初実技
休み時間を挟み、次の授業が始まると、今度は実技のため、生徒たちは鍛錬場へと移動する。
鍛錬場はクラスに一つずつ作られており、それぞれの入学試験を行っていた場所でもある。
シュウゼルは戦士科を受けていたので行ったことはないが、クラスによって張られている結界が違うだけでどのクラスも同じ作りとなっている。
広さはクラスの生徒全員入っても、十分な余裕はあるが、安全面を考慮して授業以外で使用する際は二十名までに制限されている。
授業以外では放課後と昼休みを曜日ごとに学年で分けて解放されているが、使用人数はその都度二十名までと決められており、優先順位は成績順となっている。
シュウゼルはブラットの手伝いに駆り出されると、職員室から彼女が用意していた生徒三十名のノートを鍛錬場まで運んだあと、授業で使う複数の案山子の的を準備した。
「では、今から実技の授業に入っていきます。これから皆さんには初級の炎魔法を使って、ここからあの的を狙って撃ってもらいます。」
そう言って、ブラットが手に持つ杖で地面に引かれた線を示す。
「使用するのは炎の魔法だけですか?」
「いいえ、使うのは初級の炎の魔法のみです、先ほども申し上げた通り、魔法は様々な属性や種類があり数も豊富です。状況に合わせて使用する魔法を選ぶことになりますが、時にはパーティーを組み、リーダーの指示された魔法を使う事もあるでしょう。その時に指示に的確にこたえなければなりません。炎魔法をを指示されて風魔法を使う、なんて事にならないように指示は細かくさせてもらいます。」
「でもみんな同じ魔法を使っていたら、優秀さのアピールとかはできないのでは?」
「そんなことはありません。初級の炎と言っても複数ありますし、的に当てる技術や詠唱時間なども人によって違いますからそう言った技術を評価されます、もし自由に魔法を使いたいのであれば、放課後にこの場所で自主練に励んでください、勿論、使用できる日にちや優先順位はあるので全員ができるわけではありませんが、ただもう少ししたら休日に教師の引率の元、野外活動も行う事も出来ますからその時に練習もできます。あ、それと言っておきますが、成績順位は月に一度行われる試験でのみ変動しますのでそこをお間違えなく。」
「は?つ、月一⁉」
その言葉にシュウゼルが思わず声を上げる。
「ええ、一週間や二週間じゃ目に見えてますからね、それに簡単にコロコロと順位を変えられても教師が対応できませんから。」
――じゃあ、一ヶ月間ははこの扱いかよ。
溜息吐くシュウゼルをよそにブラッドは授業を進めて行く。
「それでは、一位の人から順番に五人ずつ横一列に並んで狙ってください。当てた人、もしくは時間内に当てられなかった人は交代してください。」
ブラットが合図をすると、初めの上位5人が的に向かって魔法を放つ。
まず初めに当てたのは、一位のトーマスだった。
「流石王子、詠唱も早くて一発だ。」
その他三人も負けじと続けて当て、五位のバダックもファイヤーボールを五発目でなんとか当てた。
「流石、上位の皆さんは優秀ですね。では次の五名……」
そして次々と進んでいくが、順位が下がっていくにつれ、時間内に当てられない者や、魔力切れでリタイヤする者たちも現れる。
それから暫くして、シュウゼルとテルを含めた、最後の五人の番になる。
――ふん、モンスターだって何匹も倒してんだ的を当てるなんて余裕余裕……
自信気満々で的の前に立つシュウゼルだったが、ここであることに気づく。
――……あれ?俺って初級の炎の魔法って使えたっけ?
シュウゼルは自分のステータスを確認する、そこには暗黒魔法を含めて数十もの魔法の名前が並んでいるが、初級の魔法はウォーターレーザーのみである。
と言うのも、シュウゼルは元々剣士であり、中級以上も使えるのでわざわざ初級の魔法を覚える必要がなかったので魔法を覚えていないのである。
「すみません、僕、炎魔法を覚えていません。」
「そうですか、では次までには使えるようになっていてください。」
横にいたテルが先に告げると、周囲の生徒からはちょっとした嘲笑の様な声が聞こえてくる。
――やばい、ここで俺も使えななんて言ったら、最下位だからさらにバカにされる。
シュウゼルは、何とかできそうな魔法はないか探してみる。
――そうだ、中級魔法のファイヤーアローを最小限の魔力で撃てばそれっぽく見えるかもしれない。
「では、初め!」
開始の合図が聞こえると他の三人が魔法を唱え始めるのでシュウゼルも無言でファイヤーアローを唱えた。
「な⁉」
「え?」
シュウゼルの唱えたファイヤーアローはファイアーボールよりも少し小さいがそれっぽく見えた、だが、その速度は名前通り弓で射た矢に近く、的を綺麗に射貫いていた。
「なんだ今の?本当にファイヤーボールか?」
「それにしては小さかったような……」
「最下位ならあれくらいでは?」
「でもスピードも早かったような」
「と言うより今あいつ詠唱してたか?」
周囲がざわつくなか、ブラットがこちらに近づいてくる。
「シュウゼル・クラウス君」
「は、はい!」
「今の魔法は中級魔法のファイヤーアローですね?」
「えーと、はい」
シュウゼルは観念して認めると視線を下に逸らす。
「どうして、初級を使わなかったのですか?」
「初級なんて使いどころがないと思って、覚えていません。」
理由を告げると、ブラットは一瞬目を丸くした後、大きなため息を吐いた。
「……次までに覚えてくるように」
「……はい。」
それだけ言うと、再び授業を再開し残りの生徒の魔法を見守った。
初授業でやらかしたと落ち込むシュウゼルだったが、中級魔法を無詠唱で唱えたシュウゼルの存在はクラス全員に知れ渡る形となっていた。




