それぞれの動向
セグリアからホワイトキャニオンまでの道のりを、一つの馬車が走っていた。
上空と周りにモンスターを従えた馬車は、馬車の中の事など気にも止めず、激しく揺らしながら、物凄い速度で駆け抜ける。
馬車の中では、激しい揺れに怯え身体を震わす三人の腹を孕ませた裸体の女性と、そして何の感情も出さずにただ到着するのを待つレクサスがいた。
セグリアからホワイトキャニオンまでの距離はおよそ二十キロと、普通であれば数時間はかかる距離だが、レクサスの馬は地面を破壊してしまうほど強く蹴り走りつづけると、僅か数分足らずで到着した。
近くにある砦にはよらず、レクサスがホワイトキャニオンの入り口まで来ると、出入りを監視する兵士が敬礼をする。
「こ、これはレクサス様、跡取り争いの話はブルーノ公爵から伺っております。どうぞお通り下さい、」
兵士達は緊張しているのか声を強張らせながら、挨拶をする。
「先にここにきた奴はいるか?」
「いえ、数日前に一度ピエトロ様ご一行が来られましたが今日はレクサス様が最初です。」
「そうか……」
素っ気なく返事を返すとレクサスはモンスターを従えそのままホワイトキャニオンの中へと進んでいく。
「……跡取り争いか」
レクサスはその言葉を復唱すると小馬鹿をするようにフンと笑った。
「馬鹿か……あんなの応じる訳ないだろう。」
――
「なに!レクサスの奴が先に着いただとぉ!」
「は!先ほど入り口の兵士から報告がありました。」
レクサスがホワイトキャニオンに、到着してから数分後、入り口の近くの岩山にある砦に到着したテリアが兵士からその報告を聞くとその場で大きく地団太を踏む。
「クソッこの駄馬め!どんなけトロいんだよ!」
テリアが怒りをぶちまけデイホースに何度も蹴りを入れる。
「……デイホースを、駄馬なんて言えるなんて、流石貴族は違うわね……。」
テリアはしばらく蹴り続けてるがデイホースは余り効いておらずピクリともしない。
疲れたのか息切れをしたテリアは、蹴るのをやめると、今度はリグレット達に当たるように怒鳴り散らす
「おいお前ら!レクサスよりも早くその至宝とやらを探し出すんだ!いいな!」
「テリア様は?」
「はぁっ?行くわけないだろ?俺はこの砦で待機しているからさっさと行ってこい!」
そう言うと、テリアは兵士達に休憩所へと案内させた。
「ガッテン、了解でーす」
とびきりの笑顔でテリアに敬礼をするとリグレット達は砦を後にした。
――
「ここがホワイトキャニオンかぁ……」
ホワイトキャニオンの岩山からリグレットご一行が辺りを見下ろす。
その場から見えるのは、広大に広がる、緑豊かな森と、その上を飛び回る白龍の姿。
全員がその光景に緊張感をたぎらせる。
「すごいねー、入っただけで、死期を予感させるほどの殺気にまみれているよ。」
「惜しいな、出来れば他のメンバーと一緒に入ってみたかった。この場所で立っていられる奴なんて、世界中探してもそうはいないからよ。」
「じゃあ、そうしようよ、ネロくんたち待ってさ!」
ロールが挙手して提案するが、ブランが小さく首を横に振る。
「そうしたいのは山々だが、彼らの馬じゃここに着く頃には日が暮れている。残念ながらそんなに待つ余裕はない。あの気違い長男がもうとっくに入ってるからな、奴より先に見つけないと俺たちは実験台だぜ。」
その言葉に反応するかのように、森の中からは白龍の悲鳴と思われる声が聞こえてきた。
「そっか、じゃあ馬鹿もいないし、サクッと終わらせちゃおう!」
「まず、どうしようか?あの馬鹿にはなんの手掛かりも教えてもらってないよ?」
「白龍の至宝というからには奴らにとっても貴重な物なんだろう、なら一番強い龍が守っている可能性が高いな。」
「じゃあ、一番強い奴を探そうか、リンスちゃん宜しく!」
「うん……」
リンスはコクリと頷くと皆の前に一歩出る。
いつもと変わらないマイペースな態度でゆっくりと杖を地面に突き立てると、その瞬間、張りつめた空気と共に、リンスの周りの地面に紫色の魔法陣が浮かび上がる。
「……神のみぞ知る景色……我が眼にも映したまわん……ゴッドビジョン!」
リンスが呪文を唱えると、リンスの眼に紋章のような模様が浮かび上がる。
そしてそれと同時に上空に突如雲が現れると、その中から巨大な眼の形をしたものが現れる。
その眼から、まばゆい光が放たれると、ホワイトキャニオン全体を照らし出した。
「……」
リンスがそのまま静かに目を瞑ると、頭の中に上空の眼から見える景色と、その範囲内にあるあらゆるものの名前、種族、レベルといった情報が流れてくる。
「どう?」
「……この場所の中心にある湖に、一番強い龍がいるよ」
「中心かぁ、なかなか辿り着くのは大変そうだな」
「ま、考えても仕方ないし、進もうか」
そう言うとリグレットたちは湖の場所へと歩き始める。
「……」
「リンスちゃん、どうしたの?」
「ねぇ、リグ……レベル四〇〇〇を超えるの人間って存在すると思う?」
「……はい?」
――
「ネロ、そっちから来るよ」
「はいよ」
ピエトロが指示する方向に体を向けると、グオオオオオと言う激しい咆哮と共に木の影から白龍の巨大な爪が襲いかかる。
ネロはそれを体で受けとめると、そのまま巨大な白龍を遠くまでへ放り投げた。
「ふう……よし、いっちょ上がり。」
額の汗を拭いながら白龍を放り投げた方向を見る。
「しかし次から次へとめんどくせえな、殺したら駄目なのかよ。」
「フフ、普通は殺す方が難しいんだけどね……この前にも言ったと思うけど白龍は仲間意識が強いんだ。殺してしまうと怒り狂った白龍達が大量に襲ってきてもっと面倒なことになるよ。ほら、ちょうどあそこを見てごらん。」
ピエトロの指差す上空を方向を見る。
そこには興奮した白龍達がどんどん同じ場所に集まっているのが見えた。
「多分、どちらかの兄さんのモンスターが白龍を殺したんでしょ。ああ、なると、面倒極まりないからね。」
話している今もどんどん白龍が集まっている。その光景を見て、ネロは殺さなくて良かったと心底思った。
「しかし、それにしても向こうはもう俺たちが着いてるとは思わないだろうな。」
ネロが少し勝ち誇った顔をしながら呟く。
「エーテルのおかげだね。」
「ま、たまには役に立ってもらわねえとな……で?、当の本人は?」
「ああ、それなら……」、
エレナが両手で丁寧に持っているものをネロに見せる。
そこには白目になりながら気絶しているエーテルの姿があった。




