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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
第二章 ネロエルドラゴ編

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顔合わせ


 ネロがピエトロと出会ってから数日が経ち、約束の日がやってきた。

 ネロ達は指定された時間になると、集合場所となっている街の入り口前の門へ向かった。


 集合時間から早すぎず、遅すぎずの時間帯に到着するが、そこにはまだブルーノの紋章が入った少し古びた馬車が一つしか停まっておらず、その中ではピエトロが一人で本を読みながら待機していた。


 ネロ達の足音に聞こえたのか、ピエトロが視線を外に向けこちらに気づくと、本を閉じ一度大きく伸びをした後、ゆっくりと馬車から下りてくる。


「やあ、おはよう、昨日はよく眠れたかい?」

「ええ、ピエトロからもらったハーブティーのおかげでぐっすり眠れたわ。」

「それはよかった。」


エレナの返答を聞くとピエトロはいつも通りニッコリと微笑む。


 ピエトロがブルーノの家の者という事もあり、初めこそ少しギクシャクしていた二人ではあったが、モンスターマニアのエレナと、どのジャンルの知識にも長けているピエトロには話が合うところも多く、ここ数日の間で二人はすっかり打ち解けていた。


「じゃあ今日はよろしく頼むよ。いくら君が強いと言っても、油断は禁物だからね。」

「こんなけ徹底的に調べておいて油断も糞もないだろ」


 そう言ってネロはピエトロからもらった大量の資料を見せびらかす。

 そこには今回の依頼に関する情報がびっしりと書かれてあった。


 ホワイトキャニオンは基本、人が入ることは叶わず、白龍達の縄張りの一歩手前の岩山にに建てた砦から、様子を監視する事しかできないのだが、ピエトロは、何か月も前からその砦の兵士から定期的に中の様子を聞いて、ホワイトキャニオンの地形、モンスターの情報を推測して資料にまとめていた。

 

 この数日はその資料を基に何度も段取りを考えて、徹底的なシュミレートも対策もしており、おかげで準備は万端だった。


「想定外のことだって起きるさ、所詮推測なんだから」

「推測ねぇ……」


 その言葉にネロがピエトロと初めて会った時の事を思い出す。


――あんなもん推測のレベルじゃねぇよ。


 ネロはハ!っとほくそ笑んだ。

 

 ネロ達がそんなたわいもない会話をしていると、街方面から馬車が一つ、こちらに向かってきた。


 馬車にはピエトロと同じくブルーノの紋章、しかし、ピエトロの乗っている馬車とは違い、荷台は豪華で、馬車を引いている馬は自分たちの馬よりもはるかに立派な、一つ目をした黒馬だった。


「あれ……もしかしてデイホース⁉︎」

「ご名答、さすがエレナだね。アレこそ世界最速の脚と力を持つ馬デイホースだよ。」


 ピエトロが肯定すると、エレナは大きく目を見開き、そのまま巨大な馬に見惚れていた。


 デイホースは南の大陸にいる世界最速の脚を持つと言われているモンスターに近い馬で、時速三〇〇キロのスピードと、その速度を保ちながら大の大人一〇〇人を引き連れれる力を持つ。世界でもなかなかお目にかかれない最上級の馬だ。


「デイホースなんて、初めて見たわ。」


 エレナは少し感動に浸っている。


「それに比べて……こちらは随分と質素な馬だな。」


 そうポツリと呟くとネロは自分達の乗る馬車の馬を見る。

 ガタイも小さく少し太り気味のやる気のなさそうな目をしている。


「仕方ないさ、家の者達は全員兄達に付いてるんだから、ま、想定通りだよ。」


――こいつ本当に走るんだろうな?


 ネロはのんびりと待機している馬を見て小さな不安を覚える。


 デイホースが引いた馬車が近くで止まると、馬車のドアが勢いよく開き、中からテリアが脂肪を揺らしながら、降りてくる。

 そしてテリアはこちらのパーティーを見渡した後、勝ち誇った顔をしながら鼻で笑った。


「なんだ血迷ったかピエトロ?まさかこんな奴を護衛につけるなんて。」


 その言葉にネロがムッとし、テリアを一度睨み付けるが、テリアはおびえた様子を見せない。

 数日空いた影響で、オーバリアクションの効果が薄れていたようだ。


「まあ、他の奴らより多少はできるっつっても所詮はガキ、白龍に、一瞬で殺されちまうのがオチだろ。」

「そう言うてめぇんとこの護衛はどうなんだよ?そんだけ言うんだからさぞかし立派な護衛を付けたんだろうな?」


 ネロが嫌味ったらしく尋ねると、テリアはその言葉を待っていましたかと言わんばかりにニヤリと笑う。


「俺か?俺のは完璧なメンツだぜ、なぜならこいつら以上の護衛はいないからなぁ!」


 そう言ってテリアが馬車にいる護衛達を呼びつける。

 テリアの勢いのある呼びかけとは正反対に、中から恐る恐る一人の女性が出て来る。

そして出てきた女性の姿を見た瞬間、ネロ達は表情を曇らせる。


「お前……」

「リグレットさん⁉」


 エレナが驚き思わず大声で名前を呼ぶと、呼ばれたリグレットが気まずそうに苦笑いを浮かべる。


「ハッハッハ、やはりお前らみたいな田舎貴族でも知ってるか。そう、俺の護衛はアドラーのギルドSランクパーティーダイヤモンドダストだ!どうだ?驚いたか!」


 テリアの言葉通り、ピエトロを除いた三人は素直に驚いていていた。

 当然だろう、リグレットは元々ピエトロに依頼されていたのを理由があって依頼は断ったと聞いている。

 それがテリアの護衛をしているという事は完全なる裏切り意外の何物でもないのだから


「あはは、三人共久しぶりだね、元気にしてた?」


 バツ悪そうに頭を掻きながら乾いた声で笑うリグレット。

 そんな彼女に対し、エレナは戸惑いを隠せず、ネロやエーテルは、冷めた視線でリグレッドを、じぃっと見ている。


「え、えーと、さ!流石、ピエトロ様ね、まさか本当に見つけちゃうなんてね。」

「よくもまあ、ぬけぬけと顔出せたな、裏切りもん」

「うっ……」


 なんとか、誤魔化そうとするが、ダイレクトなネロの言葉にリグレッドが思わず顔を歪める


「わ、私だって、本当はねぇ――」


 本当は断りたくなかった、そう言いかけるが、ちょうど傍にいる、テリアの視線に気づくと、なんでもない、と話を切り上げ溜息を吐いた。

 そして、その状況を見てネロ達はリグレットの状況を察した。


「……なんか楽しそうな声がする。」

「なになに?リグの知り合い?」

「俺たちにも紹介してくれよ。」


 馬車の中から残りのパーティーのメンバーとみられる者達が続々と出てくる。

 出てきたのは老将の男と耳の折れたビーストにとんがり帽子を被った小さな少女。


「この人たちが……」

「そう、私のパーティー、ダイヤモンドダストのメンバーよ、見た目こそあれだけどみんなとんでもなく強いから。」


 先程までのよそよそしい態度をやめ、開き直ったのか、普段通りに振る舞うとリグレットが自慢げにメンバーを紹介していく。


「この娘はウサギの獣人族のロール、この娘の脚力は並じゃないから」

「よろしくね~」


 紹介されたロールが折れていない耳をピクピク動かしながら小さく手を振り、明るく挨拶をする。

 そんな友好的な態度とは対照的に、獣人族に狙われているせいか、ロールを見た、エーテルが少し冷や汗をかいている。


「そして、こちらがリンスちゃん、見た目は幼女だけど実力は、ババア級よ」

「……見た目も幼女じゃないもん、ババアだもん……」


 リンスは子供っぽく顔を膨らませて怒って見せる。ババアと言われることに対しては褒め言葉と捉えているらしい。


「んでもって、このオッサンはブラン、もう隠居まじかだけど、経験は豊富だし、動きもまだまだ現役よ」

「リグレットから話は聞いてるぜ、だが俺もまだまだ若い奴らには引けを取るつもりはないからな!」


 威厳のある渋い声で、ブランが力こぶを、作り、強靭な肉体をアピールしてくる。


 ネロは紹介されたメンバー、一人一人に目を向ける。

リグレットの言う通り、三人共、半端な実力の持ち主ではない。

 その中でもネロが特に気になったのはブランだった。

威厳と風格を兼ねそろえた男ではあるがそれ以上にネロは別の事でブランに興味を示していた。


ネロは少し近づくと、まじまじと観察する。


「……お、おい、なんだ?俺に何か用か?」


ジッと見続けるネロにブランは少し困惑する。


「いや、なんかオッサン、どこかで見たような……」

「ん?悪いが俺はお前なんて知らんぞ?隠居まじかと言ってもまだボケるような年じゃないぜ?」

「いや、俺も知らないはずなんだがなぁ?」

「はぁ?」


ネロの訳の分からない言葉にブランは首をかしげる。

ネロ自身も自分で言った言葉の意味をわかっていないようで、ずっと顔をしかめたままだ。


「おや?もしかしてナンパですか?ダメだよ、ブランはこう見えて二人の子持ちなんだから。」

「んなわけねぇだろ!」


 リグレットに茶化されると白けたのか、ネロがブランに絡むのをやめる。


「ま、こんな感じのパーティーだけどよろしくね」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします。」


 エレナが丁寧なあいさつで、返すその場に和やかな空気が流れる。

 それが面白くなかったのかテリアがつまんなそうに舌打ちをする。


「それにしても、レクサスの奴はまだかよ?もしかして来ないつもりじゃないだろうな?」

「いや、ちょうどレクサス兄さんも到着したみたいだよ。」


ピエトロが上空を見ながらそう呟くと、テリアも不可解そうに同じように上空を見上げる。

そして上を見た瞬間


「な、なんだよアレ⁉︎」


テリアが思わず声をあげた。

そしてその声に周りのみんなも上空も見上げる。


上空にはここ一帯を影で覆ってしまうほどの巨大な生物が飛び交っていた。


「なになに?モンスターの襲来?」

「見ろ、こっちに降りてくるぞ!」


 全員が身構え、降りてきた影に注目する。


「なに、このモンスター?こんなの初めて見るわ。」


 全員が下りてきたモンスターの姿に驚きを隠せない。

 現れたのは形としてはドラゴンのようだが、目と呼べるものは見当たらず、皮膚はまるでスライムのようなゼリー状で出来ている。

そのモンスターは地面に降りるとまるでこちらを威嚇するように声にならない咆哮をあげる。


 ネロがエレナに尋ねるが小さく首を振る。


「……こんなモンスター、私も知らない。」


――エレナが知らないモンスター。


 新種のモンスターか、はたまたエレナが覚えていないだけか……その答えは後ろから聞こえてきた声によって判明する。


「止めろ、そいつらには今は(・・)手を出すな。」


 後ろから聞こえた冷めた声に反応すると、モンスターは敵意を収める。

 そして全員が声の方へと振り向く。


 振り向いた先にあるのはまた新しい馬車。

 しかしその光景は歪なものだった。馬車を引いてるのはデイホースのようだが、テリアのデイホースよりさらに大きく、目は全部で三つあり、額にはツノが生えている、そしてその馬車を守るように馬車の左右に見た事のないモンスターがついていた。

 

 馬車の右にいるのは、大きな四足歩行の体に三つの首がついたモンスター。

 三つ首と言えば、ケルベロスやレアードといったモンスターがいるが、今いるモンスターは三つとも別々のモンスターの首がついている。

 

 そして左側には上半身がオーガの体を持ち、下半身は像の様な足を持っている

 どのモンスターもエレナの持っている図鑑でも見た事ないモンスターばかりであった。


「知らない……知らないわ、あんなモンスター。」


 いつもは初めて見るモンスターに眼を輝かせるエレナが歪なあ姿のモンスターに恐怖に怯えている。

 そしてその馬車に乗っている者の姿を見ると、エレナは目を見開き、体をガタガタと震えさせ始めた。


 乗っていたのはブルーノ家長男、レクサス・ブルーノだ。


 トラウマが蘇ったのか、エレナが震えだしたのに気づくと、ピエトロがエーテルにエレナと馬車の中へ避難する様に指示した。


 馬車が止まると漆黒のマントと家紋の入った剣を腰につけたレクサスがゆっくりと降りてくる。

 モンスターに囲まれた馬車から降りてくる姿は、まるで魔王を彷彿させた。


「すまない、少し寄り道をしていてな少し遅くなった。」


 レクサスが表情一つ変えず、何の悪びれもない謝罪するが皆、レクサスの姿に気圧されてか、誰も口を開こうとする者はいない。


「このモンスターは?」


 その中で、唯一平然としているネロが尋ねる。

 場に一瞬緊張が走るが、レクサスは、少し小さく笑うとモンスター達を自慢げに語り始める。


「どうだ?凄いだろう?研究と改良を重ね続けて、出来た現時点での最高傑作のモンスター達だ。レベルはまだ低いが、ステータス、スキル共に伝説級の能力値だ。白龍ごときなら簡単に潰してしまうぞ。」


 レクサスがそう言うと、言葉に反応するかのように、モンスターが咆哮を上げると、全員が自然と武器に手を付ける。そしてそんな周囲の反応にレクサスは満足そうな笑みを浮かべる。


「だが、安心しろ、こいつ等には洗脳と調教を徹底的に繰り返し絶対服従するようにしてある。俺の命令以外は何も反応しないさ。」


そう言うが誰も、警戒を解こうとしない。

自分以外の命令に従わないと言うことは逆を言えばこの男の命令一つでの三体のモンスターが牙を剥くかもしれない。レクサスの性格なら気まぐれで襲わせることだって十分にありえる。そう考えると全員は益々警戒を強めていた。


「ところで、馬車の中にいるのは人達は兄さんの趣味かな?それにしては随分と、酷い格好をしているけど」


 ピエトロが馬車の方を見て、問いかける。

馬車の中には首輪で繋がれた裸体の女性が三人座り込んでいる。全員、生気を感じられず、生きるのを諦めたような死んだ目をしている、そしてその三人は全員お腹が膨らんでいた。


「ああ、アレか?、ちょうど行き際にサンプルを見つけたのでな、拾ってきた。遅くなったのもそれが原因だ。」


まるで、物でも拾ったかのような言い草に、ピエトロが一瞬怒りの表情を見せるがすぐにしまう。


「へえ……この数日であれだけ狩ったのにまだ足りないんだ?」

「サンプルはいくらあっても足りんからな、多いに越したことはない。それにこんな茶番に付き合わされるんだ、こんなことでもしてないとやってられらいしな。」


そう言うとレクサスは急に不機嫌になり、愚痴をこぼし始める。


「俺は元々跡継ぎが決まってたんだぞ?なのに、何故出来の悪い弟共と跡取り争いなどしなければならんのだ、負けることはあり得ないが、この戦いに勝っても何の特にもならない、不公平だとは思わんか?」

「……何が言いたいんですか?」


ピエトロが真意に気づき尋ねるとレクサスも、その言葉を待っていたかのようにニヤリと笑う。


「察しがいいな、どうだ?どうせなら、この勝負、お前らの護衛もかけてみないか?俺が勝ったら、お前達の護衛を俺の実験に付き合ってもらいたい。」


その言葉で再び殺伐とした空気が流れる。

実験に付き合う……

それはつまり、自分達を実験台にしたいと言っている様なものだ。


「ああ、いいぜ!」


 初めに承諾したのはテリアだった。


「ちょ。ちょっと何勝手に決めてるんですか⁉︎」


勝手に承諾したテリアに流石にリグレッドも、文句を言う。


「うるせぇ、お前らは俺に雇われてるんだからどうしようが俺の自由なんだよ!嫌なら勝てばいいんだよ!」

「こいつ……」


 リグレットが怒りに体を震わせる。

この場で今すぐぶん殴りたいところだが、それでは仲間達にも、裏切ったピエトロにも申し訳が立たない。

リグレッドは怒りの矛先を拳に変え、流血するほどまで拳を握りしめ、その場の怒りを収めた。


 先程までリグレットに嫌悪感を抱いていたネロも今ではリグレッドに同情していた。


「ピエトロは、どうだ?」

「僕だけでは判断できませんね。彼らは物ではないので」


テリアに当てつけのようにそう返答する。

レクサスは、今度はネロの方に目を向ける。


「俺は構わねえぜ、勝負に負ける気もないし、その実験とやらをぜひ見てみたい気もあるからな」


 ネロの反応が意外だったのか、 レクサスはネロのその強気な返答に関心の声を上げる。


「ほう……なかなかいい度胸をしているな小僧、俺はそう言うこわいもの知らずな奴が絶望する姿を見るのが堪らなく好きなんだ。」

「奇遇だな、俺もだ、何でもかんでも自分の思い通りになると思ってるやつの考えをぶち壊してして絶望する顔を見るのは大好きだ。」


ネロがレクサスの目を真っ直ぐ見て言い返すとレクサスはクククと笑い出す。


「どうやらこの一件、退屈しなくてすみそうだな」


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