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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
第二章 ネロエルドラゴ編

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ピエトロ・ブルーノ

「はぁ……」


目の前にブルーノ家の別邸である巨大な屋敷の門が見えると、リグレットはため息を吐いた。

受けた依頼を断ると言うのはとてもじゃないがいい気はしない。


ましてや、国の大貴族が三ヶ月も前からわざわざ要請していた依頼を断りに行くのだ。申し訳ないと言う思いと今後の仕事に悪影響が出ないかと心配になる。


 依頼主はブルーノ公爵家の三男ピエトロ。

 悪名高いブルーノ家の良心と言われている少年だ。


リグレットはピエトロとは会ったことがあるのは一度だけ、直接依頼を要請された時だ。

その時の印象としては優しい雰囲気に包まれた爽やかな、美少年だった。


 貴族とは思えない振る舞いと、女性に見えるほどの美形は年下にも関わらず魅了されてしまうほどであった。


 しかしそれとは別にリグレットはもう一つ、関心を示すものがあった。

 それは彼の頭のキレの良さだ。


様々な町で集めた情報を照らし合わせ、自分達の居場所を見つけ出したのもそうだが、彼の持つ知識と頭の回転は人並みではない。

 相手の情報から行動や考えを予測し、その千手先を見据えて行動する。


現に自分が依頼を出された時、リグレットは先の先まで手を打たれ、断る理由を完全に持っていなかった。

 まるで頭の中を読みとられているように思え、それはすごいと言う言葉を通り越し、恐怖すら覚えるほどだった。


 優しいピエトロも敵に回せば厄介になる、そう考えていたリグレットは、今から依頼を断りに行くのに少々不安を覚えていた。



――

 屋敷の門の前まで来ると、その奥にある屋敷の扉の前に一つの人影が見える。

 いたのはこの家のメイドで、まるで誰かを待っているようにポツンと立っている。


「まさか私を待ってるとか?いや、まさかね」


 今日自分が訪れることはつい先ほど決めた事だ、ピエトロにはもちろん他の者にも言ってはいない。

 なのに今日、この日にメイドを待機させているなんてあり得ない。リグレットはそう言い聞かせながらメイドに近づいた。


「え~と、アドラー帝国のギルド所属ダイヤモンドダストのリーダー、リグレットです、ピエトロ様にお会いしたいのですが。」

「ようこそ、リグレット様、お待ちしておりました(・・・・・・・・・・)、お話は伺っています、さあ、どうぞ中へお入りください。」


 そう言うとメイドは扉を開け、リグレットを早速中へ招き入れる、リグレットはメイドの言葉に歪めそうになる表情を精一杯の苦笑いで誤魔化した。



――


 メイドに連れられ館に入ると、前に訪れた自室ではなく資料室へと案内される。


「では、私はこれで……」


 メイドが一礼してその場を去るとリグレットは胸に手を当て、一度深呼吸する。


 優しいと言っても大貴族、少しでも無礼な態度を取れば首が飛ぶかもしれない、もしかしたら断ることでパーティーに何かされるかもしれない。

 どれだけ強いと言っても所詮貴族と平民、権力と言うベクトルの違う力には手も足も出ないのだ。


 そう考えるとリグレットは少し緊張気味になりながら部屋をノックする。

 失礼のないように大きすぎず小さすぎない程度の力でコンコンと扉を叩く。


 すると部屋の中から扉越しで聞き取りにくくなった『どうぞ』と言う声をかろうじて聞き取ると、リグレットはゆっくりと部屋の扉を開けた。


 扉を開けて真っ先に目に映ったのは山積みになった本で作られた壁であった。

そして、その壁の向こう側から声が聞こえた。


「リグレットかい?よく来たね。」


 温厚な声で優しく話しかけて来る声変わりをしていない少年の声、しかし表情など姿は本の壁で隠れ見えないので実際はどんな状態かがわからない。


「……この本、全部読んでるんですか?」

「うん、ここにある書物はどれも貴重なものばかりだからね、見れるうち(・・・・・)に把握しておきたくて。」


 自分の家であるはずのこの屋敷でのその言い回しに少し疑問に感じるも、自分の用件を思い出すと、その考えはすぐしまった。


「ところで何か用かな?依頼の話ならあと一ヶ月近くあるけど?あとそちらの方が年上だし敬語もいらないよ。」

「え⁉いや、その……」


 いきなり要件に入られ少しリグレットは慌て始める。


「一応、依頼の詳細なら前に資料を渡しておいたのだけど何かわからないことでもあった?」

「い、いえそんなことは!」


 そんなものは全くない。

 依頼された時にピエトロに渡された依頼の資料には日付、報酬、内容は勿論のこと依頼場所の地図から出てくる全モンスターのレベルと習性、住処までが事細かく書かれており、欲しい情報は完璧に揃えられてあった。


「じゃあ、どうしたんだい?」


 メイドを待機させていたことから彼は自分がここにくることを知っていた、そうなると、勿論、内容にも気づいているだろう


 だが、その事を自分に言わせようとする事をリグレットは勝手ながら、意地悪だと思い、心なしか、ピエトロの声が悪戯っぽく聞こえた。


「あはは……その、実はですね……」


 やはり後ろめたいことなので、自然と敬語が不意に出てしまう。

 そして、その後の言葉がなかなか繋がらず、沈黙が続く。

 その間ピエトロはずっと言葉を待つように口を閉ざす。

 そして……


「本当に申し訳ないのですが、依頼を断らせていただきたいのです!」


 勢いよく、早口で謝罪すると、本の壁に向かってリグレットは深く頭を下げた。

 すると、一瞬本の壁の向こうからフフッと笑ったような声が聞こえた気がした。


「どうして?報酬金額はそれなりに出したし三ヶ月も前から依頼してるよね?何かこちらの不備があったかな?」

「どうしてって……その……えっと……」


 果たして理由をはっきりと言っていいものなのだろうか?

 相手は仮にもピエトロの兄であるテリアだ。そんな人に脅されていますとはっきり言っていいものなのだろうか?

 それに脅されてるとはいえ、報酬もピエトロより多額をもらう予定なので、こっちが本命にも見られないだろうか?

 いろんな考えが頭で錯誤する中、ピエトロが追い打ちをかける。


「この依頼はね、僕が後継になれるかが掛かっている大事な依頼なんだ。だからこそ、絶対に失敗できないし、三ヶ月も前から着々と準備をして、一番信頼(・・・・)できるギルド所属のパーティーの君達に頼んだんだ。それなのにいったいどうして突然そんなことを言い出すんだい?」


 わざとなのか、本音なのかはわからないがピエトロの言葉はリグレットの胸を締め付けてくるような言葉ばかりだった。

 完全に言い出すタイミングを失い、言葉を切り出せずにいると、そこでピエトロからクスリと笑う声が聞こえた。


「なんてね、わかってるよ、どうせテリア兄さんの仕業でしょ?」

「……はい」


 やっぱり知っていた、その事に文句を言いたくなるが完全にこちらが悪いので何も言えない。

 事の詳細を改めて伝えると、再びフフッと笑う声が聞こえた。


「やっぱりダメだったか。まあ、ここまでが計算通りだったんだけどね。」

「え?」

「三男で妾の子供である僕がどうやったら後継になれるか、一年前からそれを計算してどうにか後継争いまで持って来たんだけど、ここだけはどうにもできなくてね、予測が外れることを期待してたんだけど、まさかここまで上手くいっちゃうとはね。」


 自慢なのか自虐なのかわからないが、まるで、楽しんでいるかのような声で、ピエトロが話す。


「これ以上ブルーノ家の所業を止めるには僕自身が、跡を継ぐしかない、そう思ってたんだけどね。」


 そして今度は少し真面目でな口調でそう呟いた。


「仕方ない、僕は別のパーティーに依頼するとするから君達は是非兄さんを守ってあげて。」


明るい口調ででそう返すピエトロ、本の壁で表情はわからないものの、心なしかリグレットにはピエトロが心配させまいと明るく振る舞っているようにも思えた。

 ホワイトキャニオンは第一級危険区域に認定されている場所。その場所で護衛できるパーティーなどそう簡単に見つかるわけがない。

他のSランクパーティーに頼もうにもそれなりに準備が必要だろうしAランクのパーティーなら百人雇ってなんとかなるかもしれないがはっきり言って確実に犠牲者は出るだろうし、何よりそんな場所への護衛を引き受けようとするもの好きなんてそういないだろう。


 話が終わろうとしたところで、リグレッドが息を飲んで切り出す。


「あ、あの!そ、それなら紹介したい人達がいるんですけど。」

「……グリフォンの討伐をした人達かい?」

「あ、はい……。」


 なぜ分かったのか?そんな考えさえも読み取ったのか、何か言う前にピエトロは説明する。


「君の性格を考えたらグリフォンを放ったらかしにして帰って来るわけないと思ってね。きっと誰かに頼んだんじゃないかと、でもギルドからの報告ではグリフォンを討伐したのは全滅したパーティーの生き残りの男一人、そんな相手に君が頼むわけないし、となるとこれはあくまでギルド内での話で、実際討伐したのはギルドに所属していない誰かで、それなりの実力を持っている人だと思ってね、出なきゃ君が危険な任務を託すわけないもんね。」

「……完璧ですね」


リグレッドの顔が自然と引きつる。


「で?その人達は強いのかい?はっきり言って依頼の目的地、ホワイトキャニオンは第一級危険区域、生息しているモンスターはレベルが最低でも八十を超えるモンスターばかりだよ?グリフォンのキメラなんかとは格が違うよ?」

「実力の方はよくわからないんですけど、レベルチェッカーがゼロを表示したんです。」


 本当は八つ当たりでネロが地面を荒らしまくっているところ見て決めたのだが、そこはあえて伝えなかった。


「へぇ、レベルチェッカーがゼロ?レベルチェッカーの原理からして壊れてもゼロなんて出る事はないはず。もし出るとしたら人間の想定基準のレベルの千を超えた時くらいかな、それが君がその人たちに任せた理由かい?」


 リグレットはその返答に答えない。今更隠してもバレている気がしているが、一応言わなかった。


「わかった、その人達に掛け合ってみるよ、ありがとう。」

「い、いえ、私の方こそ急に断ったりしてすみません、それでその相手の名前なんですが……」

「いや、言わなくていい、その人を紹介したって事はこちらに向かってるんでしょ?なら自分で探してみるよ、こうやって僅かなヒントから探し物を探すのは楽しいからね。」


 壁越しからでも笑っているのがわかるほど先程より楽しそうな声で答えるピエトロ。

 この状況すらも楽しむピエトロにリグレットは、もしかして自分がこう言いだす事も計算していたのじゃないかと思った。

 


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