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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
 

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盗賊

 

 転生してから九年の月日が経ち、シュウゼルは今年で九歳となった。

 十五歳になるまであと六年、少しずつ不幸の日が近づき始めている。

 前世、前々世では既に抗うための努力をし始めていた歳であったが、現在シュウゼルは実に平凡な日々を送っていた。


 あの日を境にシュウゼルの隣にはいつでもどこでもセイラがいるようになった。

 お互い余所者同士ということで村の者にあまりよく思われていないこともあって、周りに親しい人はおらず自然と二人になることが多くなっていた。

 そして時が経つにつれ、成長を見せる子供の中には体格が大きくなり身長の低いシュウゼルに物怖じしない子供も現れ、頻繁にぶつかっていた。


 その結果、シュウゼルの日常はただ不幸の日を待ちながら過ごす日々から、友人と遊び、同級生と喧嘩をして過ごす平凡な日々へと変わっていた。

 そんな毎日はシュウゼルの頭の中に常にあったに運命の日というものを少しずつ忘れさせていた。


 あれだけ嫌っていた平凡が今は凄く心地いい、こんな日々がずっと続けばいい。

 シュウゼルは無自覚にそう思い始めていた。


 ――


「――それでね、この前お母さんに習ってヒールが使えるようになったの。」

「へえ、それは良かったな。」


 私塾からの帰り道、いつものようにシュウゼルはセイラの話に適当に相槌を打ちながら歩く。

 気弱なセイラの声はそばにいないと聞こえないほど小さいが、この何もない村の二人きりの帰り道では

 わざわざ聞き耳も立てることなく自然と耳に入ってくる。


「うん、最近シュウちゃんよく怪我してるから、これで怪我してもすぐに治してあげられると思って。」

「シュウちゃんって呼ぶな、別に怪我なんてしてねえだろ?」

「でも、この前カイ君との喧嘩で――」

「あ、あれはちょっと油断していただけで……そ、それよりお前の家はそっちだろ!」

「あ、もうここまで着いちゃった。じゃあシュウちゃん、荷物置いたらまた森でね。」

「ああ、あとシュウちゃんって呼ぶな。」


 決まり文句のようなやり取りで別れると、走って行くセイラを見送りシュウゼルも少し足を早めて自宅に向かった。


「ただいま!」

「おう、お帰り」


 家の扉を開けると同時に父親と帰宅の挨拶を交わすが、家の中にアシュレンとともにいる人物を眼にするとシュウゼルの眼の色が不快を表す紫へと変わる。


「やあ、シュウゼル君お帰り。」

「……」

「こらシュウゼル、村長さんに挨拶しなさい。」


 注意するアシュレンの言葉を無視してシュウゼルは自分用の短剣や本など森で使うものを道具袋に詰め始める。


「全くお前は……すみません、ロ―レックさん。」

「いやいや私は嫌われても仕方ありませんよ、本来なら君たちと村の者の仲をとり持たせる立場にあるのに、なんのお役に立てていませんから。」


 ――わかっているならどうにかしろよ、木偶の坊。


「それより、例の調査について、よろしくお願いします。」

「わかりました。」


 そういうとローレックはシュウゼルに軽く頭を下げそそくさと家を後にした。


「……何を頼まれたんだよ」

「最近村の近くで盗賊らしき集団を見かけたの情報が入ってな、俺に調査の依頼が来たんだ。」

「……そんなの冒険者にでも依頼すればいいだろ?」

「この村は人里離れた場所にあるから近くの町に行くにも時間がかかる、それに街に向かう途中に出くわす可能性だってあるしな。」

「だからって親父に頼むのはおかしいだろ!」

「まあ、この村で戦闘経験があるのは俺だけだからな。」

「でもそれは怪我する前の事だろ?」


 今のアシュレンには手も足も片方ずつ不足している、とてもまともに戦えるとは思えない。


「安心しろ、父さんは片手片足失っても十分強い、賊如きに遅れはとらないさ、だからお前も調査が終わるまで外に出歩かないようにするんだ。」

「でも……いや、わかった。」


 シュウゼルはいろいろと反論したい気持ちもあったが、その場ではぐっと飲みこみ、森で会う約束したセイラを話を口実に森へと向かった。

 そして……


「賊を潰そうと思う。」

「え?」


 森でセイラと落ち合い事情を話した後そう告げた。


「俺の親父知ってるだろ?あんな手足じゃろくに戦えねえよ、だから俺がやる。」

「え、でもそれじゃあシュウちゃんが危険じゃ――」

「大丈夫だ、俺にはこれがある。」


 そういうとシュウゼルは指を一本立てると、指先から小さな炎を出す。

 ただその炎の色は赤ではなく、漆黒と呼べるほどの黒い色をした炎だった。


「暗黒魔法……」

「ああ、これがあれば賊なんか余裕でやれる。」


 この二年間の間、やることがなかったシュウゼルが森の中で暇つぶしで使っていたオーマ族だけが使える暗黒魔法。

 本格的な鍛錬などはしていないが、体が成長するにつれ自然と使える魔法は増えていき、現在では通常の初級の魔法の他に四つの暗黒魔法が使えるようになっていた。


「でもそれって、確か――」

「ああ、これをまともに食らえば()()に死ぬ。」


 だからこそ、村の子供との喧嘩でも使えずにいた。

 しかし賊になら使っても問題ないと判断する。


「じゃあ、シュウちゃん人を殺すの?」

「向こうだって殺してるんだし殺される覚悟くらいあるだろ。それに、もしここで活躍すれば村の奴らもとやかく言ってこないかもしれないだろ?」

「じゃ、じゃあ私も」

「私塾の奴らに泣かされるお前に何ができんだよ。」

「うっ……」


 自分は前世の記憶があるので問題ないが、セイラはまだ九歳の子供だ。才能はあるようだが戦闘するのはまだ早い。


「とりあえず、近々親父が様子を見に行くらしいからその後俺も動く。この事は誰にも言うなよ。」

「……わかった、じゃあ私はシュウちゃんが怪我しても大丈夫なように回復魔法の練習をしておくね。」


 話がまとまるとその日は解散となった、シュウゼルはセイラを送った後、一人で魔法の練習をしてから家へと戻った。


 ――見てろよ、これで散々言ってきた村の奴らを見返してやる。


 シュウゼルは密かにそんな思いを胸に秘め、魔法の練習に励んでいた。


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