初授業
「おい、あれって……」
「ああ、あいつらが例の謹慎部屋の……」
寮部屋メンバーの四人で教室に入ると、賑わっていた教室が少し静まり、他の生徒がシュウゼル達に注目する。
「なんか、すげぇ見られてんな。」
「当たり前だろ、入学早々騒ぎ起こしてりゃ嫌でも目立つさ。」
特に寮が別で、顔合わせをまだしていない貴族たちは四人をかなり警戒しており、近づこうとしない。
「殿下、ああいう奴らには近付かないように……。」
「ああ……。」
貴族数人が王子とみられる、金髪の男子を守るように囲い込む。
――別に危害なんて加えねえんだけどな……なにもしなければ
四人は周囲の声を無視してそれぞれの席に着く、席の場所は名簿の順のようでシュウゼルの席は丁度真ん中付近となっている。
そして始業の鐘がなると、雑談していた生徒達もそそくさと自分の席へ戻り、それに合わせるかのように担任であるミスリー・ブラットが教室に入ってきた。
ブラットは教壇に立つと教室内を見渡し、全員が着席したのを確認したところで口を開く。
「皆さんおはようございます。今日|は全員揃っていますね、ではこれから本格的に魔法科としての授業を始めていきたいと思います。皆さんにはこのクラスで最大六年に渡り、魔術師として様々なことを学んでいってもらいます。ではまず初めに、魔術師とは一体どういった者なのか……わかりますか?メロウ・アリステさん」
初めという事もあって出席番号一番の女子生徒が当てられる。
「えーと……魔法を使う人の事?」
「残念ながらそれだけでは不合格ですね。では次、トーマス・ガーナード君」
「はい、魔法を専門的に扱う事を生業としている人の事です。」
次に呼ばれたのは、この魔法科の主席にしてこの国の王子である、トーマス・ガーナードで呼ばれたガーナードは主席らしい堂々とした態度で回答する。
「そうですね、魔法自体は剣士でも武闘家でも使用する人たちはいますが、その殆どが相手を近くに誘導し距離を詰めたり隙を作ることを目的として用いており、魔法を主体で戦う人はいません。魔術師は魔法を主体に戦闘を行ういわば魔法を使うエキスパートの人の事を言います。では次に、魔法のランクについて説明します、魔法は威力や効果によって全部の4つのランクに分けられています……シュウゼル・クラウス君、お答えできますか?」
シュウゼルの名前が呼ばれると王子であるガーナード以上に注目が集まる、しかしシュウゼルは臆することなく淡々と答えた。
「初級、中級、上級、超級です。」
「そうですね、中でも超級の使い手は世界中探してもそうはいないでしょう。ならば上級や超級を使える魔術師が一流なのか?と言われればそうではありません、魔法は剣技や体術などと違い、属性、回復、攻撃、補助などのたくさんの種類に分けられ、その数は数百を超えています。一流と呼ばれる魔術師はそんな魔法を相手や状況に合わせて的確に使える方たちの事を言います。そしてこの先冒険者になる方がいればパーティーを組むことにもなるでしょう、そうなれば他のメンバーとの連携も求められていきます、そういった状況に合わせてどれだけ魔法うまく使いこなせるかも一流となるカギとなります、来月には他クラスの生徒とチームを組むタッグ戦も始まりますので、皆さんは卒業までに自分に見合った魔法を身につけ、中級を使いこなせるように頑張りましょう。ではまず基本である初級魔術の概要から――」
魔法の授業の概要についての話が終わると、そのまま授業は魔法の歴史や基本と言った話に進んでいった。
初日という事もあり内容は非常に簡単なものばかりだった。そして、授業が終わる鐘が鳴ると教室は休み時間に入り、生徒たちはこの3日間で出来上がったグループに分かれ始める、シュウゼルは自然と寮部屋のメンバーと合流するが、周囲から聞こえてくる話は、どこも同じでタッグ戦の話となっていた。
「どこもタッグ戦の話ばかりだな。そんなに楽しみなのか?」
「そうだね、魔術師は基本複数人で動くことが多いからね、タッグやパーティーを組むのは魔術師を目指す僕たちにとって実力の見せ所なんだよ。」
「ふーん。」
既に戦闘経験のあるシュウゼルとは違い、ここに通う生徒たちの殆どは本格的な戦闘経験のない者たちばかりという事もあってか、タッグ戦における熱意に関してシュウゼルは少し温度差を感じる。
「ところでそのメンバーはどうやって決まるんだ?」
「昔は成績から教師が選んでいたみたいだけど、今は個人で声をかけて組む人を選ぶみたいだよ。」
「でもそれだと主席とか実力者同士が組んだりしたら戦力に偏りが出るんじゃないのか?」
「いや、そうでもないよ。人によって得意な武器も魔法も違うから相性の問題とかもあるし、案外予想外の人同士が組んだり意外な能力を持つ人が人気になることもあるかもしれないしね。今は成績だけだけど、これからの実技で属性や得意な魔法や戦闘スタイルとかの情報も開示されていくから、そこで相性のいいひとを探せるかもこのタッグ戦の醍醐味だね」
「へー、なるほどな。」
「やっぱ、俺は回復術師主席のハロルドと組みたいよな。」
「ああ、俺もさっきすれ違ったけど、やっぱかわいかったしな。あれで回復術師の主席ってのはでかいぜ。」
「相性じゃなくて下心じゃねーか。」
先ほどのテルの話とは違う理由の選定に説明していたテルも苦笑する。だが周囲の声を聴く限りやはりハロルドと言う女子生徒は人気のようだ、確かに平民で実力もあっておまけに顔もいいとなれば人気も出るだろう。だが、その場合両方魔法使いとなるので相性が悪いのではと思う。
「殿下はやっぱり。ロンダブル家のご令嬢と組むんですか?」
すると、近くからフローラの話が聞こえてきてシュウゼルは耳を傾ける。
話しているのはガーナードとその取り巻きたちだ。
「魔法科と剣士の主席で、おまけに彼女は殿下の婚約者候補でもありますからね。」
「それは僕だけじゃ決められないよ、彼女は色々と競争率が高いからね、ただ、僕もこの2年間彼女の隣に立てるように努力してきたつもりだ。組むことができるなら是非そうしたいものだ。」
――フローラとタッグか……
それに関してはシュウゼルも考えるが、すぐにやめる。
そんなことができないのは前世で貴族として生きて来たシュウゼル自身が一番よくわかっている。
この学校が身分を問わない実力主義とはいえ、公爵家と平民が関わるのは両者にとって良いことではない。
特にフローラは勇者の生まれ変わりと言われるくらい知名度が高い。
他の者たちもそれをわかっているから、剣士科の主席のフローラではなくハロルドの方が人気なのだろう。
――とりあえず適当な奴と組んで、対戦相手として顔合わせするのがベストか――
フローラと魔法科主席のガーナードが組むとなれば、成績は自然と上位になるはずで接触を図るならシュウゼルも上位を目指さなければならない。
だからといってなんの情報もない今の状態では組む相手なんて決められない。
――ま、なるようになれだな。とりあえず暫くは目立たないように過ごす――
「あ、そうそう、一つ言い忘れていましたが、最下位のクラウス君は明日から毎日朝と放課後、教室の掃除を行うこと、あと次の授業で使う備品を運ぶのを手伝ってもらうのですぐに職員室まで取りに来るように。」
教室の扉をいきなり開けたと思ったらそれだけ言い残し、ブラットはすぐに去っていった。
――予定変更、とりあえず最下位は抜け出すか……




