入学試験①
「金、よし、剣、よし。」
「シュウゼル、受験票ははちゃんと持ったか?」
「大丈……ばない。」
シュウゼルは机に置いてあった騎士団学校の受験票を手にすると、再度一から確認を始める。
「金、よし、剣、よし、受験票、よし、準備よし!」
「なんだか不安だな、やっぱり王都まで父さんもついて行こうか?」
「いらん、そんな暇があるならさっさと仕事に行って入学費稼いでくれ、金がなくて退学なんて嫌だからな。」
「へいへい、これから試験なのにもう受かった気でいやがるな。」
「受からない理由が見当たらない。」
「そうかい。」
「じゃあ、行ってきます。」
「ああ、気をつけてな。」
シュウゼルは、アシュレンに見送られながら、王都へと旅立っていった。
「……しかし、子供の成長と言うものは早いな……」
シュウゼルの背中が見えなくなるまで見送った後、一人家の前で立つアシュレンが空を見上げながら呟いた。
「こんな感情を持てたのもお前のおかげだ、ありがとう、クレア。お前と会っていなかったら今頃俺は……」
アシュレンが儚げな表情で腕のない方の肩を撫でる。
「愛の力……か、やっぱり俺には似合わない言葉だな。」
――
シュウゼル・クラウスとして生まれて十二年が過ぎた。
この人生で運命の日とも呼べる十五歳の誕生日まであと三年と迫ってきたが、シュウゼルは既にどうでも良くなっていた。
全てが変わったあの日、シュウゼルは後悔の日々を送っていた。
フローラがシュウゼルを庇ったことで、オーマ族であることをバレずに済んだが、その代償としてフローラの実力が兵士から領主へ、領主から国へと知れ渡り、その実力を確かめようと国がフローラを王都へと呼び寄せた。
そこで調べられたフローラは、ずっと隠してきた特殊スキル『女神の騎士』を持っていることが発覚してしまった。そのスキルはただのスキルでなく、勇者が持っていたスキルと同じで、フローラはそれをきっかけに、騎士の家系であるロンダブル公爵家の養子に迎えられることになった。
何も知らない街の者や子供たちは大いに喜んだり、羨ましがったりしたが、シュウゼルを含めフローラをよく知る者はその話に言葉を失った。
フローラが戦いを望んでない事、将来は実家のパン屋を手伝いたいと言っていたことを知っていたからだ。
フローラの両親は、あの子が今よりいい生活ができるからこれで良かったなんて笑って見せたが、その不自然すぎる笑顔がより悲壮感を漂わせていた。
――全ては俺が弱かったせいだ。
自分が弱かったせいでフローラが犠牲になったと、シュウゼルは自分の弱さをひたすら嘆き、その日を境に狂ったように鍛錬を始めた。
だがそれからしばらくたったある日、とある貴族から騎士団学校への二年後の日付が書かれた入学受験票が送られてきた。シュウゼルはそれが貴族の養子となったフローラからのものだとすぐにわかった。
当然二年前の受験票なんて、効力はなくなるので使えない。
だからこれはきっと二年後にここに入学するからお前も来いというフローラからのメッセージと受け取ったシュウゼルは、その日から八つ当たりの様に行っていた鍛錬から、騎士団学校への学校入学のための本格的な鍛錬に変えた。
騎士団学校のクラスは弓科、魔法科、回復術師科、戦士科の四つのクラスがあり、魔法に長けたシュウゼルなら魔法科に入るべきだろうが、剣を扱うフローラが入るクラスは恐らく戦士科になるだろうと、自分も剣に絞って鍛錬して来た。
前々世で覚えた剣術は使えないが、改めて覚えた剣術は使えることができる。シュウゼルは入学までの二年で学校で習った基本剣術に合わせ獣拳、そして父アシュレンの指導の元、五大剣術の一つである魔法剣をいくつか身に着けていた。
そしてシュウゼルは、今から一週間後に始まる騎士団学校への入学試験へ向かうため、王都へと旅立った。
――
グラシアの街から一週間、シュウゼルは王都、オルダに到着した。
初めて来る王都は最早別世界で、十分大きいと感じていたクラシアの町よりも何倍も大きく、そして何倍も人が多かった。
平民であるシュウゼルは専用の馬車を持っていないので、本来なら王都までは徒歩や、運航用の馬車などを乗り継ぎで向かう事になるが、今回は偶々王都からやってきていた商人に一緒に乗せてもらう事になり、特に問題なく王都まで着くことができた。
ただ帰りは乗り継ぎで帰ることになる。
シュウゼルは乗せてくれた商人に別れを告げると早速、試験場へと向かった。
王都の町は大きいため、町内を移動するための馬車が動いており、その馬車の行き先の中に騎士団学校まで、と言うものがあった。
そして、馬車に乗り試験会場に着くと、そこでは既に受験者で賑わっていた。
試験は遠いところから来るものやトラブルなどによる遅延を考慮して、期間は今日から一週間までとされている。
ただ試験を受けられるのは一度きりで、不安なものは最終日まで、実力を見直してから挑むものもいる。
剣術に自信のあるシュウゼルはそんな事はせず、早速を受付をへと足を進めた。
「クラシアから来たシュウゼル・クラウスです。」
「戦士科受験だな、じゃあ東にある鍛錬場に向かってくれ。」
受付にそう指示されるとシュウゼルは東の鍛錬場に向かう。
――フローラは……今日はいないか。
一度軽く辺りを見回してフローラらしき人物を探すが、見当たらない、と言うより貴族の受験生自体があまりいなかった。
受験は既には始まっているようで、現在鍛錬場では試験官と思われる男と受験生が模擬戦をやっていた。
初日に挑んでくるだけあって受験生の実力は高く、あらかたの剣技を見せたところで試験官が終了を告げる。
「よし、試験番号4236番、アーバン・イブ。合格だ。」
「はい、ありがとうございます。」
試験官もその場で合格を言い渡すと受験者は大声で礼を言う。
すると、それに続くかの様に後ろから大声の抗議の声が聞こえてきた。




