表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

211/232

町の探索

 次の日の朝、シュウゼルが目が覚めると新しい家にアシュレンの姿はなかった。

 小さな部屋の真ん中には前の家で使用していた手作りの食卓が置かれており、その上にはバケットに入ったパンと一緒に小さな袋と手紙が置かれていた。

 シュウゼルは寝起きで朧げな視界のままバケットの中のパンを咥えると、手紙の内容を確認する。


『シュウゼルへ、急ですまないが父さんは早速仕事の関係で町を出ることになった、明日には帰って来れると思うが、それまでは大人しく待っていてくれ。追伸、家の外に出るのは構わないが眼帯は忘れないように。』


 シュウゼルは一緒に置かれていた袋を開けると、中には一日分の食費とみられる五百ギルが入っていた。


 ――さて、どうするか。


 今までの一日は私塾や森などで時間を潰したものだが、新しい町ではまだ学校の手続きは終わっていなく、森に行こうにも子供一人で町の外に出ることは難しい。


 ――せっかくだし、町を探索するか。


 特にやることのないシュウゼルは、パンを食べ終えると町へ繰り出すことにした。

 そして……


「……人が多い。」


 シュウゼルは賑わう町の通りで立ち止まる。

 シュウゼルの住む東地区から出て初めに行きつくのは、行商の露店が並び町で一番の賑わいを見せる通称商業通りだ。

 と言ってもクラシアの町は決して大きい町ではなく、賑わいも他の町と比べたら小さいものだった。

 それでも以前住んでいた村の人口分くらいはこの通りに集まっている、

ずっと村から出たことのなかったシュウゼルは前世で身に付けた人混みへの耐性は完全になくなっており、ここを通るのに躊躇いを見せる。


 帰りたい気持ちが一気に強くなったが、帰ったところですることもなく、この先町で生きていくなら嫌でも通らなければならないのでシュウゼルは顔を強張らせながらも通りを歩いていく。

 眼帯を付けているせいか時折刺さる周囲の視線に不快さを感じたが、気にしない振りをしてそのまま通りを抜けていった。


 商業通りを抜けると次は町の中央にあたる中央地区につく。

 地区の中心にある大きな広場が特徴でクラシアの町はここを中心に、北、東、南、西と地区が分かれている。

 シュウゼルはそれぞれの地区の入り口に建てられた案内図を見て町の地図を確認する。

 北地区にはギルドや武器屋、南地区には宿屋、西と東には食関係の店と住宅街、といった風にそれぞれの用途に合わせた作りとなっている。


 ――どこか面白そうな……ところは特にないな。


 本当なら町の外に出てみたいが子供一人じゃ出してもらえないだろう、特に行きたい場所のないシュウゼルはとりあえず店の場所を覚えるために東地区から時計回りで他の地区を探索していく事にした。


 お金もないのですることと言えば各地区の店を覗く程度だったが、前世ぶりにみる店は新鮮に感じ、一通り見回り中央地区に戻ってくる頃には既に夕刻になっていた。


 ――ふう、とりあえず場所は一通り覚えれたかな。


 中央地区に戻ってくると広場のベンチで一息つく。


 特に何かを買ったというわけではないが、収穫としてあったのは西地区で空き地を見つけた事だろう。

 中央地区にある広場とは違い、人目につかない場所にあり一人で過ごすには最適な場所でだった。あそこならば剣の素振りなど体を動かすのにもちょうどいい。

 後はギルドや武器屋を見るのも面白かった、今のシュウゼルにはどちらも必要のない店だったが、やはり戦闘関連に関しては見るだけでも十分楽しめた。


 ――さて、じゃあ夕飯と明日の朝飯でも買って帰るかな。


 資金は少なく贅沢はできないので、シュウゼルはあらかじめ見つけていた中央地区にあるパン屋へと足を運ぶ。


「いらっしゃいませー」


 店に入ると元気のいい少女の声が店内に響く、店内には他に客はおらずカウンターには自分と同じくらいの少女が一人で店番をしていた。


「君、見ない顔だね?」


 店員の少女はシュウゼルを見ると、カウンターから出てきて声をかけてくる。

 髪は青色のロングヘアーで、瞳はその髪に合わせたかのような綺麗な水色をしている。カウンター越しではわからなかったが、身長はシュウゼルより少し高く、眼帯をしているシュウゼルの顔を物珍しそうに覗き込む。


「あ、もしかして昨日引っ越してきたクラウスさんって君の家の事?」

「ん、ああ、まあな。」


 グイグイと近付いて来る少女にシュウゼルは反射的に顔をそむける。


「あ、ごめんね。少し馴れ馴れしかったよね、僕はフローラ・グリューネ、見ての通りしがいないパン屋の看板娘だよ。君は?」

「……シュウゼル・クラウスだ。」

「歳はいくつ?」

「きゅ、九歳だけど?」

「へえ、じゃあ僕と一緒だね。」


 フローラと名乗った少女は年齢を聞いてニコリと微笑む。


「学校では同じクラスになりそうだね、折角だからお近づきの印にこれ、あげるよ。」


 そう言うとフローラは店のパンを一つ手を取り、渡してくる。


「僕が焼いたパンだよ、気にいったならまた買ってね。あとオススメは――」


 フローラはその後も商品の説明をしながら次々とパンを勧めてくる、シュウゼルはそのままフローラに任せていると店を出るころにはバケットの中には明らかに支払った金額より多くの大量のパンが入っていた。


「正直、関わりたくないな。」


 僕口調ながら可愛く面倒見のよさそうな少女だったが、ああいうグイグイとくる女は嫌いだなあと、シュウゼルは改めて認識しつつ、おまけでもらったパンを頬張る。


「……クソ、美味いなあこれ。」


 そして、帰宅後に食べたフローラお勧めのパンも全部美味しく、シュウゼルはそれもまた悔しく感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ