合同授業
シュウゼルが学校に入学してから二週間が経過した。
学校での授業は主に実技と勉学に分かれており、勉学では魔法についての雑学や理論学の他、普通の学校でも習う一般授業や薬草、素材の扱いなど、冒険者として必要な知識の授業も行なわれ、実技の方では魔法の実践は勿論、近接戦闘用のための簡単な肉体鍛錬や、ダガーを使った戦闘方法も教えていた。
初めこそ浮いた存在だった停学部屋の四人だったが、実践の授業などで徐々に注目を集めていくと、クラスに馴染み始めた。
そして、一通りの授業が終わり、学校にもある程度慣れたところで、今週からは初めての他クラスとの合同授業が始まろうとしていた。
「では今日から四つのクラスで行う合同実技授業が始まります、今回は試験明けに行われる予定のタッグ戦も踏まえて、各科のメンバーと二人一組でチームを組んでの実践を行っていこうと思います。基本パーティーを組む際は最低四人、そして前衛と後衛で組むのが基本的ですが、中には前衛やパーティー仲間が離脱、もしくは戦闘不能に陥り、後衛二人で戦うこともあるかもしれません、この授業ではそう言った状況を想定した戦闘方法を学んでいきましょう。では、まず両クラスの成績の上位、中位、下位の十名ずつに別れて三グループに分かれてください。」
教師の最年長であるブラットの指揮に従い、四つのクラスの生徒は一位から十位、十一位から二十位、二十一位から三十位で集まりグループを作り、クラス最下位のシュウゼルは二十位から三十位のグループに入る。
「皆さん分かれましたね?では早速始める前に……せっかくなので各クラスの首席の方達に実演してもらいましょうか。首席の四人、前へ」
ブラットがそう言うと、上位のグループからそれぞれのクラスの制服を着た四人の男女が前に出る。
一人目は魔法科主席でありこの国の王子でもあるトーマスで。その隣に並んだのは弓科首席の男子だ。
身長が高く、前に出た四人の生徒の中でも一際目立っている。顔の方は少し特徴的な細い眼をしており、年齢よりも年上に見える。
そしてその男子の隣には、回復術師科の制服を着た緑の髪色をした少女が並んだ。
テルが話していた通り、胸の発育がいいのか十二歳にしてはかなり大きく、顔も非常に愛らしい顔をしているので彼女をみた、一部の男子生徒達が少しざわついた。
だが、シュウゼルは皆が注目する胸や顔ではなく彼女の髪色を気にしていた。
彼女の髪は緑色、それを見たシュウゼルは一瞬昔住んでいた村にいたセイラを思い出した。
何処となく顔に面影もある気もするが、雰囲気は全くの別人でオドオドしていたセイラに対し目の前の彼女はかなり強気な性格をしているのか、今も自分を見つめる男子達を睨みつけている。
――緑色の髪なんて特に珍しくもないしな。
この学校で見かけたのは彼女だけだが、クラシアで生活してた時には緑色の髪の人間はよく見かけていた。
ただ同年代の子供で緑の髪色は久々だったので恐らくそれで思い出したのであろう。
そして、最後に出てきたのは戦士科の首席……
――……フローラだ。
水色の髪の女子は、かつて一緒に過ごしていた少女の面影を残しながらも凛々しく、そして美しく成長していた。かつての明るく元気な姿は鳴りを潜め、騎士の家系らしく落ち着ついており服装や髪に乱れは一切ない。フローラはこの出会ってなかった二年間で立派な貴族令嬢になっていた。
「では、これからトーマス君を軸にこの四人で二人一組になり、交代しながら実践してもらいます。まずは弓科のクルーズ君から。」
「よろしく。」
「……ああ。」
トーマスが気さくに話しかけると、クルーズは小さく頷いて返事をする。
「弓使いと魔術師の長所と言えば、やはり遠距離からの攻撃になります、なのでいかに相手と距離を取って戦うかがカギとなります。」
ブラットはそう言うと、ポケットから札を取りだし火をつける、するとそこには五体のホログラムの様な狼の形をした光が現れる。
「これは私の友人のスキルで作ってもらった、式神と言う使役獣で、実力は森で見かけるウルフ程度です、この二週間で習った事を思い出し二人で撃退してみてください。」
「わかりました。」
トーマスが返事をしクルーズは無言で小さく頷いて反応する。
「よし、ではまず僕が魔法を唱えるから君は近づかせないように援護を――」
トーマスが魔法を発動させながらクルーズに指示を出そうとする、しかし……
「……終わりました。」
クルーズが恐るべき速さで五本の矢を同時に射ると、矢は見事に狼たちに全て命中し、魔法が発動する前に式神は消えてしまった。
トーマスが呆然とする中、クルーズは淡々と元の位置に戻る。
それを見て何故か、回復術師の女子が鼻を鳴らす。
「……優秀すぎるのも困りますね、本当なら、魔法で相手の動きを止めて弓で射るか弓で相手を威嚇し、その間に魔法を唱えるなど二人の能力に応じた連携を取ってほしかったのですが……」
ブラットが深いため息を吐いた後、切り替えると次の相手を呼ぶ。
「では回復術師科、首席のハロルドさん。」
「はい。」
ハロルドがトーマスの隣に立つ、理由は分からないが何故か不機嫌そうである。
「魔術師と回復術師のタッグはどちらも魔法の使用になりますので非常に難しい組み合わせになりますが、まずは二人で頑張ってみてください。」
「よし、では僕が詠唱するので、ハロルド君はシールドを……」
「いらないわ、さっき見てたけどあなた魔法遅いんだもの。」
「え?」
そう言うとハロルドは杖を前に出し、無詠唱で魔法陣を発動させる。
「ホーリーレイン!」
ハロルドの前に光の球体が現れると頭上まで浮き上がり、そこから発せられるレーザーがウルフの式神を襲いあっという間に五体を消滅させた。
「どうしてこれで私の方が順位が下なのかしら?」
最後に皮肉を言い残しハロルドは元の位置に戻る。
「……話には聞いていましたがこちらも規格外ですね、ですがそれ以上に協調性のなさが伺えます。これではタッグの意味がありません。」
ブラットが今度は眉間にしわを寄せながら額を抑えている。
――しかし、この二人、王子相手でも忖度ねえな。
一応順位ではトーマスは学年二位なのだが、二人はトーマスよりも圧倒的な実力を見せつけている。
本人も初めに見せていた自信に満ちた表情が鳴りを潜めている。
「では、次、戦士科主席、ロンダブルさん。」
「はい。」
フローラが元気よく返事してトーマスの隣に並ぶ。
「よろしくお願いします、殿下。」
「ああ、宜しく。」
他二人とは違って友好的に話しかけてきたフローラに、トーマスの表情に少し笑みが戻る。
「前衛と後衛、この組み合わせは言わずもがな、戦士が前に出て魔法使いがサポートする形になりますね。では始めてください」
フローラは剣を握るとトーマスを守るように前に立ち、相手の出方を窺う。そしてその間にトーマスが魔法を唱える。
五体のウルフが二人にめがけて突進してくると、フローラは剣で受け止めて弾き返すと、素早く四体を斬りつけ消滅させる、そしてそれに合わせてトーマスがファイヤーボールを唱え最後のウルフに放つと見事に命中した。
「はい、素晴らしい連携でした。」
ブラットが褒めるとそれに続いて二人に拍手が送られる。
「流石だなフランソア嬢」
「殿下も素晴らしい魔法でした。」
トーマスが聞きなれない名前でフローラを呼び、お互いを讃え合う。
「やはりお似合いだな。」
「ああ、あの息の合い方を見てもやはりタッグ戦もあの二人で固いだろうな。」
「まさに王と騎士だわ、素敵ね……」
称賛の声があちこちから聞こえてくる中、ハロルドがつまらなさそうな顔をしながらグループの中に戻っていった。
フローラもトーマスと共にグループの中に戻るが、その際にこちらに気が付いたのかふと目が合うと、フローラは一瞬頰を緩ませるも、すぐに引き締めて凛々しい表情で戻って行った。
――とりあえず元気そうで良かった。
立場的に会う事は難しいかもしれないが、こういう機会があればいずれは話す機会も出てくるだろう。
そして、最後にクルーズも戻っていくとその際に何故か彼とも目が合った気がした。




