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余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜  作者: 三太華雄
第二章 ネロエルドラゴ編

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202/232

二度目のエピローグ

――妖精の国


「はぁぁぁぁぁぁ~」


 妖精界にある大樹に造られた城の玉座から大きく、そして長いため息が零れる。


「毎日欠かさず大きなため息ご苦労様です、エーテルお姉様」


 そのため息を吐く妖精の女王エーテルに対し、傍で控える妹フローラから皮肉が飛ぶ。

 そんな妹に対しエーテルは恨めしい視線を送るが「仕事もそれくらい熱心に励んでくれたらいいんですけどね。」と言われるとその視線をサッと晒した。


 ため息の理由は二年前、この妖精界の歴史の中でも大きな事件の一つとなった獣人戦争にまで遡る。

 エーテルは当時、この国の危機を救ってくれた自分の友人でもある英雄に対し、つい感情的になり心無い言葉を浴びせてしまった。

 そして、その後落ち着きを取り戻したエーテルはその事を酷く後悔していた。


 謝る機会も恵まれず、あれからもう二年、エーテルはその後悔をひと時も忘れたりはしなかった。


「だってアレからもう二年も経ってるのよ?妖精(わたしたち)と違い、人間の二人はきっともう成人している年だわ、そうなれば恐らく結婚も……二人の恋の妖精である私が結末を見届けれないなんて……はぁ~」

「……あーもう、わかりましたよ、もう少ししたら業務もようやく落ち着きますのでそれが終わったら少しだけ休み期間を設けましょう」

「ほんと⁉」


 半ば呆れ気味に言ったフローラの言葉にエーテルが眼を輝かせる。


「はい、正直に言えばもう人間界には行ってほしくないのですが、いつまでもこのままじゃ困るので……それにあの方に感謝があるのは私たちもそうですから、是非妖精代表としてお礼を言いに会いに行ってください。」

「わかったわ、ありがとうフローラ!」

「ちなみに、お姉さまならテレポが使えるので期間は一週間でお願いします。」

「え?も、もう一声!」

「では、八日で――」


 その後、妹との粘り強い交渉によりエーテルは最大二週間の休養期間を得ることになるが、その期間の間にエーテルが二人と会うことはなかった。



――ダルタリアン


「ピエトロ、あなたにはこの街から出て行ってもらうわ。」


 ダルタリアンの現領主であるメリル・ゲルマに呼び出されたかと思うとピエトロはいきなりの追放を告げられる。


「……どうしてかな?僕はそれなりに街の復興に貢献してきたと思うけど。」


 ピエトロは首をかしげながら尋ねる。

 実際ピエトロはこの街に発展にかなり貢献してきた。


元々この町は非道な思考の持ち主たちの戯れの街として知られていた。

 町中のあちこちに死体や人の部位が晒され腐臭が蔓延し、そして更に二年前、バルオルグスが復活の影響でマナが活性化したことによりそれがモンスターと化し死の町となっていた。


 そんなダルタリアンは美の女神を自称する新領主、メリル・ゲルマの政策により、変わって行った。

 充満していた汚れたマナを減らすため、マナを吸収して成長する花、アウラスの花の種をあちこちにまき、さらに資金をすべて使い街を一から作り直した。

 そのおかげでここ数年で今この町は花の町として名前が広がり栄え始めている。

 そしてその政策をずっと支えていたのがもう一つの街、ベルトナで領主をしていたピエトロだった。


 ピエトロはネロたちと別れ、ベルトナの領主に付くと僅か数か月で街を立て直した後、街を有能な部下に預け、本人はメリルの補佐に回っていた。


「そんなの決まってるわ、あなたがこの町にふさわしくないからよ!」


 そんなピエトロに向かってメリルが指を突き付けて言う。


「ここは私が作り上げた美を司った町、だけどあなたは有能だけど美的感覚は壊滅的、とてもこの町には相応しくない、よってあなたをこの街から追放します。」

「……それはみんなも総意なのかい?」

「ええ、もちろんです。」

「もう十分持ち直したこの町にあなたは不要です。」


 ピエトロがベルトナから連れてきた優秀な部下二人にも尋ねるが、二人ともメリルの言葉に同意する。


「という事で、ピエトロ、さっさとこの街、いえ、この国から出て行きなさい!」

「……」


 メリルの言葉にピエトロは何を思ったのか、唇をギュッと噛みしめると、一度その場で目を瞑り息を吐く。


「……そうか、わかったよ。」


 ピエトロがそう呟くと部屋の出口へと向かう。


「メリル。」

「なによ?」

「いや、なんでもない。」


 ピエトロは部屋の扉の前で一度立ち止まるが、何も言わず部屋を出ていく。

 そして、足音が遠かったのを確認すると、緊張の糸が切れた部下の二人が大きく息を吐いた。


「ふう、どうやらバレずに済んだようですね。」

「ええ。」

「しかし何故こんな回りくどいことを、素直に送り出せばよかったじゃないですか?」


 部下の一人がメリルに尋ねる。

 ここ最近、ピエトロの様子がおかしかったのは誰の目を見ても明らかった。

 仕事は常に完璧だが所々で上の空で、こっそりと誰かと連絡を取っていたのも知っていた。


 それを気にした部下が探ってみたところ、ピエトロは他国であるミディールと連絡を取っていたことが判明した。

 初めは部下から問い詰めること提案されたが、ピエトロがミディールに対し好意的なことを知っていたメリルは色々考えた結果、ピエトロを送り出すことを決めたのだった。


「バカね、あいつは以前奴隷にしようと考えてた私に手を貸すほどの、甘ちゃんよ?送り出したところでこちらを気にかけるのが目に見えてるわ、それなら追放という形で振り返らせない方がいいのよ。」


――そう、これが今の私の美学……


 以前の自分がどれだけ非道だったかはこの二年人々と交流して嫌というほどわかっていた。

 振り返るだけで死にたくなるほど、自分は美とはかけ離れた人間だった。

 だが今ではその価値観も変わり、この醜いと称される蛇の髪にも愛着がわきかわいく思えるほどだった。


「それより、今後、この街を私達でより良くしてくいわよ!美の女神の名において妥協は許さないから。」


 メリルの号令の下、二人は大きく返事をするといつものようにダルタリアンの繁栄のため仕事に勤しんだ。


――


「皆、ありがとう。」


 ダルタリアンを街を振り返りながら、ピエトロがポツリとつぶやいた。

 先ほどの茶番には思わず吹き出すところだったがなんとか唇を噛みしめ何とかこらえた。

 だがそのおかげで、今は迷いなくミディールに向かって歩ける。


 あの日、レミナス山が崩壊したと聞いた時、ピエトロは真っ先にネロとの関係を疑った。

 推測するのは簡単だった、ネロが不老不死を求めレアードを探していた事は聞いていたし、死の恐怖とも戦っていることも知っていた。

 自他ともに最強と呼ばれるネロがもし死ぬ可能性があるとすればと考えた時に真っ先に思い浮かんだのが、餓死、病死、窒息死だった。


 人間では決して抗えないその死因、そして突如起きたレミナス山の崩壊。

 ネロを何かの力が働いて強制的に殺そうと考えたなら、もしレミナス山に埋もれていたとすればその二つが当てはまる。


 本当ならすぐにでも確かめに行きたがったがピエトロは今日まで向かう事はなかった。

 理由はダルタリアンの復興に勤しんでいたから、と言う理由を建前にしていたが内心ではただ確かめるのが怖かった。

 大丈夫と心で言い聞かせてきたが、最近になってミディールの使者からネロが行方不明になった時かされ、不安は大きくなっていたそんな中のメリルたちの追放劇はピエトロの背中を押すきっかけとなった。


――大丈夫、レミナス山の近くには総本山もあったはずそこで保護されてる可能性もある、生きている可能性は十分あるんだ


 ピエトロはネロが生きているという可能性を考えながら、ミディールへと向かって歩き出した。


――ミディール城


「先ほどピエトロ・ブルーノ殿からダルタリアンを発ったと言う連絡が入りました。」

「そうか、ならピエトロが到着次第、ネロの捜索会議を始める。」


 カラクはこの場にいる者たちにそう告げると、玉座に座りながら考え込む。

 最近はこれがカラクの日常になっている。

 ネロが行方を晦ましてからおよそ一年、カラクは焦っていた。


 捜索はずっと続けて来たが未だ音沙汰なし、いつまでも一人の人間の捜索に力を入れるというわけにはいかずどこかで見切りをつけなければいけなかった。


 ――あいつがここを訪れた後島を出発し、その後1ヶ月足らずでレミナス山が崩壊、これが偶然とは思えない。恐らくそこにネロの行方の鍵となるものがある。


 だが、レミナス山の崩壊の謎は未だ解明されず、レミナス教の方にも連絡を取ったが、あちらも大司祭様が崩壊後、行方がわからなくなっているという話だった。


――俺には何もわからなかったが、ピエトロなら或いは……


「お考え中、申し訳ありません、カラク王」

「ん?」


 ふと、気がづくと将軍代理を務めているバルゴが目の前に立っていた。


「どうした、なにかわかったのか?」

「いえ、ネロ将軍とは関係ないのですが、実はアドラー帝国の事で少し気になる噂を耳にしまして……」

 


――アドラー帝国 帝都ヘクタス


「ミディールの城に忍ばせた間者によりますと、どうやら武王、ネロ・ティングス・エルドラゴの失踪は事実のようです。」

「……だから何だというのだ?」

「え?」

「そんなことどうでもいいわ!」


 大臣から報告に皇帝ベリアルから怒号が飛ぶ。


「向こうの最高戦力が消えたところで、こちらもいないのでは意味がないではないか!……まだ、まだ見つからないのか……スカイレスは?」

「は、はい、報告によりますとスカイレスが向かった先の付近でボロボロになったアルカナの防具だけが見つかったと……恐らく彼はもう――」

「戯けたこと申すな!やつは私が作った最高の兵器だぞ!あれを倒せるものなどこの世のどこにもおらぬわ!探せ!世界中の隅々まで探して必ず見つけ出すのだ!」


 ベリアルの号令が響くと家臣たちが慌ただしく動き始める。


――どこだ、一体どこに行ったというのだ?スカイレスよ……


――ガガ島


「エレナ、わかっているな?期限は一年だ、もし一年で見つからなければその時は……」

「ええ、わかっています、ありがとうございます、お父様。」


 ネロの捜索の旅に出るため、今日島を発つエレナを見送りに来た父リングに別れの挨拶を済ませると、エレナは国から用意された専属の船に乗り込む。

 船の中には旅の間エレナの護衛を任されたダイヤモンドダストが先に乗っている。


「マーレも屋敷のことは任せましたよ。」

「はい、お任せくださいメイド長、いってらっしゃいませ。」

 

 エレナが船に乗ったのを確認して続いて、身の回りのお世話役として志願したカトレアがこの一年で立派に成長したマーレに家を託して乗り込む。マーレはカトレアに鍛え上げられた成果を披露するようにカトレア直伝の綺麗なお辞儀で二人の出港を見送った。


「さて、じゃあまずはどこへ向かう?」

「そうですね、港町テットからレミナス山を目指そうと思います。」


 船が島を離れて、リグレットが行き先を尋ねると、エレナはネロと初めて訪れた町を指定する。


「しかし、エレナちゃんは良かったの?別れ際に酷いこと言われたんでしょ?」


 エレナはロールにそう尋ねられると当時のことを思い出して小さく笑う。


「そうですね、確かにあの時は驚きましたけど、今思えばネロが理由もなくあんなこと言うわけないですから、それに、あんな言葉で私がネロを嫌う理由になんてならないですもの。」

「へぇー、いいなぁ、なんかそれ。お互い信頼し合ってるって感じがして。」

「はい、信頼し合ってますから!」


 エレナは自信満々にそう返事をする、そしてまるで何事もないように青く広がる海を見ながら言った。

 

「だって私はネロの――」


これにて二章は完結です。

ここまで見て下さった方、有難うございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 強力な魔族の一人としても魔王となって死亡。最高の剣士である暴虐貴族としても落雷で死亡。最強のステータスとスキルを持つ存在としても貧弱して死亡。 何かしら女神関係であるみたいだから、謎解きす…
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