創作の物語
「しかし、あれからもう一年か……お前さんも随分成長したな。」
火の国へ向かう道中、レオパルドが隣を歩くネロを見ながら言う。
「そうか?あまり変わってない方だと思うけど……」
「容姿と言うより顔つきや雰囲気の話だ、以前と比べて落ち着きがある。この一年で悩み、焦り、そして決断したんだろ。だからこそ、訪ねて来たんじゃねえのか?」
その問いに対しネロは口を開かない、レオパルドはそれを肯定と受け取ったのか小さく笑う。
「まあ、詳しいは話はあとで聞くとしよう」
レオパルドが再び前を向き足を進める。
「ところで、そこの二人は?」
今度はネロが振り返りながら後ろを歩く二人の少年少女について尋ねる。
「ああ、そいつらはいわば俺の弟子だな、前の戦いの前に王位を倅に譲ったんでな、隠居の暇潰しに生きのいいガキどもを育ててるんだ、他にも何人かいるが……機会があればいずれ紹介しよう。」
「へえ……」
ネロが改めて二人を見る、見た目で言えば自分よりも少し年下だろうか?
ただ、種族が違うと寿命や成長速度も違うのでわからない。
二人はネロ達の会話が聞こえていたようで、視線が合うとその場で立ち止まり、敬礼しながら自己紹介をする。
「自分、火の国騎士見習いのポルカっす。」
「土の国の魔術師見習い、メモルです。」
「ああ、俺はネロ・ティングス・エルドラゴだ、宜しく。」
二人に習いネロも一度足を止めて自己紹介をする、すると二人はネロの名前に大きな反応を見せる。
「やっぱり、あのネロ・ティングス・エルドラゴさんっすよね?」
「あの?」
「ミディールで行われた最強を決める武王決定戦の初代優勝者であり、妖精の国でレオパルド様が勝てなかった相手を圧倒した最強の少年さんです。」
――最強の少年さんって
「まあそうだが、どうしてそれを?」
妖精の国の話は恐らくそこにいるレオパルドから聞いた話であろうが、武王決定戦の話はした覚えはない。
するとその疑問に対しレオパルドが答える。
「武王決定戦にはうちの倅も出ててな、あいつから聞いたんだ。」
「倅ってことは今の国王か?」
「ああ、レクアルドって名前のやつだが知ってるか?」
「レクアルド、レクアルド……」
聞いたことはある名前だが馴染みの名前ではない、ネロはその名をどこで聞いたか記憶を辿っていく。
「一応自称で紅蓮の貴公子と名乗っておったな」
「紅蓮の貴公子……ああ、ブランが勝った奴か」
その二つ名でネロはレクアルドについて思い出す、予選ブロックで問題を起こし少し話題になっていた男だ。
だが、予選決勝でブランに敗れ戦う事はなかったので面識もなかったはずだ。
その事を伝えると、レオパルドは問題を起こしたという部分に渋い顔を見せる。
「あ奴、他国でも問題起こしとったのか……」
「強いですが自分の技に酔いしれるのが火の国王の悪いところですよね」
メモルの言葉にレオパルドが大きくため息を吐く。
「それで、どうしてそいつが俺の事を知ってるんだ?」
「なんでもエルドラゴ様の戦いを見たとかで、珍しく王が褒めてたっす。」
「非常に蛮族的で面白みのない戦い方ではあるが、それを含めてもあの圧倒的な強さには華があるって言ってました」
――蛮族的ってそれは褒めてるのか?
だが二人はそう捉えたようなのでそう言う事なのだろうとネロは結論した。
「あ奴は強さこそ本物だが独特の感性を持っているのが少々厄介でな、恐らく問題となったのもそれがきっかけだろう。」
「そんな奴が国王になって大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、火の民は皆逞しいからな。他の国の王達もしっかり支えてくれている。」
――それは根本的に解決してないだろう。
その後もネロは三人からこの大陸に関しての話を聞きながら足を進めていく、そして大方の話を聞き終える頃には目的の場所が見えてきた。
「さて、見えて来たぜ、ここが俺の国、火の国にして唯一の街、ファイヤーモールだ。」
レオパルドの紹介を聞きながら門をくぐるとその瞬間、前から熱風が吹き思わず顔を腕で覆う。
そして熱風が収まったのを確認してゆっくり腕を降ろすと目の前に映ったのははあちこちにある小さな火山と石でできた家が密集する集落のような街だった。
「うう、相変わらず熱いですね。」
「まあ、普通はそうだろうな。お前さんは大丈夫か?」
同じく熱風を浴びで青い顔になったメモルを見て、レオパルドがネロに訊ねる。
「熱くはあるがどうにかなるようなものでもない。」
「そうか、なら悪いがもう少し歩くぞ、建物の中はそこまで熱くないからな。ポルカはメモルを鍛錬場に連れて行ってやってくれ。」
「了解っす。」
そう言うとポルカはメモルを連れて門を出ていき、ネロはレオパルドに連れられ街の奥へと入っていく。
「あれは誰だ?」
「レオパルド様の新しい弟子だろ。」
「土の民か?それにしてはマナを感じないが」
街を歩くと元国王であるレオパルドに連れられたネロは自然と注目を集めていた。
二人は特に気にすることなく歩いていくと街並みから少し外れた場所にある建物の前で止まる。
「よし、到着だ。」
「ここは?」
「いわゆるわしの別荘だな、ここなら誰も入ってこんからな。なんの話でもできよう。」
そう言うとレオパルドは扉を開け中に入る、巨体のレオパルドの言えということもあり広い部屋だが物はベットが一つだけとまさに寝泊り専用の部屋となっている。
レオパルドはそのまま中央の床に直に座り込むと、ネロもレオパルドと対面する形で床に腰を下ろす。
「さて、では話すとするか。だがその前に聞いておこう。お前さん何故にレアードを逢おうとする。」
レオパルドが真面目な雰囲気で質問すると、ネロも特に隠すことなく自分が不死の力を求めているのことを話す。
「なるほど、永遠の命を求めてか。」
あれほどの強さを持ちながら不死の力を求めるネロに疑問を持ちながらも、レオパルドは言葉をうたがうことなく話を聞き入れる。
「確かにレアードの持つスキル「完全再生」はたとえ死んだとしてもすぐに生き返る不死のスキルといえよう。そしてお前さんのあの反則まがいのスキルならそれも手に入れることもできるだろうな。」
「本当か⁉」
「ああ、まあお前さんがレアードを殺せたらの話だがな。」
ネロはその言葉に思わず小さく拳を握る、例えレアードがどれほどの相手だろうと不死の力を得られるという可能性があるならそれで十分だった。
「じゃあ約束通り、俺が知るレアードの話をするかな、と言っても俺の知ってる話などレミナス山もレアード攻略の役にも立たんがな。」
「それでいい、少しでも情報があるならほしい。」
「そうか、なら話そう。俺がレアードと出会ったのはお前さんたちも知ってる三英雄物語の一つヴァルハラの大戦の時の事だが、実はあの話には秘密があるのを知っているか?」
「あの話が作り話と言う事か?」
ネロの答えにレオパルド少し驚いた顔を見せる。
「ほう、何故そう思う?」
「以前俺の仲間が言っていたんだ、三英雄物語と他の伝説の話の違いはその内容に創作が混じってることだって」
「成程、なかなか博識な仲間がいたんだな。」
「ああ、俺の自慢の仲間だ」
「そうか」
誇らしげに言うネロの顔を見てレオパルドも笑みを見せる。
「それで、その仲間の言う嘘は何だと思う?」
「やっぱり、倒したパーティーの事かな。」
あの話で出て来た登場人物はエドワード・エルロンとセナス・カーミナルのみ、今思えば二人で魔王を倒すなんておかしな話だ、そしてその理由も今ならわかる。
昔は種族間の溝が今より深かったと聞いている、そんな時代に複数の種族が力を合わせて魔王を倒したと言う話は世間的には面白くなかったのだろう。
ただ、今はそれでだけじゃないことも分かっている。
「それともう一つ、戦った相手が違う。ヴァルハラの戦いに出て来たのは魔王ヴァルヴァランだった、しかし本当の相手はネクロ・ロードじゃないのか?」
ネロの答えに対し、レオパルドは顎を触りながら少し悪戯っぽく笑う。
「フフ、まあ半分正解と言ったところだな」
「半分?」
「ああ、それだと全部作り話になるだろ?確かにあの物語の内容はネクロロードとの戦いのことだがあの話が全て創作ではない。あの話はその戦いの延長線上の話だ。」
――延長線……つまり、ネクロロードを倒した後にヴァルバランとも戦ったと言うことか。
しかしその話には一つの疑問が残る。
それならば何故ヴァルバランとの戦いという名前を使ったのにその戦いを物語にしなかったのか、
その答えは今からこれから話すレオパルドの話のなかにあった。
「今から三百年前、俺はネクロロードを倒すために七人の仲間と旅をした。それは当時種族間での争いが激しかった時代には異例ともいえるメンバーだった。
人間族の剣士のエドワードと学者セナス、エルフ族の魔術師テオと治癒術師ミトラ、竜人族の国の騎士団長トルクと妖精族の王女だったリリアナ。……そして、まだ成人もしていなかったオーマ族の魔術師ヴァルバラン。」




