帰国
「で、どうすんだよ?」
「どうするって……どうしよう?」
「……このやり取り、さっきもやったね。」
ピエトロのツッコミにネロはわざとらしい乾いた笑い声を上げた後、大きくため息を吐いた。
三ヵ月かけてようやく辿り着いた目的地だった森からは妖精界には入れず、おまけに次の目的地であるトリンドルの森は場所すらわからない。ネロ達は完全に目的地を見失っていた。
「……そういえば、エーテルに妹さんいたんだね、エーテルに似て、すごく可愛かったよ。」
「姉よりもよっぽどしっかり者みたいだったけどな。」
「えっへん、なんたって私の妹ですから。」
「いや、いばるとこじゃねぇよ。」
「フフッ、そういえば、ネロ達は兄弟とかはいないの?」
ピエトロの質問にネロは少し考え込む、兄弟がいないことを知っているエレナは何故考え込むのかと不思議がるが、ネロはしばらく考え込んだ後
「……いねえな、強いていうならエレナが兄妹見たいもんだ。」
と答えた、そしてその返答に兄妹と呼ばれたエレナは凄くしょんぼりとした。
「でも、そういえば私達も旅立って三ヵ月かぁ、島の皆んな元気にしてるかなぁ……」
そう呟きエレナが空を見上げながら思いふける。
そしてネロはエレナのその一言にとある言葉が記憶を過ぎった
『一ヵ月に一度は、手紙をよこすこと。そして三ヵ月に一度はこちらに帰ってくることだ。』
『三ヵ月に一度はこちらに帰ってくることだ……』
――……
頭の中でその言葉が木霊する。
そして現在、旅立ってちょうど三ヵ月である。
――……
「しまっっったぁぁぁ!」
ネロがその場で頭を抱えながら発狂した。
「ど、どうしたのネロ?」
「三ヵ月たったら一度島に戻らなきゃならねぇんだった!」
「えぇ⁉︎三ヵ月ってもうそれくらいたってるよ!早く戻らないと、ここからガガ島までどれくらいかかるんだろう?」
「最短ルートは近くの港町から船で向かうルートだけど、それでも最低でも一ヵ月はかかるね。デイホースでもない限りすぐに帰るのは厳しいと思うよ。」
ネロの額にどんどん汗が滲み出る。
元々無理を言っての旅立ちだった、条件を守らならければたびを中止させられる可能性は十二分にある。
「ヤバい、もし破ったら最悪旅を中止させられる可能性も……」
「それは、ヤバいね。」
「あ、じゃあエーテルにオルグスまでテレポして貰えば?あそこなら数日で尽くしまだ誤差範囲内だと思うよ。」
「それだぁ!ナイスエレナ!エーテル、頼む。」
小さな体のエーテルにネロが拝みこむ、そんなネロの珍しい姿にいい気になったエーテルは
「はぁ〜しょうがないわねぇ~」といいながら上機嫌に承諾した。
「じゃあ皆んな近くに寄って。」
エーテルの指示で三人が固まると、エーテルが呪文を唱え始める。
「……我らを記憶の地へと誘え、テレポーテーション!」
エーテルが呪文を唱えると前回と同じようにぐにゃりと風景が変わり始める。
――
「……」
確かに景色が変化した、しかし場所は華やかな木々から緑豊かな木々に変わっただけで、とてもではないがオルグスの街には見えない、しかしそれでもこの景色は見覚えのある景色だった。
「ここは、確か……」
「エーテルと出会った森だな。」
「えっと……また座標ずれちゃった。」
「またかよ……」
と、小さく愚痴をこぼすが自分の私情で送ってもらった以上、文句を言える立場ではないのでネロはそれ以上とやかくは言わなかった。
「どうする、このままテットまで直接行く?」
「せっかくだし、オルグス町に寄っていきましょうよ。今から港に行っても、もう今日船は出せないだろうし。」
「……そうだな、あの後の経過も気になるしな。」
ネロ達は行き先を決めるとそのままオルグスまで歩き始めた。
――
「はぁ、しかし完全に忘れてたぜ。」
帰国の目処がたち、少し余裕ができ始めたのかネロが落ち着きを取り戻す。
「危なかったねぇ、お父様の事だからもし戻らなかったらきっと今頃……」
エレナの言葉にネロは身震いさせる、ネロも幼いころからリングに世話になっているのでリングがどういう男か知っている。
きっと旅は中止、そして最低十五歳になるまでは島から出してもらえてはいないだろう。
せっかくここまで順調に来ているのに、こんなくだらない事で終われるわけなかった。
「でも、なんで三ヵ月で戻るように言ってたんだろう?旅をする中で、そんな期間を決められても帰る難しいと思うけどなぁ。」
確かにそれはネロも感じていた。
今回はエーテルがいたから良かったが、もしいなくて、この広い大陸を旅する中、帰国命令なんて出された所ですぐに帰れるわけがない。そしてそれはリングも分かっているはずだ。
「君達がどういう経緯で旅立ったかはわからないけど、もしかしたら三ヵ月に帰ってこないといけない理由があったのかもね。」
「理由?」
「うん、例えばネロが旅立つという話を他の第三者が聞いて、その人が各国の状況報告をさせるために定期的な帰国をさせるように言ったとか」
「なるほど、しかし俺の知り合いにそんなやついたかなぁ?」
「まあ考えられるとしたら、君達の身近な人物で、更に他国の情勢に興味を持つ国関係の人物かな。」
「おいおい、こっちは島を治めてる貴族だぜ?国を動かすようなそんな大それた知り合いは……」
いない、そう言おう思ったところで、ネロとエレナにある一人の人物が脳裏に浮かんだ。
「「あっ……」」
「……いるんだ」
「あいつか、あいつのせいなのか……」
ネロが再び頭を抱える。
ネロが思い浮かんだ人物、それはネロが生きてきた中でもっとも苦手とする人間でエレナ以外にネロの本性を知る数少ない者であった。
「えっと、一体何者なの?」
「あ、うん。その人はね――」
「天敵」
「え?」
「奴は俺の天敵だ」
エレナの言葉を遮り、ネロはそれだけ言うと一人足早に足を進めて行った。。
「ネロの天敵……一体何者なんだろ?」




