を、毎日毎日律儀に掃除をしている。


 ふーん。


 女神様は手元の画面を操作して、若者について一通り調べ上げてみる。

 あら、これはいい感じにクズね。

 女神様はその美しい唇の端を持ちあげ、楽しそうな微笑みを浮かべた。

 

 よーし。キミに決めた!



 おかしな夢を見た。

 

 若者は目覚めると「まさかな……」とつぶやきながら、枕元のスマホに手を伸ばし、画面に目を走らせた。


 マジかよ。


 画面には見慣れないアイコンが一つ。

 それはよくある美少女系ゲームアプリのようにアニメ顔の女の子が描かれている。

 アプリ名には『さーちゃんペディア』とある。

 ここまでは夢の通り。

 

 彼の名は『望月もちづき 貴意たかおき』という。

 昨晩、彼の夢に古衣装をまとった一人の美しい女性が現われた。

 彼女はその端正な顔立ちとはちょっとそぐわないアニメ美少女声で、一方的に彼にこうまくしたてたのだ。

 

「きーちゃん、いつも神社の清掃ありがと。ううん、みなまで言わなくてもいいわ。君がクズだってのはわかっているからさ。それでね、君にお願いがあるの。君のスマホに特製アプリをダウンロードしておくから読んでおいてね。それじゃヨロシクね!」


 もしかしたら新手の詐欺か?


 しかし彼のスマホは某人造人間系のガバガバOSではなく、ゲームキャラのおっぱいが揺れたりカラフルパンツが見えてもNGという、リンゴ印の融通が全く効かないOSである。

 そう簡単にハックされて勝手にダウンロードされるようなことはないはずだ。


 貴意はウイルス拡散や個人情報ぶっこ抜きなどに備え、スマホを飛行機内モードにして通信不能に設定してから、さーちゃんペディアとかいうふざけたアイコンをタップしてみる。

 するとこんな文字が先程の甲高いアニメ美少女声の読み上げとともに表示された。


「これはきーちゃん専用アプリ『異世界交流地帯運用マニュアル』略して『さーちゃんペディア』でーす。わからないことがあったら検索してね!」


 ……。


 どこをどう訳すと「異世界交流地帯運用マニュアル」が「さーちゃんペディア」になるんだ?

 貴意はスマホに向かって思わずそう呟いてしまう。

 すると彼の呟きに反応するかのように画面が切り替わった。

 

『異世界交流地帯 "(The) ディファレント( different)  ディメンションズ(dimensions) コネクト( connect)  ゾーン(zone)" 略号はディー()シー()ゼット()


 そっちの略語かよ。

 ところで『運用』ってなんだ?

 そんな貴意の疑問に答えるかのように、スマホの画面は今度は文字でびっしりと埋まった。


『DCZ』はその名の通り『異世界と日本をつなげる地帯』です。

 きーちゃんには『こちら側の管理人キーマン』としてこれから活躍していただきます。


 どうやらスマホアプリは貴意を彼のあだ名の一つである『きーちゃん』で押し通すらしい。

 しかしそんなことは気にせずに、続く文字列に貴意は目を走らせる。


 ……。

 

 これってすごくないか?

 何で俺はこんな力を持つことになったんだ?

 そもそも『さーちゃん』って誰だ?

 もしかして……?

 貴意の疑問にスマホから今度は声だけがやさしく響く。


「ご想像の通りよ」


 ……。


 そっか。女神様の意思か。

「ご名答。そんな難しく考えなくてもいいわ。さっきも言った通り、きーちゃんがクズだっているのはわかっているからさ」

 再びスマホから響く女神様の可愛らしい声でクズ呼ばわりされた貴意ではあるが、そんな細かいことよりも、これから起きるであろう出来事と、自身が使えるようになった能力の方が気になってしまう。


「それじゃあ、とりあえず毎朝のように掃除から始めるか」


 貴意はそう呟くと、スマホを片手に今日をこれまでのように過ごす準備を始めた。

 こう呟きながら。


「ああ、面倒くせえ……」

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