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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
 

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207/232

 次の日になると、アシュレンは村長に頼まれた盗賊の調査と見回りのため、外へ出かけることが多くなった。

 あの足で長距離を歩くのは大変だというのに何故そこまでする必要があるのかとシュウゼルは不満に思いつつも、一人になる時間を利用し家の中庭で魔法の鍛錬に集中していた。

 暗黒魔法は強力ではあるが魔力の消耗は激しい、まだ子供でレベルも低いシュウゼルにとっては使える魔法は限られている。

 そのため、あらかじめどの程度使えるのかを知っておく必要があった。

 シュウゼルは普段通りの日常を過ごしつつ、アシュレンのいない時間を魔法の鍛錬に費やしていた。


 ――数日後


「すっげえ、カイ君そんなこともできるのかよ。」


 一日の授業が終わった私塾の教室では、子供たちが今日もにぎやかに騒いでいる。

 シュウゼルは、教師に呼び出されたセイラを待つ間、教室の後ろの机に座り窓から空を見上げていた。

 最近は季節が冬場を迎え、日が傾くのが速くなっている。

 アシュレンは未だに盗賊に足がかりがつかめておらず、冷え込み始めるこの季節も毎日村の外へ調査と見回りをしている。

 シュウゼルもたまに村の外に出て賊がいないか確認しているがそれらしき者は見つかっていない。

 あくまで賊の情報も、噂で程度で本当に賊だったのかもわからない。

 初めは潰してやると活きこんでいたが、日にちが経つにつれ村長の取り越し苦労ではないかと考え始めていた。


「おい、ちび。」


 横から声に振り向くと、気が付けばシュウゼルの周りを子供たちが囲み、その中心にはこの教室で一番背の高い赤毛の少年がニヤニヤと笑っていた。

 この子供の名前はカイ、確かその名は愛称で本名はもっと長かったはずだが、シュウゼルはその先の名前は知らない。


 シュウゼルと同じ年の子供で二年前、セイラにちょっかいをだしていた時の中心人物でもある。

 あの一件以降は暫く大人しくしていたが、最近身長が急激に伸び、どうやら何らかのスキルを習得したことで、今度は的をシュウゼルに絞りちょっかいを出し始めるようになっていた。


「なんだ?雑魚。また前みたいに泣かされに来たのか?」

「な、それは一年も前の話だろう⁉」

「あれそうだったか?この前も顔に水をぶっかけたら水をと一緒に涙も拭いてるように見えたが?」

「う、五月蠅い!あれはお前の水魔法を拭いただけだ!それよりお前んとこの親父が最近村の外に出入りしてるって村中で噂になってるぜ?一体何企んでるんだよ?」

「……村長には聞かなかったのか?」

「?別になんも聞いてねえよ。」

 ――本当に役にたたねえ奴。


 わざわざ村のために動いているのになぜ事情の一つも説明していないのか。

 シュウゼルは大きなため息を吐くと目の色は呆れを表す茶色に代わる。


「村のためにいろいろと頑張ってくれてるんだよ。」

「嘘つけ、お前たち親子は悪魔の親子だから動くと碌なことにならない母ちゃんが言ってたぞ。」

「そうそう、お前らはふこう?をもたらすわざわいの親子ってうちの父ちゃんも言ってた」


 ――ほら見ろ、これだ。本当に村のために動いても、評判が下がるだけだ。


 もしここで本当のことを言ったところで誰も信じないし、なんなら嘘つき呼ばわりで余計言われるんだろうと考えると、無条件で村のために動くアシュレンに苛立ちが募る。


 ――それにしても不幸をもたらすものか、あながち間違っていないか。まあ正しくは自分に不幸をもたらすだが。

「そんなに気になるなら直接聞いてみたらどうだ?親父なら教えてくれるかもな。」

「そんなことしたら、母ちゃんに怒られる。」

「ああ、お前ら親子には近付くなってよくうちの父ちゃんや母ちゃんが言ってるからな。」


 その言葉に他の子供たちも同意する。

 流石は小さな村の結束力と、シュウゼルは呆れを通り越して感心する。


「でも俺にはよく近づいているじゃねえか。」

「あ、それは……」

「シュウちゃんお待たせ。」


 セイラが教室に戻ってくると同時に、シュウゼルは答えを聞かずに教室の出口に向かって歩き出す。


「まあ、お前らはそうやっていつまでも母ちゃん父ちゃんって騒いでいろよ。セイラ、帰るぞ。」

「え?あ、待ってよ、シュウちゃん!」


 外に出ていくシュウゼルと慌てて後についていくセイラの二人を子供たちはそのまま呆然と見送っていた。


「それで、何の呼び出しだったんだ?」

「あ、うん。その、実は……」


 言いにくいことなのか普段から声の小さいセイラの声がさらに小さくなる。

 その時点でシュウゼルは大方予想を付けていた。


「俺関連か?」


 その言葉にセイラは無言頷く。


「先生がシュウちゃんに余り関わるなって。」


 セイラの家族は一年ほど前に正式に再婚し、それをきっかけにセイラに対する村のあたりは和らいでいる。

 そして最近は子供も生まれたという話で、それをきっかけに村ではセイラ親子を正式に村の仲間に迎えようという方針に代わったらしい。


「へえ、良かったじゃねえか。」

「うん、でもそれじゃあまたシュウちゃんが一人になっちゃうし。」

「俺は別にかまわねーよ。シュウちゃんて呼ばれなくもなるしな。」

「だからね、シュウちゃんたちも受け入れられるように、私頑張ってみる。」

「ふーん、まあ俺はどっちでもいいけどな、あとシュウちゃんて呼ぶなよ。」


 何を頑張るかわからないがやる気を出しているセイラを流しつつ、いつものやり取りをしながらシュウゼルは家路を歩いて行った。


「ただいま。」


 家に着き、いつものように挨拶をするがここ最近は言葉が返ってくることはない。


 ――今日もいないか。日が経つにつれ戻ってくる時間も遅くなっている、これなら今日は帰ってこないかもな。


 これなら遅くから鍛錬してもバレないだろう、そう思いシュウゼルは眠りにつく……


 ――ドンドンドン!ドンドンドン!


 ――…………なんだか騒がしいな、


 家の扉が激しく叩かれる音にシュウゼルは目を覚ます。

 時間は分からないが、部屋はもう真っ暗になっており外も当然暗くなっている、こんな時間にここら辺を人が来ることは滅多にない。

 とりあえず対応のため外に出ると、扉を開けると同時に自分の首元に刃物が突きつけられる。


「……なるほど、そういうことか。」


 外にはアシュレンが調査していたとみられる盗賊らしき者達が家を取り囲んでいた。


「外じゃなく森の中に潜んでいたのか。」

「へえ、この状況で随分と落ち着いてるな、なかなか肝の据わったガキじゃねーか。」

「顔だちも悪くねえ、利口なガキは高く売れるからな。痛い目にあいたくなけりゃ大人しくついてこい。」


 シュウゼルは手を上げながら、大人しく賊たちの後ろに従いついていく。


「あんたたちはここにいるので全員なのか?」

「あ?んなわけねーだろ、ここにいるのはほんの一部だ。他の奴らは、ほれ、あそこだよ。」


 賊が指し示す方向を見ると、村のある方角が明るく光っている。

 そしてそれがすぐに家が燃えているのだと気づく。


「きっと今頃は村の子供たちも捕まえているところだからすぐに友達とも再会できるぜ。」


 賊たちはそう言って汚らしい笑い声をあげる。

 ……が、それはすぐに悲鳴へと変わる


「ぎゃああああ!なんだこれ、いきなり火が!」

「早く消せ!」

「なんだこれ、全然消えないぞ!」


 仲間の体に突如発火した黒い炎を賊たちが慌てて消そうとするが試みるがその炎を消すどころか、触れることすらできていない。

 しかし炎は触れることはできないのに何故か他の賊へと飛び火する。


 賊が慌てふためく様子をシュウゼルは紅く染まった眼で見守る。


『シャドーフレイム』


 シュウゼルの使える()()の暗黒魔法である。

 名前の通り影できた実体のない炎で、普通は触れることすらできない。だが消す方法は実に簡単で炎に光を照らし影を作れば炎は実体化し消すことができる。

 しかし、今あたりは暗闇に覆われ光は賊たちが持つ松明のみ。

 この特性を知らない賊たちは炎を松明で照らすなどとは考えもしない、ただ息絶えるまで、いや、息絶えた後も影ができるまで燃え続けることになる。


 炎は燃え広がり賊たち全員に行き渡ると、炎を消すためシュウゼルを放置しあちこちへ散らばっていった。


 ――さて、あいつらを助けるのは癪だが、セイラがいる以上放置はできないしな。


 シュウゼルはそのまま燃え盛る村へと駆け出していく。

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