最後のピース
「……とまあこれが真実だ。」
レオパルドは自らの経験とレアードから聞いた話を織り交ぜながらネロに真実を語り終えると、一度一息入れる。
「正直、あれがなんだったのかは今でもわからん。レアードは何か知っていた様だったがな、俺達に分かったのはただ一つ、仲間を一人失ったという事だけだった。」
レオパルドが最後に少し寂し気にそう呟くと自らの物語を締める。
「とりあえず、俺が語れるのはこれだけだ。何の役にも立たなくて済まねえな。」
「いや、面白い話が聞けて良かった、それに――」
――何故だろう?今の話を知っているようなが気がする。
「いや、なんでもない。」
どこで聞いたのかと記憶をたどるが、この場では思い出すことはできなかった。
「そうか、それで、やはり行くのか、レミナス山に?」
「ああ。」
ネロが強く頷く。
「そうか、ならもう止めはせん。せっかくだ、レミナス山付近まで送ってやるとするか。」
「そんなことできるのか?」
ここからレミナス山のあるイスンダル大陸は、ミディールを越えた更に先にある、かなり距離があるはずだ。
陸路とは違い海路を進むこともあってネロも日数は相当かかると踏んでいた。
「ああ、恐らく大丈夫だ。」
「恐らく?」
「送るのは俺じゃないからな、ついてこい。」
そう言うと、レオパルドは立ち上がり外へ出ていく。
ネロもそのままついていくとレオパルドは町の外にある何もない平地まで行くと、いきなり周囲に向かって呼びかける。
「おい、ソーマ!聞こえてるんだろ?」
……しかしいくら待っても周りから特に反応はない。レオパルドが更に大きな声で呼びかける。
「おい!ソーマァ!」
「ああ、聞こえているがそんなに気安く呼ばないでくれ、私は君と違ってまだ現役の王なんだ。」
するとその場に突風が吹き荒れると、その風と共にローブを羽織った緑色の髪の若い男が現れる。
「おう、そいつは済まなかったな。紹介するぜ、こいつは属性民族、風の民を統べる風の皇帝ソーマだ、こいつがお前さんをレミナス山まで送ってくれる。」
「……話が見えないんだが?」
顔を顰めて尋ねるソーマにレオパルドが詳細について話す。
「……なるほど、まあ話は分かった。別に飛ばすのは構わないがここからレミナス山なんてところまで飛ばすとなると、着地地点がかなり曖昧になるし下手をすれば海のど真ん中に落ちて死ぬんじゃないのか?」
ネロから借りた世界地図を見ながら場所を把握したソーマが指で落下地点の範囲をなぞって言う。
「ふむ、確かにそれは厳しいか、お前さん、息はどれくらい続く?。」
「持って三日ってところかな。」
昔、海に潜って一度挑戦してみた事があったが、それくらいで呼吸が苦しくなっていた。
そのためにも呼吸スキルを取ろうとしていたが結局機会には恵まれなかった。
「うむむ、規格外の実力のお前さんでもそれはやはり厳しいか。」
「でも泳ぐことはできるからそれくらいは大丈夫だと思うが。」
「それでも危険な事には変わりはないな、さてどうしたものか。」
近くまで送ってもらえるだけで十分と考えてるネロは特に気にしていないが、大人として子供を危険にさらせないと考える二人の王は頭を捻らせる。
するとまたどこからともなく声が聞こえて来た。
「うふふ、どうやらお困りの様ですね。」
その声に合わせて突如地面から水が噴き出るとその水の上には踊り子の格好をした美しい女性が乗っていた。
「ご機嫌よう」
「なんだ、ラナじゃねえか、どうした?」
「君もまだ女王だったはずでは?」
――女王……
どうやら話の流れ的に彼女も王の一人で恐らく水の民を統べる水の神子と呼ばれる女性だろう。
「勿論、まだ現役よ、そして私は王としてこの子にお礼をしに来たの。」
「お礼?」
ネロはその言葉に首を傾げる。
「ふふ、身に覚えがないって顔ね。」
「ああ、全く。」
「あなたがこの大陸に来る際に水中にいたモンスターを倒したでしょ?そのモンスターに漁に出ていた民たちが飲み込まれていたそうなのよ、だから救ってくれたお礼をしに来たの。」
ネロがこの大陸に上陸するとき、確かに何体かのモンスターは倒したがまさかそんなことになっていたとは全く気付いていなかった。
「別に助けるつもりで倒したわけじゃないんだけどな」
「理由はどうあれ助けてもらったのは事実、だから今お困りのあなたにとっておきのアイテムを上げるわ。」
そう言うと、ラナは吹き出る水の中に手を突っ込み一つの小さな小箱を取り出すと箱を開けて中を見せる。
中には一つのネックレスが入っていた。
「これは?」
「昔海底で拾ったペンダントよ、どうやらこのペンダントには海底にすむモンスターたちが持つスキル「酸素変換」の効果があって、魔力を酸素に変える力があるみたいなの。私達水の民は水の中でも普通に呼吸ができるし、必要ないからお礼代わりに是非譲ってあげるわ。」
――おお。
元々優先順位は低いと考え最悪なくてもいいと思っていただけにこの展開にはネロも驚きを隠せずにいる。
「これで問題は無くなったな。」
「よし、では……」
ソーマが両手を前に出すと手のひらから巨大な竜巻が発生し、それが徐々に収縮されていく。
「これくらいか。」
そしてそれを地面に置く。
「この渦の中心に乗ってくれ、そしたらあとは風に身を任せれば君をレミナス山付近まで送ってくれるだろう。」
「わかった、ありがとう。」
「じゃあ、達者でな。」
「ああ、また成人したら遊びに来るよ。」
ネロは三人の王に見送られると渦に乗り、高々と上空へ上げられると、ソーマの指示通り風に身を預けた。
そこからネロは空を舞い続ける、初めて見る空から見る景色は新鮮でこの世界がいかに広いかを教えてくれた。
――お、ちょうどミディールの上か
下を見ると小さな大陸が見え、そのすぐ近くに一つ島が見える。
――あれが、ガガ島か
島が身に入った瞬間、ふと島を出る前のやり取りを思い出す。
――……気にするのは全てが終ってからだな
ネロはそのまま空を飛ぶ。
正直に言えばすぐにい勢いを無くして落下するのではないかと思っていたが、風向きなども考慮されていたのか自分の身体は日にちを跨いで飛び続けた。
そして二度目の夕日が沈んでいくのを眺めていると目の前に目的となる山が見えてくる。
――あれが、レミナス山……
まだ距離があるここからでも十分見えるほど大きく、空を飛んでいるの関わらず頂上が見えないほど高い。
雲に遮られ見えないというのもあるがそれどころか頂上があるのかさえ疑いたくなる。
まさに神の使者と呼ばれる生き物の住む場所にふさわしい。
「世界の調停者か……」
――とてもじゃないがそんな生物を殺そうと考えるなんて正気の沙汰じゃないよな。
聞いた話を思い出し、ネロが少し笑う。
――だが、それでも……
ネロは改めて決意する、どんな相手でも迷わないと、もう一度皆と出会う為にも。
レミナス山へ直行していたネロの身体が、徐々に速度が落ち始め少しずつ高度が下がっていく。
――流石にレミナス山には届かないかな。
幸い海は通り過ぎたのでもらったアイテムを使うことはなさそうだ、ネロは落下に備え受け身の体勢をとる。
付近に周りに誰もいないことを確認し、ネロは着地すると降りた衝撃でそこには隕石が落ちたような穴が出来上がっていた
――っ、流石に少し効いたな。
落ちた衝撃に足に少し反動を感じるが、外傷はないようだ。
「さて……とうとうここまで来たか。」
ネロは自分が落ちて来た上空を見上げる、そこにはまるで自分に立ちふさがるかのようにレミナス山が見えていた。




