雑魚
2021/3/14
申し訳ございませんが大幅加筆修正しました。
詳しくは活動報告の「余命十五年のチート転生 〜クズから始まる異世界成長物語〜の加筆修正について」
に書いてあります。
「……な、なんだ?何が起こったというのだ?」
死を覚悟し、強く目を閉じていたトルクがなにも起こらない現状にゆっくりと目を開く。
目を開いた先には、自分に襲い掛かるネクロロードの攻撃を受け止めている見ず知らずの少年の姿があった。
その光景を見たトルクは柄にもなく、キョトンとした表情を浮かべる。
いや、トルクだけではない、今この場にいる全ての者がその少年に目を奪われていた。
――
『……なんだ、貴様は?』
突如標的の前に立ちふさがり自分の攻撃を防いだネロに対し、ネクロロードが問いかける。
しかしネロは答えることなく、何かを探すように辺りを見渡し始める。
周りにいる者達が自分に注目している中で、一人平然としている獣人族であるギンベルグを見つけると、ネロは彼女に近づき尋ねる。
「……バオスはどこだ?あいつも来てるんだろ?あいつと少し話がしたい。」
「あなたは……バオス様ならあなたの直ぐ側におられますよ?」
そう言うとギンベルグが手でネクロロードの方を示す。
「……このでかいのがバオスだと?」
「ええ、妖精の国を侵略するにわたりその身を悪魔へと差し出した王の姿です。」
淡々と話すギンベルグの言葉を聞き、ネロは改めてネクロロードと一体化した巨大はバオスの姿を見る。
――なるほど、こいつがさっき言ってたネクロロードってやつか。
先程話を聞いていたこともありすぐに状況を察するとネロは一度大きく息を吸いこむ。
そして――
「バオオオオオス!聞こえてんだろおおおぉぉ⁉さっさと出てこおおおおい!」
周りの空気が少し震える程の大声でネクロロードに向かって呼びかける。
「そんな雑魚に乗っ取られてんじゃねぇぇぇぇ!」
その言葉にネクロロードがピクリと反応を見せる。
『ほう、なかなか面白い小僧だな。我のこの姿を見て怖気付くどころか雑魚呼ばわりするとは。』
「だって雑魚は雑魚だろ?安全圏の世界から人の体借りて威張りやがって。悔しかったらこっちの世界に来てみろ。」
『……』
ネクロロードに対しそう吐き捨てるとネロは再びギンベルグの方を見る。
「で、お前は何をしてんだ?」
「何と言うのは?」
「ここにいるって事はお前もバオスの部下なんだろ?なんで自分の仕える王が悪魔に憑りつかれて平然としているんだと聞いてるんだよ。」
ネロが少しきつい口調で尋ねる。
「それがバオス様の望みだからよ。」
「なに?」
「私の役目はここで起きた戦いの全てを見届ける事、だからこの戦いに手は出していないし出すつもりはないわ。」
「……そうかよ、ならしっかり見届けろよ。」
そう言うと、ネロはギンベルグからネクロロードの方へと視線を移す。
「と言うわけだ、お前に用はないからさっさとバオスと代われ、雑魚。」
『愚かな、我のあいさつ程度の一撃を止めたくらいで随分強気に出たものだな、良かろう、ならば見せてやろう、我が力を』
ネクロロードがゆっくりと立ち上がると、片方の腕を頭上に振り上げる。
するとその手に黒いマナが一気に集中する。
「駄目!あのマナは危険だわ!」
「逃げろ、小僧!」
『クハハハハ、我が力、とくと味わうがいい。』
黒いマナに覆われたら巨大な手がネロへと勢いよく振り下ろされる、それに対しネロは自分の小さな手で受け止める。
『ば、馬鹿な⁉︎』
「我の力だ?その体はなあ!バオスが強くなるために必死で努力して鍛え上げたもんだ。お前の力なんて使ったところで大して強くなんねぇんだよ!」
ネロは受け止めたその巨大な手を両手でつかむとそのネクロロードの身体ごと地面に向かって投げ飛ばす、ネロは続けて地面を蹴ると、宙へと飛び上がる。
「出てこれねえってなら仕方ない、少し手伝ってやるよ!」
そして、空中で体を縦に回転させる。
「獣拳、兎の型、月下兎蹴!」
技名を言いながらネクロロードに落下する。
しかし、技というには姿勢は汚く回転の勢いも足りず、ただ回りながら落ちているだけである。
殆ど意味のない動きだが、それでも規格外のレベルを持つネロの一撃は十分すぎる力を持ち、頭に踵を受けたネクロロードは顔を勢いよく地面に叩きつけられた。
「失敗!次行くぞ!」
『お、おのれ、ふざけよって……』
ネクロロードはすぐに起き上がると、周囲の闇から無数の手を出現させネロを抑えにかかる。
しかし、ネロは止まることなく次々と技を繰り出していく。
――
「なんなんだ、あの子供は?」
少し離れた場所で仲間達と戦いを見守っていたトルクが呟く。
ネクロロードは自分達が戦った頃よりもはるかに強依り代を持ち、その強さは圧倒的で絶望すら感じるほどであった。
だが、その絶望は突如現れた少年の存在により、瞬く間に消え去っていた。
その少年はまるでふざけているのかと思える様な技を連発しながらも、そのデタラメな力で何度もネクロロードを地に叩きつけていた。
「あれがセナスの子孫か?」
「いや、あれはその子孫の連れで名前は確か――」
「ネロ・ティングス・エルドラゴです。」
聞き覚えのない声が後ろから聞こえると皆が一斉に声の方を振り向く。
すると、今度は見慣れない少女が現れた。
「はあ、はあ、やっと追いついた。」
少女は走ってきたのか息を切らしており、一度呼吸を整えると改めて少年について話し始める。
「ネロ・ティングス・エルドラゴ、ミディールの若き将軍にして世界各国から猛者が集まった武王決定戦で見事優勝した私の幼馴染です。」
少女はそう説明すると少し自慢げにする。
「ところであなたは?」
「ああ、この子がセナスの子孫だよ。」
「初めまして、カーミナル伯爵家令嬢、エレナ・カーミナルです。」
エレナが自己紹介をすると、貴族らしくスカートをつまんで頭を下げる。
「ほう、この子があのセナスの……」
「あの変人の血筋からこんな可愛らしい子が生まれるとは、一体どこでなんの血が混じったんだ?」
かつての仲間の家名を名乗るエレナに興味が行くと全員がエレナの顔をマジマジと見る。
「しかし、武王か……確かに名乗るだけの実力はあるな、まさかこの時代にあれほどの者がいるとはな」
「その割に武術は得意そうではないけどねぇ。」
「じゃが、それでも果たして勝てるのか……」
「大丈夫です、だってネロは世界一強いですから。」
そういうとエレナは皆を安心させるようにニコリと微笑んだ。
――
「お、おのれ、何故効かぬ、何故倒れぬのだ!」
ネクロロードの全力を込めた一撃をネロが実力を見せつけるように全て受け止めて見せる。
「テメェとはレベルが違うんだよ!」
ネロが頭上に拳を叩き込む。
勢いよく叩きつけられたネクロロードは、その頭を地面にめり込ませると、そのまま動かなくなった。
「……まだ必要か?」
ネロが顔を突っ込んだまま動かないネクロロードに問いかける。
『お、おのれ……』
「チッ、まだ出てこねえのかよ。」
どれだけ殴ろうがバオスに変わる様子はない。その状況にネロが苛立ちを見せる
「これ以上やったら死ぬぞ、本当にこれでいいのかよ。」
「いいわけがないわ。」
その問いに対し後ろから答えたが返ってくる。
振り向けば先ほどから離れたところで傍観していたはずのギンベルグが近くにまで来ていた。
「なんだ?この戦いには手を出さないんじゃなかったのかよ?」
「そのつもりだったのだけれど、状況を見かねて出てきたのよ。」
ギンベルグはそのままネロを通り過ぎてボロボロの状態のネクロロードに近づくと、その柱のような巨大な足の部分に呪符を貼る
「お、おい、お前何やって――」
ネロが何かしようとしているギンベルグを止めようとする、しかし、その瞬間、突如ネクロロードが雄たけびをあげながら苦しみ始めた。
「グワァァァァァ⁉な、なんだこれは⁉我の力、いや、我自身がこやつに奪われていく……。」
ネクロロードの身体から溢れでていた闇のオーラを呪符が吸い込んでいくと、それに合わせて身体も縮んでいく。
「私の呪符はあらゆるもの奪う力を持つ、例えそれが悪魔の命さえもね、これでもう一度バオス様と話せるはずだからそれでケリを付けなさい。」
「お前……」
そう説明するギンベルグの毛並みが徐々に黒く染まっていた。
「安心しなさい、これ以上手は出さないわ。私はただあなたに私達の王がこんな雑魚と思われたくないだけだから。」
ギンベルグは相変わらず無表情のままそう言い残すと再び後ろの方へと戻っていく。
――あいつも、恐らく、もう……
ネロは無言でギンベルグを見送るとネクロロードに目を向ける。
先程より体は小さくはなっているが、それでも以前のバオスの姿とは程遠い。
だが――
「フ、フハハハハハハハ!」
聞き覚えのある高笑いと共に、怪物はゆっくりと動きだした。




