最後の転生
「……」
ネロがゆっくりと目を開けると、そこには真っ白な空間が広がっていた。
眠った時にいた場所とは正反対の光景に一瞬戸惑いもしたが、流石に三度目となると魂が覚えていたのか、すぐに状況を把握する。
「そうか、俺……死んだのか。」
目を瞑れば、死ぬ前の状況がよみがえる。
早く死にたいと思えるほどの空腹と孤独から来る絶望に襲われていたが、それでも生きたいと思えるほどの仲間たちとの再会を願い無意識に運命に抵抗していた。
……しかし、その思いは叶わず、ネロは今、ここにいる。
「うーん、流石に今回は死んだ自覚があるようですね。」
そんな残念そうな声とともにお馴染みとなった金髪の白い羽を生やした天使が現れる。
「あなたの戸惑う姿はホント滑稽でしたから今回も期待していたんですが。」
――相変わらず性格の悪い天使だな。
その美しい容姿と声から発せられる、とても天使とは思えない言動も流石に三度目となると慣れてしまう。
「しかし、あれだけの力を手にしてもまた生きれなかったんですねー、これはもう諦めるしかないですねえ。」
「……」
「で?どうしますか?次も不幸ポイント使用しますよね?でも残念ですが――」
「いや、もう不幸ポイントは使わない。」
「え?」
当然使うと考えていたのかネロの回答に天使は思わず聞き返す。
「もうこの記憶を持つのは……いい。」
ネロは俯きながら呟くように言う。
今回でネロ・ティングス・エルドラゴとしての命は終えた。
記憶を持って転生しても、もう前世の仲間たちと同じ関係には戻れない。
ピエトロ、エーテル、カラク……そしてエレナとも、それは辛すぎる。
そして今回で分かった、自分は十五歳の死からは逃れられないと。
だからどんなに強い能力を持っていても一緒だ。
それなら記憶を持たず、ただこの状況を延々と受け入れたほうがいいとネロは悟ってしまった。
その言葉を聞いた天使は困り果てたようにうーんと唸っている。
「うーん。まあ、元々もう不幸ポイントも少なかったのでせいぜい記憶を残す程度しか残っていなかったんですけどね。……でもいいのですか?次死ねばあなたの転生は終わりですよ。」
「……は?」
その言葉にネロが思わず顔を上げる。
「ど、どういうことだよそれ⁉」
「言葉の通り、あなたは次死ねば終わりなんです。あなたの転生は正直言って異常なんです。だから、五十回を超えたところで打ち止めになることになったんです。つまり、次も十五歳で死ねばあなたの転生は終わりです。」
「なんだよそれ⁉聞いてないぞ!」
「あれれー?言ってませんでしたっけ?」
当然そんな話は聞いていない、そして天使のあざ笑うような表情を見る限り本人も言ったつもりはないのだろう。
「なんだよそれ⁉それって次死んだらどうなるんだよ?」
「魂は消滅し、無に帰ります、としか言えませんね。」
そう告げて、笑う天使の顔にはもはや不気味さが滲み出る。
だが、そんなこともネロは気づかないほど、頭が真っ白になっていた。
――次、不幸を逃れなかったら終わり?消滅?それってどうなるんだよ?今回ですら生きれなかったのに、もう不幸ポイントもないんだぞ?
転生があるからと考えていた心の余裕が崩壊したように死への恐怖が甦りネロを襲った。
……それからの事は何も覚えていない、自分がどう答えたのか。
次に意識が目覚めた時は、激しい雷雨と風が窓をたたく音が響く薄暗い部屋で、泣き崩れる男に抱かれている赤子になっていた。




