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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
第二章 ネロエルドラゴ編

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同化師

「ど、同化だと⁉︎」


自分の予想の遥か上をいくリグレットの能力を目の前にレミーが声を張り上げて反応する。


「そ、私の持つ、特殊スキルは『同化師(フュージョニスト)』。私は自分に触れているものなら地面や風と言った五大元素から人やモンスターといった生き物まであらゆる物と同化できるの。」

「触れるもの全てと同化……」


――ありえない


話を聞いたレミーが真っ先に浮かんだのがその言葉だった、いや、リグレットを前にその言葉しか浮かばなかった。

レミーは特殊スキルの持ちに出会うのは初めてではない。

獣人族には特殊スキルを持つものは少なくなく、現にレミーが使っている護符も特殊スキルによるものでもある。

ただ、それでもリグレットの能力は他の者たちのスキルと比べてもあまりに規格外で出鱈目な能力であった。


「だから、今私と同化しているこの周りの地はぜーんぶ、私なの……つまり、今貴方は地面(わたし)の上に立っている。」

「⁉︎」


 その一言をを聞いた瞬間、言葉の意味に気付いたレミーがその場から即座に離れようと地面を蹴るが、既に遅く、右足が地面から離れず、そのまま転倒する。

 右足を見ると、レミーの右足が地面につながり、膝までが土と化していた。


「どう?便利でしょ?土と同化すればそれを伝ってその場にある全てのものとも同化できるの。まあ、同化するものが大きかったり、生き物の場合は自分のレベルによって同化が限られてくるんだけどね。」


 レミーへと一歩一歩近づきながら能力を自慢げに解説するリグレット。

しかし今のレミーには話に耳を傾けるほどの余裕など微塵もなかった。


ただこの状況を抜け出すことだけを考え、必死でもがくが、土と化した右足は自分の意思では動かす事はできず完全に地面の一部となっていた。

レミーの表情は焦りと恐怖により青ざめ、大量の汗が滲みでている。

この恐怖は身の危険による恐怖ではない、任務を失敗する事への恐怖だ。


 この任務は尊敬するミーアの命を落としてまで実行した作戦、絶対に失敗だけはしてはいけない。

だが語られた能力と今の状況に、目前まで来ていた成功へのビジョンが瞬く間にかき消されて行った。


「失敗だけは許されない……そう……絶対に許されないのだ……」


 レミーは自分に言い聞かすようにそう呟くと、土と化した右足を見てギュッと剣を握りしめ、一つの覚悟を決めた。


「まあ、そう言うことだから素直にその子を渡してくれれば危害は――」


 リグレットが、軽い口調で降参を持ち掛けようとした瞬間、グシャっといった音とともに目の前で大量の血が辺りに飛び散った。


 目の前では、レミーが自分の体から土と同化した右足を剣で切り離していた。


「……悪いが、それだけは出来ん、この妖精が、我等獣人族の希望なのだ。」


 レミーが痛みを必死に堪えながら剣を地面に突き刺すと、剣の上に片足で飛び乗り、そこから更に飛び上がり、リグレットの作った壁の上から岩山へと飛び移る。


「え?嘘⁉︎」


 リグレットが驚き戸惑っている隙にもレミーが片足で岩から岩へと飛びのりどんどん岩山を上がっていく。


――ここさえ、ここさえ越えれば……


 痛みもを忘れ、ただ必死で頂上へと進んでいく。

頂上までたどり着けば後は降りるだけ、降りる事は落下しながらでもできる、ホワイトキャニオンさえ出られれば、例え自分が死のうとも他の軍のものに妖精を託すことができるのだ。


レミーは体に力を入れるたびに襲ってくる激痛に顔を歪ませながらも、ただ上を目指すことだけを考える。

そして頂上付近まで来ると、力を振り絞り一気に頂上まで飛びあがった。

 

――よし、すぐに仲間に連絡を……


レミーは着地すると同時に仲間に連絡を入れれるよう空中でボイスカードを取り出す。

 しかし、レミーが頂上の地に足をつこうとした瞬間、突如着地地点の地面に巨大な口が現れる。


「な⁉︎――」


突如現れた口は、レミーに驚く暇も与えず、レミーを一飲みすると、元の地面へと戻っていった。


――

そしてしばらく時間が経ったあと、地面の中からエーテルの入った瓶を手にしたリグレットが上がって来る。


「……ごめんね、あなたの気持ちもわかるけど、こちらももう依頼主を裏切りたくないから。」


 リグレットが小さく謝罪の言葉を呟くと、土で墓標を建て、そのまま風へと溶けていった。


――


「ネロ!エーテル!」


 リグレットが足が動かないネロを拾ってピエトロ達の元へ戻ると、エレナが駆け寄りエーテルが入った瓶を強く抱きしめる。


「大丈夫だよ、寝てるだけだから。」

「よかった……本当に良かったよう……」


 エレナが眠るエーテルを瓶から取り出し、泣きながら頰擦りする。

 そしてピエトロは少し不機嫌な表情を浮かべて地面に座るネロへと近づく。


「災難だったね。」

「……」


 ネロはただ無言で俯向ていた。

 完全に出し抜かれた事への怒りと悔しさを抑えるのに必死だった。

油断したつもりは全くない、それでも圧倒的実力差のある相手にしてやられてしまったことに自分の詰めの甘さを実感させられていた。


――こんなんじゃあ、いずれまた……


治らぬ怒りから体を震わすネロが、地面に八つ当たりで殴りかかろうと拳を振り上げる、しかし、ピエトロの言葉にふと手が止まる。


「でも、二人とも無事で良かったよ。」


その言葉に、先程までは耳に入らなかった喜ぶエレナの泣き声が聞こえると、苛立ちの感情がスゥッと抜けていき、振り上げた拳をそのままゆっくりと下に降ろす。


「……そうだな。」


――……悔やんだところで仕方ない……か


 ネロは天を仰ぐと静かに目を閉じ、この敗北を胸に刻みつけ、気持ちを切り替えていった。


「ちょ、エ、エレナ⁉︎苦しい、苦しいって……」

「あ、起きた!」


エーテルが目覚めたのに気付くとエレナはエーテルを解放する、そして涙を拭き、落ち着きを取り戻すと、リグレットへ改めてお礼の言葉を告げる。


「リグレットさん、ネロとエーテルを助けてくれてありがとう御座います。」


 目を赤くしたエレナが深く頭を下げる。


「え⁉︎あ、いやぁ、いいの、いいの、これも仕事だからね。」


エレナからの率直なお礼の言葉に、リグレットは照れくさそうに頭をかくと、その場から逃げるようにピエトロへと歩み寄る。


「本当はお詫びを兼ねてタダで請け負いたかったんだけど、状況が状況だから……」

「わかっているよ、はい、これが約束の報酬さ。」


 リグレットが催促するとピエトロも頷き、手に持つ卵を渡す。

 そしてそれを目にしたネロとエレナが思わず、え⁉っと口を揃える。


「報酬の白龍の至宝、確かに、頂きました、これで私達の首も繋がりそうです。」

「お、おいちょっと待てよ!」

「ん?どうしたんだい?」


予想通りの反応をする二人を見てピエトロが小さく笑う。


「お前、いいのか⁉︎それって――」

「うん、良いんだよ。少し名残惜しいけど、これでエーテルが助けてもらったんだし、そういう約束でもあるから」

「でもそれは跡取り争いの……」

「ああ、それならね……もういいんだ。もうこれにこだわる必要もなくなったから……僕の目的は達成できたからね。」

「え……?」

「……僕はね……周りが思っているほど、優しい人間じゃないんだよ。


そう言ってピエトロがいつもの様に笑って見せる。しかしその笑顔はいつもよりも影があり、どこか儚げな笑顔だった。


その時の言葉の意味と笑顔の真意を、ネロ達はその場では理解できなかった。

理解できたのは街に帰った後……レクサスが死んだと聞かされた時だった。

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