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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
 

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214/232

一番

 ――……使えた


 勝負が決まるとシュウゼルは木剣を腰に納め、気弾が飛び出した自分の右手に視線を向ける。

 そのまま足元も見れば地面には気弾が通った跡があり、自分が土龍拳を放った場所まで続いている。


 ――使えた……使えたんだ!


 その地面を見てシュウゼルは実感した。

 前世と同じように……というわけではないが使うことができた。前世と比べて威力は劣り、相手を怯ませる程度の威力しかないが、それでも今は十分な収穫と言えるだろう。


 ただなぜ使えたのかはわかっていない、獣拳は前世で覚えた技であり、同じく前々世で覚えた剣術は使うとまるで体が拒絶しているかのように体調が悪くなっていた。

 獣拳では今のところそのような現象は起きていなかった。


 ――これが今の俺の現在地……


 まだわからない事もあるが、とりあえず獣拳が使える事が分かっただけでも収穫と言えるだろう。シュウゼルは拳をグッと強く握った。


「クソっまさか本当に五人されるとは……」


 剣を弾かれたラルクが落ちている自分の木剣を見ながら小さくため息を吐いた後、こちらに目を向ける。


「俺たちの負けだ、約束通りこの場所はお前に譲るよ。」


 ――……そういえばそういう約束だったな。


 素直に負けを認めたラルクの言葉でシュウゼルはこの戦いの発端を思い出す、始まりはどうであれ理由を忘れるほど夢中になっていたことを自覚するとシュウゼルは戦いが終わったことに少しうつむき加減になる。


「……」

「お前、いつまでこの街にいるんだ?」

「え?」

「次、またリベンジするからよ。このままやられっぱなしじゃ終われねえからな。」


 そう言ってラルクが小さく笑い、他の三人も頷く。

 だがいつまでと聞かれてもそんなものはわからない、シュウゼルは顎を触りながら少し考える。


「……死ぬまで?」

「は?」


 その回答にラルクが思わず聞き返す。

 するとその直後、遠くから少女の声が聞こえてきた。


「こらぁ!あなたたち、なにやってるの!」


 声の方を振り向けば遠くから小さな子供が怒る女子を連れてやってくる、子供の方は初めに戦った少年で連れてきた女子の方も見覚えがある。


「フ、フローラ⁉」

「よその子、相手になにやって……あれ、君は?」

「お前は確か、パン屋の……」


 少年が連れてきたのは以前訪れた、パン屋の少女だった。

 向こうもシュウゼルに気が付くと、先ほどまでの怒っていた表情から笑顔にパッとした変わる。


「なんだ、コリンズが皆が他所者と喧嘩してるなんて言ってたから慌ててきたけど君だったんだね。」

「そういうお前はなんでここに?」

「僕は喧嘩の仲裁に呼ばれてきただけだよ?」

 ――だからなぜ仲裁で呼ばれるんだ。


 喧嘩の仲裁で何故パン屋のフローラが呼ばれた理由がわからず、シュウゼルが眉をしかめる。


「な、なんだ?二人とも知り合いか?」


 状況が読み込めていないラルクが二人を見ながらフローラに尋ねる。


「うん、こちら最近町に引っ越してきたクラウスさんとこのシュウゼル君。」

「は?お前、旅で町に寄ったんじゃなかったのか?」

「誰もそんなこと一言も言ってないだろ?」


 シュウゼルが呆れたように言うと五人が顔を見合わせる。


「なんだよ、それを早く言えよ。見かけない顔だったからてっきり町に滞在中の旅商人の息子かなんかに俺たちの鍛錬所を奪われたと思ったじゃねえか。」


 そう言うと、ラルクは近づいてくると手を出してくる。


「この町の住民なら大歓迎だ。改めてだが、俺はラルクだ。十一歳で来年には王都の騎士団学校に入学予定だから一年だけの付き合いになるけど宜しくな。」

「シュウゼル、九歳だ、……宜しく。」


 シュウゼルは二度目の自己紹介に少し恥ずかしそうにしながら、ラルクと握手を交わす。


「ぼく……じゃなくて俺はコリンズ、六歳、よろしくなシュウゼル兄ちゃん。」

「私はセピア、あなたとフローラと同じ九歳だから、学校でも同じクラスになれるといいわね。」

「俺はステイル、十歳だ。」

「ディクソンだ、ラルクと同じ十一歳だが、ずっとこの街にいるつもりだからよろしくな。」


 戦った順番に改めて他の四人と挨拶を交わす、それを見届けたフローラがうんうんと頷いた。


「それじゃあ、みんな集まってるしせっかくだからこのまま僕の家で歓迎会でもしようか。」


 フローラの提案に同意すると皆で通りの方へ移動し始める。


「ちょっと待ったー⁉」


 すると、突如コリンズが待ったをかける。


「どうした、コリンズ?」

「まだフローラ姉ちゃんが残ってる。」

「え?」

「このまま、やられっぱなしじゃ嫌だから姉ちゃん敵をとってよ。」


 コリンズの言葉にフローラが顔をしかめる。


「なんで、僕が戦わなきゃならないんのさ。」

「だって姉ちゃんが()()強いし……」

「僕は別に冒険者や騎士を目指してる訳じゃないんだから、あんたたちと違って戦う理由はないでしょう?」


 そう言いながら、断るフローラだったが今のコリンズの言葉にシュウゼルは反応した。


 ――……フローラがこの中で一番強い?


「それにシュウゼル君だって、疲れてるでしょうし――」

「俺はいいぜ。」

「え?」


 せっかく獣拳が使えるとわかったのだから、他の技も試してみたい、そう考えると疲労も感じなくなってきた。それにこの中で一番強いという事はラルクよりも強いということになる。

 シュウゼルはそんなフローラの実力にも興味を持ち始める。

 シュウゼルが承諾したことで、他の四人もフローラに期待の眼を向けると、フローラも「しょうがないなあ」と渋々引き受ける。


「戦いはあまり好きじゃないんだけどなあ。」


 フローラはブツブツと不満そうに言いながらもラルクから木剣を借りると、片手で中段に構える。

 シュウゼルも同じように剣を構えると、剣と相性のよさそうな獣拳を考える。


 ――とりあえず向こうの動きを見てからだな、まずはいろいろ試してみよう。

「始め!」


 ラルクの声が響くとシュウゼルは向こうの出方を窺おうと剣を強く握りフローラに意識を向ける。

 しかしそれと同時に自分の持つ剣が強い衝撃に襲われると、その衝撃に耐えられなかったシュウゼルは剣を上空に放り投げそのまま地面に尻もちを着いた。


「……は?」


 何が起こったのかわからず呆然としていると、剣を収めたフローラが近づいて手を差し出してくる。


「ごめんね。剣だけを弾くつもりだったけど、勢いが付きすぎたみたい」


 どうやらフローラに剣を弾かれたようだったが、いつ攻撃したのかも見えていなかった。

 上級剣術の中に剣の振りを見せずに攻撃するハヤブサという剣術があったが、あれは剣を鞘に納めた状態で使うので違う。つまり単純に実力によりフローラの動きを目で追えていなかったという事になる。


 ――何者なんだ?こいつ。


 シュウゼルは差し出しだされた手を取ると同時に密かにサーチをかける。

 するとフローラのステータスはフローラ・グリューネという名前以外のことは全て測定不能と書かれて読み取ることはできなかった。


 ――まさか、コリンズが言ってた一番って……この中で一番じゃなくてこの町で一番ってことかよ⁉

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