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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
 

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新しい町/天使と女神

「見ろ、シュウゼル。あれがこれから住む町、クラシアだ。」


 村を出てから三日目の朝、アシュレンの声に荷車で寝転がるシュウゼルがゆっくりと体を起こす。

 転生してから初めて見る村以外の人里、だが見えてきた町は魔物対策の防壁で囲われていて外から中は見ることはできない。


「なんも見えない。」

「……ハハハ、そりゃそうか。」


 息子の不満げな言葉にアシュレンは苦笑する。

 ただわかることは、今まで住んでいた村がどれだけ無防備な田舎だったかという事だけだ。


「あ、シュウゼル、起こしてすぐですまないが、寝たふりをしてくれないか?」

「え?」

「とりあえず、目を瞑ってくれればそれでいいから。」


 街の門が近づくとアシュレンがふと思い出したように告げた言葉に、シュウゼルは訳も分からないままとりあえず言われた通り寝たふりをする。

 仰向けになり眼を瞑ると視界が遮られたことにより、馬車の進む音とそれに合わせて揺れる体に意識が集中する。

 そして、それはすぐに止まる。


「この町に新しく住むことになったクラウスと言う者だ。」

「ああ、話は来ている、念のため荷物を確認しても?」

「ああ。」


 馬車が止まるとアシュレンと門番の兵士の会話が聞こえ、兵士が荷車の荷物を確認し始める、シュウゼルはそのまま眠ったふりをする。


「おや、息子さんかな?ちょっとごめんよ。」


 近くからゴソゴソと何かを漁るような音がした後、すぐに離れていく。


「……ふむ、特に問題ないようだ。ようこそクラシアの町へ。」


 その言葉と共に馬車が再び動き出す。


「……よし、もういいぞ。」


 馬車が動き出してから少し時間が空いた後にアシュレンが告げると、シュウゼルは再び起き上がる。

するとそこは既に門をくぐっており目の前には綺麗な街並みが広がっていた。


「ここが俺たちの新しい町だ。」


 改めて言われたアシュレンの言葉にシュウゼルは周囲を見渡す。

 町にある建物は殆どが白い石で作られており、地面にはレンガが敷き詰められ綺麗に整備されている。

 少し遠くには綺麗な噴水のある公園が見えそのあたりで子供たちが集まっており、それだけで村との違いを感じた。


「そして、あそこがが俺たちの新しい家。」


 アシュレンが前を指しながら自慢げに家を紹介する、しかしそれを見たシュウゼルは顔をしかめる。

 新しい家と紹介された場所は、この綺麗に並ぶ他の家と比べ、隅っこのほうにポツンと小さく建っていた。


「……小さいな。」

「ハハハ、まあ、タダで譲ってもらった家だからな。贅沢は言えないさ、それに町は村よりも遥かに住みやすいはずだ。」


 家に到着すると、アシュレンはあらかじめもらっていた家の鍵を使い扉を開ける。


「ボロい、狭い。」


 中に入ると同時にシュウゼルの不満を零す。

 一応ベッドが二つ用意されているが、それ以外は何も置いていなく壁には少しヒビもある。

 前の家から持ってきたものを持ち運べば更に小さくなり、家というよりは宿屋の一屋に近かった。


 ――しかし、なんだろう?凄く懐かしい感じがする。


 家の中は前よりも狭くなって、不満なはずなのに何故かそこに懐かしさを感じた、しかしその理由は思い出せない。


「よし、こんなもんか。そうだ、お前にこれを渡しておかないとな。」


 荷物を全て運び終え一息つくと、アシュレンが腰の袋から黒い眼帯を取り出すとシュウゼルに渡す。


「これは?」

「わかっていると思うが、お前はオーマ族という種族の血が流れている特別な人間だ、それを象徴するその右眼は村では恐れられる程度だったから黙認していたが、ここではそうはいかない。見つかればその力を利用しようと国の魔術師たちがやってくるかもしれない、だからこれで隠しておくんだ。」


 アシュレンが真剣な顔で言うと、シュウゼルは言われたとおり眼帯を付ける。

 眼帯はシュウゼルの右眼を綺麗に隠したが、若干隙間があるようで完全に見えなくなるわけではないようだった。


「……よし。じゃあ、これから父さんは少し出かけてくる。遅くはならないと思うがお前はゆっくりしているといい。」


 眼帯を付けたのを確認した後、アシュレンは外へと出ていった。

 シュウゼルは特にやることがないのでベットに寝転がった。


 ――ここが新しい家かあ……


 見上げた天井は真っ白で、面白みはない。だがいろいろ考えるにはちょうど良かった。


 ――生まれて早九年、碌な思い出もないまま今日まで過ごしてきたけど、ここでもそうなるんだろうか?


 振り返って思い浮かぶのはごく最近の出来事ばかり。今まで大した思い出がなかったのか、それだけ最近の思い出が濃いのか?恐らく両方だろう。


 ――……セイラは無事だろうか?


 あの村人達のことだ、自分がいなくなった後、代わりに今度はまたセイラをのけ者の大将にするかもしれない。

 ただ、最後のカイたちの言葉は今でも頭に残っており、それを思い出すと自然と安心してくる。


 ――ここから後六年、記憶に残るような出来事は起こるだろうか……ま、どうでもいいか、どうせ死ぬんだから。


 考えることをやめるとシュウゼルはゆっくりと目を閉じ、そのまま眠りへとついていった。


 ――


 シュウゼルのいるアムタリアとは違う次元に存在する真っ白な空間、そこは転生の間と呼ばれ、アムタリアを管理する天使たちが死んだ魂を転生させる場所となっている。

 普段はそこには似たような姿をした天使たちしかいないがその日は珍しく変わった姿の女性がやってきていた。


 色鮮やかな桃色の髪に白いドレスを身に纏う美しき四枚の羽根を背中に持つ女性。およそ二百年ぶりに姿を見せた女性は険しい表情を見せながら真っ白な空間を一直線に歩いていく。

 その姿を目にした天使たちは次々と頭を下げる、そして目の前に目的の天使を見つけると、女性は足を止める。

 その天使も女性に気が付くと、嘲笑のような笑みを浮かべて頭を下げた。


「おやおや?こんなところに女神さまがお越しになるとは珍しいですね。」

「あなたですね。異世界から魂をアムタリアに転生させたのは?」

「はて?何のことでしょう」

「とぼけたって無駄です、調べはとっくについています。」


 女神の言葉に天使は何の悪びれもなくあっさりと認めた。


「ふふ、ええそうですよ。なんだかあの世界じゃ生きずらそうにしてらっしゃたので。それより見てください、この情報。」


 そう言って天使は女神の前にステータスバーを表示させる。


「これ、あの方のこれまでのステータスなんですが不思議なんです。一度目も二度目も、一番高いステータスが何故か魔力なんですよ。」

「……」

「私は魔力に関しては一切不幸ポイントを振り当てていなかったのですが、不思議ですね?彼の人生を振り返ってみても魔力だけが高かった様子はなかった、そうなると死ぬ直前に魔力が急激に上がったとしか思えないんですよ。」

「……」

「そういえばとある噂を聞いたことがあるんです。なんでも昔、女神さまがご執着なさっていた一人の人間がいたとか……」

「もう結構です、どうやらあなたは天使と呼ぶにはふさわしくないようですね。」


 天使の言葉を遮った女神は、冷静な口調とは裏腹に表情は怒りで満ち溢れていた。


「フフフ、自覚はありますよお?」


 そしてそんな女神をみて、天使はただ笑みを浮かべていた。


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